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26 カミングアウト

 帝国軍が攻めてきたという急報に接し、逃げる準備を整えた俺とシーラは、メルツ達の部屋に向かう。


 扉をノックするとすぐに開かれ、緊張した表情のメルツが部屋に招き入れてくれる。


「俺とシーラは北の大山脈に避難するつもりだけど、二人はどうする?」


 開口一番発した言葉に、メルツは難しい表情を浮かべながら返事を口にする。


「可能なら、メーアを一緒に連れて行ってやってください。……僕は借金がある身ですから命じられた通りに従いますが、もし許されるならここに残りたいと思います。


 元とはいえこの国の貴族として、滅亡の淵にある祖国を見捨てるのは忍びませんから……」


「――そんな! メルツが残るなら私も残る!」


「それはダメだ。この街の領主は戦う気がないようだし、戦っても勝ち目はない。この街は占領されて、野蛮な帝国兵が大勢やって来るんだぞ。


 その時に危険なのが男か女か……分かるだろう?」


「…………」


 なんか、すごく重たい話になっている……でもこれが現状なんだよね。


 帝国兵が野蛮と認識されているのは敵国だからなのか、実際そうなのか。


 シーラはなにか言いたそうな表情をしているけど、言葉を返さないのを見ると自信はないのだろう。


 父親の隊なら全力で反論したんだろうけどね……。


 まぁ上が腐敗している国なので、下に誠実さを求めるのは難しいだろうね。


 そんな事を考えていると、メルツとメーアが揃ってじっと俺を見ているのに気がついた。


 ……そうか、メルツをこの街に残すかどうか、俺が決めないといけないのか。


「メルツ、残って何するの? まさか戦う気じゃないよね?」


「……大軍相手に一人で戦おうと思うほど、愚かではないつもりです。


 正直なにができるかは分かりませんし、なにもできないかもしれません。でも祖国が滅ぶ時に自分だけ逃げるというのは、貴族として育った者の責任として、耐えがたい事なのです」


 ……うん、シーラがものすごく気まずそうにしているからやめてあげて。


 俺はともかく、シーラは国を捨てて逃げる気なんて少しもなかったんだから、気にしなくていいと思うんだけどね……。


「なるほど。俺としてはメルツとメーア、二人の意思を尊重したいと思うけど……メルツ、一つだけ。たとえここに残っても絶対に死なないって約束してくれる? 不慮の事故とかはしょうがないけど、可能な限り。精一杯死なないように努力するって約束して欲しい。


 それができないなら、俺達と一緒に山へ逃げてもらう」


「……わかりました、お誓いいたします」


「絶対だよ。……多分、メルツが死んだらメーアも後を追うだろうから。自分一人の命じゃない、メーアの命も預かってると思って行動してね」


 俺の言葉に、メルツは一瞬メーアを見。視線を合わせて意思を確認したのだろう。固い声で『はい、必ず……』と答えてくれた。


 これで多分、最大限慎重に行動してくれると思う。


「うん。じゃあメーア、メルツはこういう事みたいだけど、どうする?」


「……アルサルさん達と逃げた場合、戻ってくるのはどれくらい経ってからになりますか?」


 それな……。


 正直、帝国の占領下になった街に帰ってくる選択肢はないので、俺とシーラは別の場所に拠点を構える事になると思う。


 現実的な想定としては、状況が落ち着いたらメーアだけ戻ってもらって、メルツと一緒に『アムルサール帝国反乱同盟・アルパ支部』を作ってもらうとかになるだろうか?


 名前は仮称だし、そもそも俺達の事情を話した時に二人が協力してくれるかは分からないけどさ……。


 …………でもそうか、話すなら今かもしれないね。


 俺は開けっ放しだった部屋のドアを閉じ、表情を固くして言葉を発する。


「メルツ、メーア。こんな時だけど……いや、こんな時だから聞いてほしい話がある。


 落ちついて聞いてね……実は俺、アムルサール帝国の先代皇帝なんだ」


 ――後ろでシーラが緊張する気配が感じられたが、参謀としての俺を信頼してくれているのか、なにも言ってこない。


 そしてメルツとメーアは……うん、この顔知ってる。上司が寒いギャグを言った時に反応に困ってる部下の顔だ。


「いや、冗談じゃなくてね。ホントに先代皇帝なんだよ。証拠は……特にないけどさ」


 言葉を続けるが、説得力は増すどころか低下した気がする。


 どうしよう? 後宮ハーレムの間取りとか言ってみた所で、メルツ達が正解を知らないから証拠にならないしな。


 信じてもらうの無理な気がして頭を抱えていると、メルツが戸惑いつつも言葉を発する。


「……今回の帝国軍の侵攻は、アルサルさん絡みなのですか?」


「いや、それは違うと思う。俺達は死んだと思われてるはずだから……って、俺が元皇帝って信じてくれるの?」


「とても信じられない話ではありますが、アルサルさんはこの状況でそんな無意味な嘘をつく方ではないと思っていますので……」


 おおう、俺って意外と信用されてたんだね。


「ありがとう……それで話の続きだけど、今の帝国は宰相に牛耳られていて、皇帝はただのお飾りなんだよ。宰相の意にわなかったら、簡単に殺して首をげ替えられてしまうような、そんな軽い存在なんだ。


 俺の父親も兄達も、宰相に殺された。皇帝ではないけど、将軍だったシーラの父親もだ。だから俺とシーラはいつか反乱軍を組織して、宰相を倒して帝国を取り戻したいと思っている。


 今まではメルツ達には関係ない話だから黙っていたけど、もしメルツが帝国に占領された王国の復興を……王は別人でもいいけど、この国の再独立を望むなら、俺達と一緒に帝国と戦う仲間になって欲しい」


「…………」


「大事な話だし急には決められないだろうから、返事はこの街に来る帝国軍を見てからでいいよ。


 意外といい統治をしてくれたら、そのまま帝国の一部になる選択肢もアリだと思うしね。その時は、俺達の事は内緒にしてくれると助かる」


「それはもちろん、恩人を売ったりはしませんが……」


「うん、そこはメルツを信用してるよ。……そんな訳で、俺とシーラは帝国の支配地域にいる事はできないから、北へ逃げる。


 どこまで逃げるかは分からないけど、そこで新しい拠点を構えてここには戻らないと思うから、メーアがこの街に戻るのは状況が落ち着くのを待って、適切なタイミングで……としか言えないかな。


 メルツがこの街に留まるなら、メルツが安全だと判断したらになると思う」


「「…………」」


 メルツはじっと深く考え込み、メーアは不安そうにメルツを見る。



 少しの時間が経った後、メルツは顔を上げて言葉を発した。


「アルサルさん……でいいですか?」


「うん、今まで通りに接してくれると助かる」


「はい……とりあえず、信用を裏切らない事だけはお約束します」


 メルツはそう言って、メーアに視線を向ける。


「メーア、僕としてはキミも、アルサルさん達と一緒に避難して欲しい。キミを残して死ぬような事はしないと約束するから、しばらくの間だけ……」


 今までのやり取りの間に答えが決まっていたのか、メーアはすぐに返事を口にする。


「わかった……でも絶対無事でいてね。私が逃げるのは、あなたと幸せに暮らす未来のためなんだから。それがなくなってしまったら、もう生きている意味なんてなくなってしまう……」


「――うん、わかった。必ず」



 ……なんかノロケを。もしくは告白の現場を見せられたような気もするが、とりあえずこれで今後の方針が決まった。


 メルツが反帝国軍の同志になってくれるかどうかは帝国の統治次第であり、悪政を期待するようで心苦しいけど、まぁそれは向こう任せだ。


 どのみち帝国と戦うような大仕事、本人の固い意思がないとやり遂げられない。借金のかたくらいの動機では戦い抜けないだろうからね。


 そんな訳で俺達はメーアの準備が整うのを待ち。今日中に街を抜け出すべく行動を開始するのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・1549万8680ダルナ

・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)


配下

シーラ(部下・C級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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