257 遊牧民との外交
キサ父から遊牧民5人と馬20頭の派遣を受け、俺達は草原の拠点へと帰ってきた。
セラードに工作員と草原の干ばつについての報告をし、食料の在庫状況を訊いてみると、
『ジェルファ王国では不作の情報はなく、順調に食料が送られてきています。
加えて旧ザイフ伯爵領でも食料の調達ができるようになり、現状食糧の備蓄は豊富です。
旧ザイフ伯爵領では北部で雨が少なく、不作の気配がありますが、大部分では平年並みの生育状態であるようです』
との事だった。
どうやら今年の干ばつは、北の草原地帯を中心に起きているらしい。
いっそ帝国全土で起きてくれれば、俺達はジェルファ王国から食料を確保できる一方で帝国軍は食料の調達が難しくなり。軍の動きが制限されるだろうから、これからの戦いがやりやすくなるのにね。
――まぁ、さすがにそこまで都合よくいくのを期待するのは無理というものだろう。
今はとにかく目の前の仕事をこなすべく、遊牧民の皆さんが連れてきた馬に食料を満載し、キサ父の元へ戻ってもらう。
自分が乗る馬の他に1人3頭を引いているので、結構な量を積めた。
全部で1000キロくらいあると思うけど、これって何人分になるんだろうね?
俺が約束したのは、『300人の1年分』だ。
復興軍の兵士には1人1日500グラムくらい支給しているようなので、単純に当てはめれば5.5人の1年分くらいだろうか?
この55倍運ばないといけないと思うと、かなりの量だね。
幸い受け取りは遊牧民側が来てくれるみたいだし、兵士と捕虜で4万人を養っている現状を考えれば、300人分は誤差と言ってもいいレベルだ。
セラードに確認しても問題ないとの事だったので、安心した俺は食料を運ぶ遊牧民の皆さんと一旦別れ、東の拠点に向かう。
身軽な分速く移動できるので、時間を無駄にしないよう同時進行の案件をこなすのだ。
東の拠点に着いてみたが、まだ工作員の皆さんは到着していないようだったので、『ここに着いたら待機していてください』というメモを残し。
船便で運ばれてきたのであろうエルフの傷薬があったので、100本を回収してキサ父の元へと向かう。
食料より少し送れて到着したらしく。量を計測し終えたらしい現場で『これで何人の1年分になりますかね?』と訊いたら、『10人分だな』と言われた。
復興軍の倍の効率だけど、遊牧民は羊の肉や牛のミルクから摂る栄養が多いのか。
あるいは結構な数の子供がいるので、子供の分は量が少なく計算されているのか。
どちらにせよ、提供する量が少なくてすむのはありがたい。
継続して食料を取りに来てもらうようにお願いし、ハイタル大王宛の手紙を預ける。
内容は、
『こちらは帝国の元皇帝。
専横を働く宰相を討つための軍を起こすので、大王は帝国東部に圧力をかけ、帝国軍を牽制してもらいたい。
攻め込む必要はなく。国境付近に部隊を差し向けて、警戒させるだけでもいい。
もし攻め込むなら、なるべく犠牲は出さずに食料を奪うだけにしてくれるとありがたい。
協力してくれれば俺が皇帝に返り咲いた後、貴国との友好関係を結んで交易を行うと共に、毎年馬1000頭分の穀物を無償で提供する』
と書いてある。
遊牧民が攻めてきて食料を奪って行くのはよくある事みたいなので、住民も対応に慣れているだろう。
城攻めは苦手なので、街に逃げ込めば手出しできないと聞いている。
そして馬1000頭分の穀物は、復興軍換算でざっと400人の1年分。
キサ父換算なら800人の1年分だ。
ちょっとケチりすぎたかなと思わないでもないが、キサ父によると『十分だ。馬100頭で攻め込んで奪える食料の量は、食料だけを運ぶ馬20頭分ほど。1000頭分は今までの襲撃による成果を補って余りあるはずだ』と太鼓判を押してもらった。
農耕民の感覚だとあまり多くないけど、遊牧民の感覚だとかなりの量らしい。
生産性の違いだね。
そんな訳で手紙を預け。返事を貰ってきてもらう事。
なるべく多くの穀物を持って行ってもらい、道中で干ばつに脅える遊牧民に援助をし、キサ父の影響力を拡大してもらう事をお願いしておく。
大王への貢物は穀物で十分だそうなので、特別用意しなくてすむのは助かる。
キサ父は穀物を運ぶのに隣の部族の馬も借りるらしく。『干ばつなので家畜を差し出せと言っても応じないだろうが、穀物をやるから馬と人手を出せなら喜んで応じるだろう』とゴキゲンだった。
遊牧民の間でキサ父の影響力が強まるのは俺にも利益があるので、ぜひ頑張って欲しい。
多くの穀物を運ぶために、出発は追加の穀物が到着するのを待ってからになるそうだけど、それは問題ない。
早速第二陣の穀物を受け取りに出発する人達を見送り、その日は集落に泊めてもらう事になった。
久しぶりにキサに親子水入らずの時間を過ごしてもらって、翌朝早速東の拠点へと向かう。
まずは北上して川沿いに進んだ所、拠点の手前で合流に成功して、食料の手持ちも十分あるようだったので、そのまま進路を変えて草原の拠点に向かう。
そしてシーラを道案内に残し、俺とキサは一足先に草原の拠点へと戻る。
セラードと相談の結果、訓練は旧ザイフ伯爵領でやるのがいいという事になったが、セラード自身も知り合いがいないか探したいとの事で、こちらからお迎えに行って一日同行し。顔合わせとセラードの知り合い探しをやった。
結果としては、貴族時代に近くの領主だった男爵家の三男と長女、領軍の部隊長が見つかったそうで。仲が良かったらしい三男さんと抱き合って再会を喜んでいた。
セラードは元子爵家の次男らしいので、境遇も近くて話が合うのだろう。
そして次女さん相手には、なにか照れた様子で。ちょっと視線を泳がせながら話をしていたが、もしかして恋の気配とかだろうか?
殺伐とした戦いばかりの日々なので、束の間ちょっとホッコリさせられる。
年上の優しいお姉さんはいいものだよね。
珍しいセラードの姿を見て和み。
心の栄養を補充させてもらった俺は、工作員達と共に旧ザイフ伯爵領へと入るのだった……。
帝国暦169年 8月22日
現時点での帝国に対する影響度……10.979%
資産
・6億3284万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×103(+100)
・伯爵から押収した財産(金貨以外)
・伯爵の仲間から押収した財産
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




