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256 遊牧民との関係

 西に向かう工作員第一陣と別れた俺達は、大草原を南西へと進む。


 キサに『お父さん達がいる場所わかる?』と訊いてみたら、『大体は。放牧地を回る順番は決まっていますから、草が短ければ通過後。長ければ来る前という事で、大まかに絞る事ができます』との事だった。


 頼もしいなと思いながら案内を頼み。草原を走っていると、キサの顔が浮かない事に気が付いて、なにかあったのかと声をかける。


「……草の育ちが悪いです。今年は初夏の雨が少ない気がしていましたが、これでは十分な数の家畜を育てる事ができません……」


 おおう、噂に聞く干ばつで家畜が死に、遊牧民が飢え死にする案件だろうか?


 草原の拠点ではセラードが『雨が少なくて助かりました』と言っていた気がするが、遊牧民にとっては死活問題なのだ。


 見た所草は結構生えているように見えるけど、キサの部族が飼っている分以外も含めて、何千頭かひょっとしたら何万頭もの羊や牛、馬が食べる分としては足りないのだろう。



 不穏な気配を感じつつ、ともかくキサ父を探して回ると。3日目の夕方には見つける事ができた。


 スタート地点が東寄りだったらしく、真っ直ぐ西に移動した時間以外は半日と探さずに合流する事ができ、さすがキサの誘導だと感心しきりである。


 久しぶりに会ったキサ父は、成長したキサの姿を見て大いに喜び。

 俺との再会も喜んでくれたが、一族の人全体を含めて、表情は暗い。


 キサが言っていた通り。雨が少なくて草が育たず、干ばつの気配が漂っているのを気にしているらしい。


 俺は早速、その件から話にかかる。


「放牧の具合はいかがですか?」


「……良くないな、草の育ちが半分だ。このままでは家畜の多くが餓死してしまう。そうなったら俺達も……だ」


 その言葉に、キサの表情が辛そうに沈む。

 以前から聞いていた話ではあるけど、実際目の前に迫ってくるとね……。キサには確か、弟や妹がいたはずだ。


 口減らしをするとなると、まずは子供からになるんだろうね……。


 俺も悲しい気持ちに沈んでいると、キサ父が言葉を発する。


「実は丁度いい所に来てくれたと思っている。頼みたい事があるのだが……」


「俺の方もお願いがあって来たのですが、まずはそちらからどうぞ」


「……子供を預かってもらえないだろうか? できるだけ多くだと助かる」


「それは食料不足の対策ですか?」


「そうだ、このままでは神返しを行わなくてはいけなくなる」


 神返し……子供は神様からの授かりもので、それを神に返すみたいな概念だろうか?

 早い話が口減らしだ。


「俺から結構お金が行っていると思うんですが、それで食糧を買っておぎなう事はできませんか?」


「足しにはなるが、草原に雨が降らない時には農耕民の村にも雨が降らない。

 向こうも不作になって穀物の値段が上がるから、多くを買う事はできなくなる。


 それに、死んでしまった家畜は1年や2年では元の数に戻らないから、その間ずっと食料を買い続けるのはさすがに苦しい」


 なるほど……もっと広範囲で見れば違うのだろうけど、遊牧民が交易するのって草原に隣接する農耕民の村だもんね。

 そりゃ気候も連動するだろう。


 そして食料不足は数年の長期に渡って影響するから、その間子供を預けたい訳か。話は分かった。


 そしてキサが泣きそうな目をして、すがるように俺を見ている。

 弟や妹の命がかかってるんだもんね……。


「事情は分かりました。子供達を預かる事は可能ですが、その前に俺の相談も聞いてください。ここより東の遊牧民と交流はありますか?」


「そちらから得た資金と塩で、東隣の部族は支配下に置いた。もう一つ向こうの部族も半分支配下に置いたようなものだ。


 ……だが、食料がない時に家畜を差し出せとは言えんし、言った所で応じないだろう。


 昔と同じく、力で放牧地を奪うしかないだろうな。その緊張感はすでに高まっている」


「なるほど。ではもっと東の、ハイタルという遊牧民の国は知っていますか?」


「もちろんだ、うちも族長が代わったら挨拶に行くぞ」


 おっと、まさかのここも勢力圏だった。キサが知らなかったのは子供だったからかな?


「影響力は大きいですか?」


「大した事はないな。大王の本拠に近い所だと戦の時に兵を出せと言われるらしいが、こんな辺境までそんな要求は来ない。

 代替わりの挨拶の時に貢物みつぎものを持って行くくらいだな」


 なるほど、ここは帝国からすると辺境だけど、遊牧民にとっても辺境なのか。


 もうちょっと西に行くと大山脈があって、草原はわずかな幅しかなくなってしまう。


 遊牧民の生活には適さないので、実質キサの部族が西の端らしいからね。


「遊牧民の王……大王でしたっけ? その人に手紙を届けてもらう事はできますか?」


「それは無理ではないが、行くなら族長である俺が行かねばならん。今の状況でここを離れるのは、正直やりたくないな」


「なるほど……では、300人分の食糧を供給すると言ったらやってくれますか?

 まずは1年分。その先も応交渉という事で」


 ――その言葉に、キサ父の表情が驚きに染まる。


 たしかキサの部族は数十人だったと思うので、近隣の部族を併せても100人か200人くらいだろう。


 300人分の食糧があればキサの一族はもちろん、近隣の部族にも供給できて、飢えから救えば影響力を確固たるものにできると思う。

 必要とあれば食料の追加もできるしね。


 子供を俺に預ける必要もなくなるし、かなり東の方まで。もしかしたら大王がいる辺りまで影響力を及ぼせるかもしれない。


 そうなったら東から帝国軍を牽制する事ができて、一石二鳥で俺としても助かる。



 ……俺の提案に、キサ父は戸惑いの表情を浮かべてキサに視線を向けるが。キサは『アルサル様なら300人分の食糧を継続して確保する事ができます』と、俺を後押ししてくれる。


 キサ父が戸惑ったのは、遊牧民にとって300人分の食料というのがにわかには信じられない量なのだろう。


 放牧と農耕は面積当たりの食料生産量が文字通りの桁違いだからね。

 人類が数を大幅に増やす事ができたのは、農耕による恩恵がとても大きいのだ。


 キサ父が知っている農耕民の村は交易に行く所だろうけど、あそこは農耕民から見れば辺境で、農業の生産性は高くない貧しい村だ。


 なので実感が湧かないのかもしれないが、農耕は本気を出せば多くの人を養えるのである。


 そして俺には、広大なジェルファ王国が後方の食料供給地として控えている。


 そのおかげで今でも4万人近い兵士と捕虜を養っているのだから、300人分増えた所で大きな問題はない。


 疑わしそうにしていたキサ父も、娘の言葉で俺を信用する気になったらしく。

 最初の食料が届いてからという条件で、手紙配達を了解してくれた。



 なので俺は早速最初の食料を届けるべく。遊牧民から人手を借りて、翌朝早速草原の拠点へと向かうのだった……。




帝国暦169年 8月13日


現時点での帝国に対する影響度……10.979%


資産

・6億3284万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×3

・伯爵から押収した財産(金貨以外)

・伯爵の仲間から押収した財産


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)


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