255 工作員出立
帝国の中央部を囲むように、周囲で一斉に反乱を起こす計画。
それを各地で実践してくれる志願者を選定してもらっている間に、俺は東部出身者から話を聞く。
それによると、帝国の東には『ハイタル』という遊牧民の国があって、時々帝国を襲いに来るので、常設の部隊が置かれているらしい。
遊牧民自体もいくつかの部族に分かれて争っているので大規模な侵攻はないが、遊牧民は馬の扱いが巧みで機動力があるので、帝国側も手を焼いているとの事。
とはいえ城攻めは苦手で、街壁に囲まれた街の中にいれば安全。周囲の農村を襲って食料を奪うのが精一杯であるらしい。
……今はともかく、将来遊牧民が統一されたり、有能な軍師がついたりしたら危ない案件だね。
ちなみに最新の情報が1年前で、今どうなっているかは分からないそうだ。
とりあえず東部への方針としては、出身者に故郷に戻ってもらって、反乱軍の結成に挑戦してもらう。
常設の軍がいるみたいだし、住民の不満が高くなかったりして失敗したら、それはまぁしょうがない。
『可能な範囲で、命を大事に』とお願いしておく。
遊牧民を仲間に引き入れて、帝国軍を牽制できるといいんだけどね……キサ父に話をしてみようかな。
あの人は北の遊牧民だけど、遊牧民同士繋がりがあったりしないだろうか?
そんな事を考えながら東部の情報を集め終わり。食料が届いていないか確認するために北へ向かう。
道中キサの馬に乗せてもらって東の遊牧民の事を訊いてみた所、『その部族の事は知りませんが、冬の食料に困って農耕民を襲うというのは理解できます。本当は穏便に交易できればいいんでしょうが……』との事だった。
キサの部族は近くの農耕民と交易して、羊と交換で穀物や塩を手に入れていたけど、生活は楽ではないようだった。
冬が厳しかったり夏の雨が少なくて草が十分に育たないと、飢え死にする人が出ると聞いた記憶がある。
家族が飢え死にするくらいなら、他の部族や農耕民を襲って食料を奪おうという考えに至るのは、理解できなくもないし、簡単に批判できる事でもないと思う。
誰だって自分と家族の命を優先したいと思うものだ。
キサの部族も、放牧地の奪い合いで隣の遊牧民と争う事があると言っていた。
帝国領を襲いに来ないのは、遊牧民の領域でも西の端にあるせいで、襲撃する数を揃えるのが難しいからかもしれないね。
将来俺が帝国の皇帝に返り咲いたら、周辺の遊牧民との関係も考えないといけないな……とぼんやり考えていると、シーラの『船があります』という鋭い声が聞こえてきた。
しばらく走ってキサが馬を止めてくれたので、降りて見てみると赤い旗を立てた場所にあるのは、懐かしい北の拠点で作った船。
そして船員3人の姿だった。
船員担当をしてくれている元孤児の子達は5人だったと思うけど、訊いてみたら『3人で十分船を動かせるようになったので、あとの2人は北の拠点で傷薬と塩の輸送をしています』との事だった。
成長が頼もしいね。
そしてエルフとの交易も順調なようでなによりだ。
そんな訳で早速事情を話し。船を岸に繋いで、一緒に東部支隊へと来てもらう。
ここはそのうち運河が開通する予定なので、そうなったら将来的にここを通って、帝都近くまで武器や食料。兵士を運んで貰う事もあると思う。
それには船と船員の増加も必要だけど……なにか方策を考えてみよう。
そんな事を考えながら南への道を歩き。夕方になって東部支隊に到着した。
元侯爵やアフマン将軍達に3人を紹介したが、3人は相手が帝国の元侯爵や伯爵と聞いて。緊張しつつ複雑そうな表情を浮かべていた。
この子達も、帝国の侵攻で親や家族を殺され、孤児になった子達だもんね。
ララク達は割り切って復興軍に参加してくれたけど、この子達はどうなのだろう?
一応俺が帝国の元皇帝という話は知っていて、それを受け入れてくれているから、大丈夫だとは思うけどね。
言ってみれば、どっちも現帝国の。宰相の被害者である訳だし……。
ちょっとピリッとした顔合わせを終え。早速明日からの行動を打ち合わせる。
工作員として各地に潜入する人の人選は終わったそうなので、第一陣800人と一緒に北に向かい。
船から降ろした食料を食べながら西に向かい、草原の拠点へ。
そしてそこで準備を整え、帝国の各地へ散ってもらう。
蜂起の期日は来年春の収穫が終わった後。覚えやすいように6月の6日にする事にした。
ちょっと先になるけど、運河の完成と工作員第二陣の派遣を考えると、このくらいの時期になってしまう。
帝国南部とかだと、目立たないように移動するだけで1ヶ月くらいかかるみたいだしね。
人選で期日まで我慢できなさそうな人は除いてもらっているので、耐えてくれると信じたい。
……そして正直、全ての場所で期日まで隠れ通し、一斉蜂起が完全な形で成功するとは思っていなかったりする。
工作員の中から期日まで我慢できなかった人や、裏切り者が出るかはともかく。現地に潜入して協力者を集め。その数が全国で数千人とか数万人とかになれば、絶対に裏切り者や内通者が出るに決まっている。
その対策として、
・全国で一斉蜂起の計画である事は、蜂起当日まで秘密にする
・蜂起の期日は『春の農作業が終わったら』と伝え、6月6日という具体的な日付は可能な限り秘匿する
の2点を徹底しておく。
この2つの情報がなければ、帝国が複数の蜂起情報を掴んだ所で、それが連動しているとは思わないだろう。
最悪のケースとして、工作員が裏切ってこの情報が帝国に漏れてしまった場合でも、広大な帝国に何百ヶ所も火種を撒く計画である。全てに対応するのは難しいはずだ。
そんな話を全体に徹底させ、翌朝早速、第一陣800人が北に向けて出発する。
人選は向こうに任せたけど、アフマン将軍は第一陣に参加。元侯爵は居残りになったらしい。
妥当な配置だと思う。
船員の子達も一緒に船着き場に同行し、船から食料を降ろして全員に配分し、さっそく川沿いに西へと向かってもらう。
そして空になった船には、北の拠点に移送する女の人達10人を乗せる。
船旅に耐えられる人を選んでもらったはずだけど、なにしろ身重の体なので、船員の子達には特に注意を払うようにお願いしておく。
船員の子達も事情を聞いているので、真剣な表情をして了解してくれた。
北の拠点のみんなに宛てた手紙を預け。これから船の輸送需要が増えるから、船の増産と、可能なら船員の増員もお願いしておく。
船はこの前北の拠点に行った時、船大工さん達がやる事がないからと自主的に追加生産していたけど、船員はどうだろうね?
怪我を負った孤児の子供達にエルフの傷薬を使えるようになるのが、体の成長具合からして帝国歴170年以降という話だったから、半年で一人前になるだろうか?
船団を組んだりすればなんとかなるかな?
――そんな事を考えながら船を見送り。俺達は西に向かった部隊の後を追うが、オオカミや魔獣なんかの襲撃に備えて、持ってきた武器の半分はこの部隊に配備した。
元軍人の人が結構いるし、川のこっち側にはあまり強い魔獣は出ないようなので、俺達の。具体的にはシーラの護衛は必要ないと思う。
なので、移動部隊の隊長をやっているアフマン将軍に断りを入れ。このまま川沿いに進んでもらうようにとお願いをして、俺達は南に向かう。
キサの父親と会って、遊牧民の件について話をするのだ……。
帝国暦169年 8月9日
現時点での帝国に対する影響度……10.979%
資産
・6億3284万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×3
・伯爵から押収した財産(金貨以外)
・伯爵の仲間から押収した財産
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




