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254 潜入工作員

 元政治犯収容所こと帝国復興軍東部支隊で、主要メンバーに集まってもらった俺はおもむろに言葉を発する。


「皇帝の口調に慣れていないので、帝国復興軍の軍師として話をします。


 我々はそう遠くない内に、帝国全土で反宰相の。現在の帝国に対する反乱を起こしたいと考えています。


 宰相の影響力が強い中央部は難しいかもしれませんが、それ以外の場所で同時多発的に反乱を起こし、中央部を取り囲むように反乱の輪を作りたい。


 現状、北部・西部・南部では3度に渡る大規模な西方遠征の負担で民の不満が高まっており、反乱の下地はできているというのが我々の見方です。


 ですがあちこちでバラバラに、小規模な反乱が起きたところで、個別に潰されてお終いです。


 なので、時期を統一して一斉に。

 大規模で統制が取れた反乱を起こすのが理想だと考えています。反乱と言うよりも、計画された武装蜂起ほうきが近いかも知れません。


 そのために、きたるべき日に備えて各所に蜂起を主導する人員を配置したいのです。


 ここにいる皆さんにはそれぞれ所縁ゆかりの地があるでしょうから、そこに潜伏して蜂起軍をまとめ上げ。大反乱の準備をしてくれるとありがたいと思って相談に来ました。


 こちらで用意できるのは、資金と若干の人手。武器も多少ありますが、大規模な輸送手段はありません。

 後は人数分の通行証くらいです。


 この任務に志願者を募りたいのですが、いかがでしょうか?」


 俺の言葉に、アフマン将軍が目を輝かせたが、隣に元侯爵の支隊長がいるからだろう。

 元伯爵である将軍は、グッと言葉をこらえる。


 ……この辺はいかにも元貴族って感じがするね。厳然たる序列があって、侯爵より先に伯爵が意見を言うなんて許されないのだろう。


 その地位を失って、何年も奴隷のような環境で働かされてなお、その本能を失わないのは、骨の髄まで染み込んだ習慣なんだろうね。


「もちろん、願ってもない事です。多くの者が志願するでしょう」


 元侯爵の言葉に、全員がうなずく。


 うん、まずは感触良好だ


「それはありがたい。……ところで訊きにくい質問なのですが、候補者の中で地元住民との関係が悪く、この任務に適さないと思われる人はいますか?」


 俺の言葉に全員が考え込む様子を見せたが、侯爵が言葉を発しないのを見て、アフマン将軍が答えてくれる。


「ご質問の意図する所とは違うでしょうが、この任務に適さないと思われる者はおります。

 怨恨えんこんがあまりに強く、復讐の機会を得られたら期日まで待てないだろう者が」


 あー、それはうちのシーラさんもかなり近い存在なので、理解はできる。

 大切な人に危害を加えられたら。今も加えられ続けていたら、当然そうなるよね。


「なるほど、では今回の任務に不適だと思われる人は除いて、そちらで人員を選定して頂けますか?」


「承知しました」


「よろしくお願いします。……それと、多少ですが武器を持ってきたのでここの武装に使ってください。


 蜂起部隊の指導者を志願してくれる人は、近日中に北から食料が届くはずなので、それを待って復興軍の後方拠点へ移動しましょう。

 志願者は何人くらいになりそうですかね?」


「病室にいる者などを除いてほぼ全員。怨恨が強すぎて任務に適さないだろう者を除くと、1600人ほどになるかと思います」


 おおう、そんなにか。


 ここには取り潰された貴族家の奥さんや娘さん、メイドさんなんかもいると聞くけど、蜂起を扇動せんどうするだけなら本人が戦えなくても問題ないもんね。


 ――だけど、いきなりほぼ全員は困る。


「それは……ちょっと多すぎます。運河を北に延伸する作業もありますから、差し当たり半数は残ってください。

 運河が開通したら、第二陣として残りの希望者も移動する方向でいきましょう。


 第一陣は、なるべく広い範囲に散らばるように人選してください」


「わかりました」


 復興軍参謀の肩書きのおかげか、それとも元皇帝というのが効いているのか。

 元侯爵をはじめ、全員が素直に言う事を聞いてくれる。


「東部に関しては今まで出身者をほとんど見かけていないので、情報がありません。

 話してくれそうな人に心当たりはありますか?」


「はい、後刻東部の出身者を集めましょう」


「それは助かります。それと、北からの食糧輸送は川を使って船でになります。

 歩けないレベルで重症の傷病者を後方拠点に移送できますので、その人選も進めてください」


 その言葉に、侯爵以下全員の表情が曇る。


 そして全員が申し合わせたように、シーラに視線を向けた……俺には言いにくい話だろうか?


「こう見えてそれなりに色々な物を見てきておるから、皇帝だから、子供だからと言って遠慮はいらんぞ。構わんから話してくれ」


 ちょっと皇帝を意識した言葉使いで言うと、まだ少し迷っている様子だったが、シーラが力強い口調で『アルサル様はいくつも修羅場をくぐってきておられます』と援護射撃をしてくれたおかげもあって、侯爵は意を決した様子で口を開いた。


「では……まずいと思ったらすぐにでも止めてくれ」


 シーラに向かってそう言うと、言葉を続ける。


「ここでは通常、働けないくらいの怪我や病気を患った者は殺されていましたので、そういった者はほとんどおりません。


 ですがその……、子供を身ごもった女が100名以上おります」


 おおう、そっち系の話か。


 初めてここに来た時、若い女の人を乱暴しようとしていた3人組がいたのを思い出す。

 あの中の1人が、ここの収容所長だったんだよね……。


 そしてそういう行為が行われれば当然子供ができる訳で、働けなくなったりするだろうけど殺されなかったのは、多分『また使うため』なのだろう。


 さらに恐ろしい事に、ここに赤ん坊がいるという話は今の所聞いていない……。


 ――なるほど、いろんな意味で17歳の元皇帝に聞かせる話じゃないね。


「事情は分かった。移動に耐える者は船で後方の拠点に移送しよう。収容するのに適切な場所の心当たりもある」


 北の拠点の女の人達は、ちょっと違うけど似た境遇と言えなくもないので、メンタルケアやカウンセリングみたいな事をしてくれるかもしれない。


 トラウマを刺激するような事になったら、その時は別の場所に収容しよう。



 胃の奥から湧き上がってくるような不快感に耐えながら。

 俺はできるだけ冷静にと努めて、話を進めるのだった……。




帝国暦169年 8月8日


現時点での帝国に対する影響度……10.979%


資産

・6億3284万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×3

・伯爵から押収した財産(金貨以外)

・伯爵の仲間から押収した財産


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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