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250 篭城戦

 篭城戦がはじまって10日が経った7月の4日。


 敵は連日攻撃をかけてくるが、リーズの指揮の下復興軍は巧みな防衛戦を続け、今の所大きな被害は出ていない。


 さすが篭城戦の経験豊富なリーズである。


 一方の帝国軍側は、連日の攻撃で大きな損害を出し。


 本陣の兵も投入して攻撃を強化するなど、こちらの思惑通りに動いてくれている。


 高い街壁の上からだと敵の本陣がよく見えるが、守備兵力は最初の半分くらいだろうか?


 大分手薄になったけど、騎兵300で奇襲をかけるのはまだちょっと危ない感じがする。


 遊撃隊が動いていないのを見ると、ララクは冷静に機会を窺ってくれているのだろう。信じて任せた甲斐があるというものだ。


 ――ただ問題なのは、帝国軍も無駄に攻撃を繰り返すだけではなく。平行して頭も使い始めて、大規模攻城兵器である投石器を作りはじめている点だ。


 投石器は三台。東の本陣手前に作られている。


 多分だけど数日中には完成しそうで、あれで大きな石を叩き込まれたら、さすがにこちらにも大きな被害が出るだろう。街壁が破られる可能性もある。


 本陣近くなので外にいる遊撃隊も気付いているだろうが、遊撃隊があれを破壊してしまうと外に別働隊がいる事がバレてしまい、作戦そのものに支障をきたす事になる。


 シーラもララクもそれは分かっているだろうから、投石器に手を出さないでいる。


 さすがだけど、そうなるとこっち側で対応しないといけないんだよね……。



「……キサ、職工ギルド長の所に行くから馬お願い」


「はい」


 篭城戦では馬の出番がほとんどないのと、エサの確保が難しいので、最終的に残したのはキサの馬だけ。


 その貴重な一頭に乗せてもらって、職工ギルド長の元へと急ぐ。



「……ギルド長、大きな弓を作れませんか?」


 突然やってきた俺の言葉に。ギルド長は一瞬面食らった顔をしたが、すぐに街の防衛に直結する案件だと気付いたのだろう。真剣な表情になって『どのくらいの大きさだ?』と訊いてくる。


「2日で作れる中で最大の大きさの物を。

 こんな感じで台に横向きに固定して、数人で引いて一旦弦を引っ掛けて、レバーを操作すると発射される仕組みにしてください。

 あと、これに合ったサイズの長い矢もお願いします。先端は普通の矢で問題ありません。帝国軍が射ち込んできた矢を流用しましょう」


 そう言いながら、紙にサラサラと大まかな設計図を描いていく。


 これは元の世界でバリスタと呼ばれていた、大きな弩弓どきゅうだ。


 街壁の上に設置すれば、高さ補正もあって製作中の投石器まで届くと思う。


 ――職工ギルド長はすぐに職人を集めて製作に取り掛かってくれ、2日後の夕方には、東の街壁上にバリスタ一基が備え付けられた。

 敵の投石器はまだ製作中である。


 4人がかりで弓を引き、長い矢を発射してみると。弓はちょっと不安定な弾道ながらも、投石器を少し飛び越えた所まで飛んで地面に刺さった。


 うん、上々の成果だ。様子を見に来ていた職工ギルド長と職人さん達も大喜びである。


 1発射つのに1分以上かかって対人攻撃をするには効率が悪すぎるけど、大きな固定目標を狙うなら、数をこなせばなんとかなると思う。


 早速火矢をセットし、点火して発射する。


 命中精度は悪いけど、いっぱい射てばそのうち当たるだろう。


 操作する人が敵の矢にやられないように周囲を板で囲い。簡易砲台みたいにしたバリスタは、早々やられない。

 投石器が完成するまでは一方的に射ち放題だ。砲台だけに……。


 そんな親父ギャグが頭をよぎって、一瞬意識が元の世界のアラフォーサラリーマンに戻ったが。すぐに気を取り直して、敵の火矢に備えて周囲にバケツの水と消火班も備えておく。


 そんな体制で延々火矢を射ち続けていたら、投石器を作っている兵士に火矢が直撃する事例も出はじめ。兵士達がおびえて逃げ出そうとするのを、上官が棒を振りかざして阻止しているのが見える。


 兵士達の士気が低いのが見て取れるが、上官の方も兵士達の扱いが悪いよね。


 盾を持った警護兵とかつけてあげればいいのに……バリスタの矢は普通の矢より長くて重くて威力があるから、盾で防ぐの難しいかもしれないけどさ。


 ……そんな事を考えながら見ていたら、火矢の一本が投石器の上部に突き刺さった。


 火を消そうにもバケツの水が届かない高さで、梯子をかけて消火に向かうが、ここで俺の出番だ。


 さっきから作っていた特製の矢をバリスタで射ってもらう。


 これは先端のやじりの代わりにビンを取り付けたもので、中身は北の拠点で作っている灯油だ。


 戦いの役に立つかもしれないと思って船便で東の拠点に送ってもらい、この前政治犯収容所からの帰りに東の拠点を通った時、一部を持って来たのだ。


 なにかの役に立てばと思ってだったけど、とてもピッタリな出番が回ってきた。


 この世界で流通している油は、元の世界のサラダ油やオリーブ油みたいな植物油なので、灯油はそれに比べれば格段によく燃える。


 あまりに外れたら引火しないだろうけど、バリスタも相当射って命中精度が上がってきたので、数発射てば燃え上がるんじゃないかなと思う。



 そんな訳で発射してみると、1発目は重さが変わったせいか大きく外れてしまったが、2発目以降はわりといい感じの所に飛び、4発目が投石器の下に落ちた。


 ……のだが、引火するかと思ったのに引火しない。


 どうも火と離れすぎているようだ。そうこうしている間に、投石器の上部に点いた火は消されてしまった。


 ……これはあれだね、順序が間違ってたね。先に油を撒いてから着火だった。


 幸いまだ時間に余裕があるので、バリスタの矢を火矢に置き換えて、さっき灯油がバラ撒かれた辺りを狙う。


 ――今度は正確に投石器に刺さらなくてもよかったおかげか、3発目で投石器の下に火が起こるのが見えた。


 慌てて水をかける兵士の姿も見えるが、灯油の火は水では簡単に消えない。


 消化に手こずっている間に火は投石器へと昇っていき、見事一台を全焼させる事に成功した。



 コツが掴めればあとは同じ事をするだけなので、投石器に灯油がかかるように灯油弾を射ち込み、火矢で着火すれば投石器を炎上させる事ができる。


 問題は灯油の在庫が限定的な事で、なんとか今作られている三台は燃やす事ができたが、これ以上作られたら手が出せなくなる。


 どうしようかと困っていたが、敵は俺達が灯油の在庫を大量に持っていると思ったらしく。それ以上投石器を作ろうとしなくなったので、事なきを得た。


 なんか、運も味方してくれている気がするね。



 そんな危ない橋を渡りながら。

 篭城戦は一日一日と続いていくのだった……。




帝国暦169年 7月9日


現時点での帝国に対する影響度……10.779%


資産

・10億3060万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35

・伯爵から押収した財産(金貨以外)

・伯爵の仲間から押収した財産


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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