249 討伐軍襲来
敵襲来の報告に街壁の上に登って西を見ると、2万人ほどの兵士がこちらに向かってきている。
先日まで帝国北西部にあって、北の復興軍を牽制していた部隊だろう。
そしてキサが巧みな乗馬術で街壁の上まで登らせた馬に乗って東へ走ると、こちらからも2万人ほどの兵力が向かってくる。
ウルミ辺境伯領の攻撃に向かっていた部隊だろう。
辺境伯領は攻め落とされて、辺境伯は反逆罪で処刑されたらしい。
領地や財産は宰相派の貴族達で分けられたんだろうけど、辺境伯自身も宰相派だったらしいのに、共食い状態だね。
まぁ、敵と敵が争うのはいい事だ。
そんな事を考えながら南に移動すると、こちらからも5000人ほどの部隊が来ている。
俺達の侵攻に反応した、周辺領主達の連合軍らしい。
敵の総数はざっと4万5000。1万5000の俺達の3倍だ。
誰が総司令官かは分からないけど、それはシーラ達が見つけてくれるだろう。
敵の動き。特に伝令の動きを見ていれば分かるからね。
――そんな事を考えていたら、東から来る部隊の中に、全身金ピカの鎧に身を固め、馬にも白銀の鎧を纏わせた、とても目立つ人がいるのに気付いた。
……もしかしてあの人が総司令官かな? いやさすがにあからさま過ぎるから、フェイクという可能性も……。
思わず疑ってしまうが、周りにいる騎士達の密度。伝令が行き交うルートなんかを考えると、どうやら本当にあの人が総司令官っぽい。
いくら銃による狙撃がない世界とはいえ、戦場であんなに目立って平気なのだろうか?
こちらとしては見つけ易くて助かるからいいんだけどさ……。
そんな事を考えながら観察するが、平地を行軍中だけあって周りの兵士は多く、奇襲をかけられるような状況ではない。
これから隙を窺う時間が始まる訳だが、上手くいくといいね……。
今の所、高い場所から見ても遊撃隊の姿は見当たらないが、シーラの事だから上手に隠れて様子を窺っているのだろう。
なにしろシーラときたら、地面に伏せて綺麗な髪が埃だらけになる事も、必要とあれば泥水に飛び込む事も。全く躊躇しないからね。
武人という括りでも貴族や騎士なら普通やらない事で、まして貴族のお嬢様だったらね……。
本当に全てが戦い全振りで、かける思いの強さが伝わってくる。
その思いを少しでも手助けできるように、俺は俺の仕事を頑張らないといけない。
今はできるだけ長く篭城に耐えて、討伐軍を引きつけるのだ。
――敵は街に近付くと左右に展開し、包囲網を敷きはじめる。
……予定通りの流れとはいえ、敵に包囲されるというのは気持ちのいいものではないね。言いようのない不安感が襲ってくる。
一年近くも耐えたセラード達はすごいな。
大規模な攻城戦となると攻める方の準備も大変らしく、初日は布陣して陣地作り。
2日目は長梯子や破城槌などの攻城兵器作りに費やし、本格的な戦いが始まったのは3日目からだった。
篭城戦はなにより士気を保つのが大切らしく、リーズは戦いが始まる前からこまめにあちこちを回って、兵士達を激励して回っている。
さすが篭城戦の経験者だ。
俺でさえ、囲まれてこちらを攻撃する準備が着々と進んでいるのを見ているしかない時間とか、たまらなく不安になるもんね。
なにもしていないと余計不安になるので、物資の確認に動き回り。とりあえず年内いっぱいは篭城が可能なだけの備蓄がある事。
伯爵から没収した財産は、金貨だけで10億ダルナもあった事などを確認する。
相当悪どく溜めたんだろうね……。
本来領地の住民に返還するべきだけど、そこまでの余裕はないので、解放軍の軍資金にさせてもらう。
金貨以外の財産や、商業ギルド長や他の伯爵と繋がっている人達から没収した財産もあるので、総額はさらに増える予定だ。
財政問題が一気に楽になってとてもありがたい。
そして始まった本格的な戦いだが、篭城戦って弓矢が主力の戦いかと思っていたら、意外にも槍や剣の出番も多い。
基本高い所から射ち下ろす方が有利なんだけど、敵の方が圧倒的に数が多いので、街壁から身を乗り出して弓を射ち続けるとかやっていたら、あっという間に反撃で射倒されてしまう。
不意に顔を出して一発射ってすばやく引っ込むのが基本形で、それだと梯子を掛けて登ってくる敵を阻止できない。
梯子は掛けられたら長い棒で押して向こうに倒してしまえばいいと思っていたが、下で大勢が支えているので、そう簡単にはいかず。
むしろ街壁の縁から数歩引いた所に陣取って、登ってきた敵が姿を現した瞬間弓で射たり、槍で突いたりする。
登るのを許してしまったら、多数で囲んで壁の外に落としてしまう。
梯子からは一人ずつしか上がってこられないので、落ち着いてこの方法で対処するのが、一番味方の犠牲を少なくできて効率的なのだそうだ。
さすが篭城戦のベテランリーズが指導しただけあって、とても実戦的だ。
俺も一応本で篭城戦についての勉強をしたけど、知識と実践は全然違うと思い知らされる。
……て言うか、今思えば本の知識。攻城戦が主で篭城戦の記述はほとんどなかった気がする。
戦術書って基本名将や名軍師と呼ばれる人達が書くもので、そういう人は基本勝ち戦ばかりをしているので、守備に回る篭城戦とかはあまり経験がないのかもしれないね。
あと、リーズの戦術は集中力が必要なので、ベテランの兵士じゃないとできない気がする。
その辺も兵法書に書かれなかった理由かもしれない。
ともかく、篭城戦のベテランが揃っているおかげで戦いの方は順調だ。
リーズいわく、『教国兵より士気が低いので戦いやすいです』との事だ。
そりゃまぁ、あの狂気染みた教国兵と比べたらね……と思ったけど、実際普通に帝国軍は士気が低いようだ。
考えてみれば3回目の遠征軍の残党と言える存在なので、元々兵士や指揮官の質は低いだろうし、北の草原か西のジェルファ王国に攻め込んで負けた。あるいはなんの成果も挙げずに撤退してきた部隊なので、その点でも士気が低いのだろう。
西の部隊に比べて東の部隊が少し元気な気がするのは、西の部隊が復興軍に備えてずっと警戒待機だったのに比べて、東の部隊はウルミ辺境伯領を攻撃して戦果を挙げた部隊だからなのだろう。
もしかしたら、略奪とかして勝ち戦の旨味を知ってしまったのかもしれないね。
略奪は兵士の士気を高めると兵法書にも書いてあったけど、その分倫理観を低下させてしまうので、復興軍では採用していない。
それどころか、厳しく禁止にしている。
俺達は住民の支持を得るために、『悪い貴族を倒す正義の軍隊』という旗印を掲げる必要があるからね。
悪党同士の戦いになったら、その道の第一人者である宰相に勝てる訳ないので、ここは重要だ。
兵士の士気は、なにか違う形で保つべく努力をしよう。
今の所はリーズの指揮がいいおかげか大きな問題は出ていないけど、これは敵味方入り乱れる事がない篭城戦だからというのもあると思う。
敵味方入り乱れる野戦とかになったら、逃亡して敵に寝返るのも容易だし、敵から誘いが来る可能性もあるからね。
なにしろ、元は同じ帝国軍なのだ。
もっともそれはこちらから見ても同じなので、将来的には寝返り工作とかしたいと思う。
今はまだ時期じゃないけど、敵の戦意が低下してきたら可能性あると思うんだよね。
釣る餌は……やっぱり待遇かな? 味方の士気を維持するためにも、ある程度の待遇を維持できるように頑張りたい。
そんな事を考えつつ、俺は街の外で敵将に奇襲をかける機会を窺っているだろうシーラの姿を探し。当然見つからないけど、元気でやっていて欲しいと、離れてしまった想い人に思いを馳せるのだった……。
帝国暦169年 6月28日
現時点での帝国に対する影響度……10.779%
資産
・10億3060万ダルナ(+10億)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
・伯爵から押収した財産(金貨以外)
・伯爵の仲間から押収した財産
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




