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248 篭城の準備

 向かい合う街の有力者3人を前に、俺は愛想よくを意識して言葉を発する。


「すでにご存知とは思いますが、我々は帝国の政治を正すために立ち上がった帝国復興軍です。


 帝国を裏から支配して国を私物化している宰相と、宰相に取り入って私欲をむさぼる貴族達。連中にこびを売って利益を得、民を苦しめる者達全ての敵である一方。虐げられる良民達の味方です。


 一般住民に危害は加えませんし、もし狼藉ろうぜきを働く兵士がいたらこちらで厳しく対応しますので、遠慮なく申し出てください」


 その言葉に、少し緊張を緩めた様子なのが2人。冒険者ギルド長と職工ギルド長だ。


 そして、商業ギルド長は表情を強張らせている……なるほどね。


「ところでこの街についてお訊きしたいのですが、お三方はギルド長の職について長いのですか?」


「わ、私は8年ほどになります」

「自分は5年ほどに」

「7年ほどです」


 順に、商業ギルド長・冒険者ギルド長・職工ギルド長だ。


 とりあえず、商業ギルド長は前評判通りでよさそうかな。


「よし、ララク。商業ギルド長を捕らえて牢に放り込んでおけ」


「はい」


「――な、なぜですか!?」


 俺の命令一下、ララクと兵士2人が動揺する商業ギルド長を捕らえて、部屋の外に引きずり出す。


「復興軍は住民の味方だとおっしゃったではありませんか! 私は善良な一領民ですよ! なぜこんな酷い事を、お考え直しください!…………」


 大声で叫ぶ商業ギルド長の声が遠ざかるのを聞きながら、俺は穏やかな声を意識して、脅えた様子の2人に向けて言葉を発する。


「復興軍にはこの街の出身者もいましてね。大方の情報は彼等から聞いています。

 ですがもし我々の情報が間違いであり。商業ギルド長は善良な方だとお2人がおっしゃるのであれば、今すぐ連れ戻して謝罪します……いかがでしょうか?」


 そう言って呆気あっけにとられている2人を見回すと、さすが不測の事態に慣れているのか、冒険者ギルド長が先に言葉を発した。


「あの男にかばい立てする所などありません。善良などととんでもない、領主様――領主に取り入って悪逆の限りを尽くしてきた男です。


 あいつのせいで心中したり離散になった家が、娘を売らざるをえなくなった家がどれだけある事か……」


 そう言って、悔しそうに奥歯を『ギリッ』と鳴らす冒険者ギルド長。

 隣では口数が少ないタイプらしい職工ギルド長が、悲しい顔をしてうなずいている。


 ……この2人は信用できそうかな。


「前情報が間違っていなかったようでなによりです。では当面、この街はお2人を中心にして取り仕切ってください。

 商業ギルドに関しては、『こいつなら信用できる』という人がいれば、紹介をお願いします。


 これからのこの街に関しては、立て篭もって討伐軍相手に篭城戦をやる事になります。


 こちらでも食料や燃料などを集めていますが、可能な限り個々人でも集めてください。

 今年の税金は無しにしますので、その分を購入費用に当てる方向で」


『今年は税金無し』という言葉に、2人が大きく目を見開く。

 伯爵の税金取り立て、相当厳しかったんだろうなぁ……。


 今年は税金無しの話で2人は一気に解放軍に好意的になったようで、篭城戦に全面的な協力を約束してくれた。


 俺の方もホッとして握手を交わし、冒険者ギルドからは義勇兵と後方支援要員を出してもらい。職工ギルド長は『武器を作るぞ』と言ってくれたが、篭城中は煮炊きに使う燃料が貴重になるので、燃料を食い合う武器や防具の新規作成は中止にして、今ある在庫を買い取らせてもらう。


 その費用として冒険者ギルドに500万アストル。職工ギルドに700万アストルを渡し、足りない分は後日精算という事にした。


 ――財布の中身が寂しい。伯爵、財産いっぱい溜め込んでくれてるといいなぁ……。



 そんな事を考えながら会談を終え。他にもあれこれと篭城戦の準備を整えていく。


 エリスかクレアさんがいてくれれば随分楽だっただろうにね……領主派閥の人を洗い出して拘束する作業もやっているので、ミリザさんもいてくれると助かったと思う。


 とはいえ、ないものねだりをしてもしょうがないので、俺があちこちを回って忙しく働くしかない。


 幸い冒険者ギルド長と職工ギルド長の2人が『こいつなら信用できる』と若い商店主を紹介してくれ。話を聞いてみると、商家の生まれだが領主と商業ギルド長のせいで父親が密輸の濡れ衣を着せられて処刑。


 財産を没収されて、母親は失意の内に病死。

 子供がいなかった親戚の小さな商家に引き取られ、今はそこの商店主をしているという人らしい。


 悪い事をしている人達には、すぐに恨みを持つ存在が見つかって便利だね。


 会って話した結果能力も高そうだったので、近隣の村から食料と燃料を買い集める仕事をやってもらう事にした。

 預ける経費は1000万アストルだ。



 いよいよ財布の中身が心配になってきた所で、街を占領して3日目。領主居城を取り囲んでいたリーズから、『領主が降伏を申し入れてきました』という報告が来た。


 条件があるらしいので聞いてみると、


・伯爵とその家族の命を助ける事

・馬車10台分の財産持ち出しを認める事

・あとの事はそちらの好きにしてよい


 という、とてもステキな内容だった。


 こんな状況でも伯爵と一緒に城に立て篭もっている人達がいるのに、その人達はどうでもいいから、自分達だけ助かりたいというお話だ。それも財産付きで。


 これはぜひ皆さんの意見も訊いてみようと思い、100枚くらい書き写して『こんな提案が来たのですが』と矢文で城内に射ち込んでみたら。翌日までにほぼ全ての兵士と使用人が投降してきた。


 無理もないと思う。


 投降してきた人達は一旦軟禁状態に置いて、街の人の意見を参考に、悪い事をしていなかった人は釈放。

 悪い事をしていた人は、内容に応じて処罰をという事にする。


 そして本命の領主一家だが、ほとんど守る人もいなくなった所にリーズ達が突入し、こちらの損害なしで全員を捕縛してくれた。


 処置はどうしようか迷ったが、裁判所もないしここは当事者に丸投げしようという事で、冒険者ギルド長と職工ギルド長をトップにした街の自治組織にそのまま引き渡す事にした。


 伯爵はなにか色々叫んでいたけど、知った事ではない。

 いい統治をしていたのなら誰かがかばってくれるだろうし、そうでないなら自業自得だ。


 幼い子供とかはおらず、息子は噂に聞いた素行そこう最悪青年なので、特に心も痛まない。


 むしろそいつがやったという悪行を聞く方が心が痛くなった。

 遊びで子供を弓で射つとか、若い女の子を無理やり連れ去って、女の子はそのまま行方不明とか、悪事が酷すぎる。

 反乱が起きなかったのが不思議なくらいだ。



 そんな街だったので住民も大いに協力的で、篭城の準備は急速に進み。お城からは大量の財産とそこそこの食料を押収して、篭城戦に備える。


 溜め込まれていた財産は膨大で、数えるだけでも数日かかりそうとの事だった。


 そんな作業を進めながら、シーラ達騎兵隊を遊撃隊として街の外に送り出し。伯爵一家が公開処刑されたという報告を忙しい中聞き流しつつ仕事を進め、敵が迫っているという報告を受けた6月の24日。


 俺は街壁の門全てを閉ざすように命令を出し、いよいよ篭城戦へと突入するのだった……。




帝国暦169年 6月24日


現時点での帝国に対する影響度……10.779%


資産

・3060万ダルナ(-2689万)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35

・伯爵から押収した財産(数え中)


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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