247 貴族領攻略戦
いよいよ本格的に帝国領への攻撃を行う事になり、その準備が着々と進んでいる。
部隊は本隊が歩兵1万6000人と、伝令偵察用の騎兵若干。遊撃隊が騎兵300騎。
篭城戦では騎兵の出番はあまりないので、馬はほとんど遊撃隊に回し。残りは伝令と輸送用にセラードがいる草原の拠点に置いておく。
そして攻撃する貴族領の選定だけど、まず草原から近い街。さらに包囲する敵をなるべく分散させるべく、広くて街壁が長い街がいい。
あとは篭城戦をやるなら住民の協力は不可欠なので、今の領主が嫌われている街。
加えて、財産や食料をいっぱい溜め込んでくれているのが理想だ。
その条件に合う場所を探すべく。いろんな街出身の兵士達から情報を集めた所、ザイフ伯爵領がいいという結論に達した。
領地は大草原に面していて、領都も比較的北寄り。
交通の要衝にあるので街は大きく、領主はがめつくて税金が高いので、住民の評判も悪い。
商人に賄賂を要求し、断ると濡れ衣を着せて財産を没収したり。息子は素行が悪く、街で乱暴狼藉を働くのが日常茶飯事らしく、そこ出身の兵士が嫌悪感特盛の表情で語ってくれた。
そんな人なので、当然財産を溜め込んでいる可能性が高い。
おまけに宰相の腰巾着で、元々子爵だったが、宰相の権力を使って隣の子爵家に濡れ衣を着せて取り潰し。その領地を吸収して伯爵になったという、心おきなく攻め滅ぼせる悪党だ。
唯一の問題は、隣の領地を乗っ取るために宰相に大量の賄賂を送っただろうから、そこで手持ちが尽きて城内にお金がない可能性だが。隣を乗っ取ったのは4年前との事なので、それだけあれば相当回復しているだろう。
かなりがめつい性格みたいだからね。
そんな訳で攻撃目標も決まり、侵攻部隊は武器と持てるだけの食料を持って、南東方向にあるザイフ伯爵領に向かう。
ありがたい事に、北を警戒して布陣している帝国軍のさらに東側だ。
行軍は進行速度を合わせる為と少しでも多くの食料を運ぶために、騎兵も馬から降りて徒歩行軍。馬には人の代わりに荷物を積む。
一部の偵察隊だけは騎乗のままで、進路上の情報を集めながら草原を進み。10日目には伯爵領の間近まで迫った。
この先は奇襲と速攻を併用する事にして、将来遊撃隊になってもらう予定の騎兵隊に先行してもらい、領都街壁の門を押さえてもらう。
本隊はここに荷物を置いて、武器だけ持った身軽な姿になり。荷物の監視に1000人を残して、残りの1万5000人は騎兵隊を追って領都に急進し、街に突入。そのまま領主の居城を占領するという算段だ。
伯爵領出身の兵士によると、ここから領都までは歩兵が急ぎ足で進んで半日ちょっと。
騎兵ならその半分以下の時間で突進できるらしい。
攻撃を察知されて妨害されたらダメだけど、奇襲に成功すれば一日で街を制圧する所までいけると思う。
領主の居城については守りの堅さが分からないけど、街だけ占領できれば多少時間がかかっても問題ない。
街を占領して一息ついたら、ここに置いた荷物を回収し。
あとは領主の居城にある食料と、討伐軍が来るまでに周囲から買い集めた食糧とで篭城戦を耐え抜く。
遊撃隊となる騎兵隊は、街を占領したら討伐軍が来る前に外に出て。分散して潜伏しつつ、討伐軍に奇襲をかける機会を窺ってもらう。
そう段取りを再確認し、行動開始は明日の早朝という事にして、今日はゆっくりと休んでもらう事にした。
翌朝。まだ薄暗いうちから行動を開始して朝食を済ませると、進路を確認する先行偵察隊。続いてシーラ率いる騎兵隊の順で送り出す。
地元出身者を案内につけたので、迷う事なく領都まで直進できるはずだ。
――やや遅れて、俺も本隊と一緒に出発し。南へと向かう。
一応道中で攻撃を受けるかもしれないと警戒しながら進むが、復興軍の噂はここまで広がっていて、住民はみんな歓声を上げて俺達を迎えてくれた。
中には騎兵隊が通り過ぎるのを見て興奮し、先走って領主から派遣された代官を殺してしまったという村もあり。領主の嫌われ具合がよく分かる。
だけど今はまだ全体を解放する事はできないので、『領都を占領して、そこに篭って帝国軍を迎え撃つ予定だから、今はまだ軽挙には出ないように。代官を殺したのは「反乱軍がやった」と言えばいい。
あとは籠城のための食料と燃料が欲しいので、余裕があれば領都に届けて欲しい。お金はちゃんと払うし、帝国軍には「反乱軍が奪っていった」と言えばいいから』と説明して回る。
通り道の村々で同じ事をやってかなり忙しいが、俺はキサの馬に乗って移動できるおかげで本隊の速度についていく事ができ。予定通り昼過ぎには領都郊外に到達した。
シーラ達騎兵隊の奇襲は成功したようで、街壁の門は開け放たれていて、主力部隊はなんの抵抗も受けずに街に入る事ができ。住民の大歓声に迎えられた。
シーラに会って話を聞くと、『門にいた番兵は我々の姿を見て逃亡。街中の警備隊もあっという間に逃げ出して、今は領主の居城に立て篭もっています。数はおそらく、150から200という所でしょう』という事だった。
150から200という数は、伯爵領の領都にいる常備軍としては普通の数だ。
暴政を敷いているみたいなのでもっと兵士の数が多いかと思ったけど、3度の西方遠征に兵力を出しただろうから、余裕がないのだろう。
俺達の攻撃があまりに急だったので、街の住民から兵士を集める時間はなかっただろうし。たとえあったとしても、今の状況を見るとどれだけ集まったかは疑問だ。
1万5000を擁する俺達からすると相手にもならない数なので。本隊を率いるリーズに、そのまま領主居城の攻略を命じる。
続いて遊撃部隊の参謀を務めているララクを呼び。『街の代表者を集めて』とお願いしたら、『もう集めてありますので、こちらへどうぞ』と返事が返ってきた。
ララク、優秀になったね……。
そんな事に感動しながら街の中のちょっと立派な建物に案内されると、入り口にはもう復興軍の衛兵が立っていて、俺の姿を見てピシッと敬礼してくれた。
統率が行き届いているようで頼もしい。
案内された部屋には緊張した様子の人が3人いて、案内してくれたララクと、他の兵士が5人。俺の専属護衛であるキサも含めて、武器を持った7人が睨みを効かせると、一層脅えたように不安を顔に出す。
俺が『帝国復興軍軍師、アルサルです』と自己紹介すると、柔らかい口調だったおかげか、俺が若者だったからか。3人は少し緊張を解いた様子で、それぞれ名前と肩書きを名乗ってくれた。
それによると、3人は『冒険者ギルド長』『商業ギルド長』『職工ギルド長』であるらしい。
この街は交易が主要産業なので、伝統的に商業ギルド長が街の代表を兼ねているのだそうだ。
そして事前にこの街の出身者から得ている情報によると、『商業ギルド長は伯爵の手先』『冒険者ギルド長と職工ギルド長は不明』という事だった。
情報提供者が『徴兵→西方遠征→捕虜→復興軍』という過程を経ている都合上、一年以上前の少し古い情報なので、まずはその頃から人が代わっていないかの確認をしないといけない。
これからしばらくこの街を拠点にするに当たって重要な事なので、俺は用心深く相手を観察しながら言葉を発するのだった……。
帝国暦169年 6月18日
現時点での帝国に対する影響度……10.779%(+0.5)※帝国北部にある伯爵領の領都を占領
資産
・5749万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




