245 水の道
政治犯収容所改め、復興軍東部支隊の拠点から北に向かって馬を走らせる。
辺りは一面岩と砂だらけの荒野で、所々に背の低い木が点在している程度だ。
遊牧民が暮らす草原よりも植生が乏しく、動物も少ない。
そんな光景を眺めながら走って行くと、急に大きな木の影が見え。近付いていくと、広い川が流れていた。
当たりだ。
たとえ砂漠に片足突っ込んだような荒地であっても、雪が降る山と海があれば、その間を結ぶ川が存在するものだ。
木の葉を浮かべてみると北西に流れていったので、東の拠点方向で海に注いでいるのだと思う。
――つまり、船を使っての水運が可能という事だ。
この辺りは広大な平野なので、ここより下流に滝とかの航行不能ポイントはないだろう。
この辺りに船着場を作れば東部支隊への補給が可能になるし、それ以上も期待できる……。
「ねぇシーラ、キサ。ここに来るまでに高低差って感じた? 登り坂だったとか、下り坂だったとか」
「いえ、ほとんど平らだったと思います」
「私も同感です」
「ありがとう。よし、一旦支隊の拠点に戻ろうか」
そう言って再び馬に乗るが、高低差がほとんどないという事は、ここまで運河を通せるという事だ。
川と繋いでしまえば、北の拠点・東の拠点・東部支隊の拠点までが水路で繋がる事になり。さらに運河を南下すれば、帝都近くの湖まで船を乗り入れる事が可能になる。
将来帝都攻略を目指す時、重要な輸送路になってくれるだろう。
支隊の拠点に戻った俺は事情を説明し、細い水路でいいので運河を川まで延伸してくれるようお願いする。
囚人時代と同じ作業なので嫌がられるかと思ったけど、現状特にやる事はないし、戦力の補給と進撃の支援になるのならと、むしろ食い気味に受け入れてくれた。
同じ作業でも、やらされるのと自分の意思でやるのとでは全然違うのだろう。
そんな訳で東部支隊の当面の行動方針も決まったので、俺は一旦復興軍に戻る事にする。
偵察だけの予定だったのに、ずいぶんと大事になったものだ……。
とはいえ、結果的には大きな成果に繋がった。まとめてもらった名簿によると、元部隊指揮官クラスも多数いたので、いずれ義勇兵を大々的に募る日が来たら、部隊長として大いに働いてくれるだろう。
――そんな訳で、帰り道は北ルートを使う。
あの川が北の拠点まで繋がる海に注いでいるのはほぼ間違いないと思うけど、一応確認はしておかないとね。
そんな訳で進路を北に取り、川にぶつかってからは流れに沿って進んでいく。
拠点から川までは、馬を飛ばして一時間ちょっとくらいだろうか。
どのくらいで運河が開通するかは分からないけど、何十年にも渡って宰相の利権のために少しずつ掘り進んできた運河が、終点に到達したら一転宰相に牙を剥く戦略施設になるのだ。
なんとも皮肉が効いていると言うか、因果応報を絵に書いたような話だ。
そんな事を考えながら、川に沿って下っていく事5日。
一面の草原地帯を進んでいると、地平線の彼方にぼんやりと山の影が見え始めた。
……そして、なんとなく見覚えのある山なような気がする。
「ねぇシーラ、あの山に見覚えない?」
「あります、大山脈の東端ですね。もう少し進めば東の拠点に到達すると思います」
やっぱりそうだよね。
東の拠点は海を東の端まで進み、湾奥に注いでいた大河を遡上した場所に設置したので、あの大河の上流部が東部支隊の拠点近くを流れる川だった訳だ。
方向的に可能性は高いと思っていたけど、まさにピッタリ的中だった。
しばらく進むとシーラが言った通り東の拠点があり。
誰もいなかったので置いてある物資の一部を回収して南西に向かい、キサの故郷である遊牧民の村。その馬繁殖所に到着する。
馬を調達したい所だけど今は手持ち資金が乏しいので、キサ兄に挨拶だけして一晩泊めてもらい。翌朝から西に進んで、合計8日で復興軍の拠点に帰り着いた。
意外な事に、行きにかかった日数と同じである。
行きはウルミ辺境伯領を避けて遠回りしたせいだろうか?
ともかく遠征の報告をすると、指揮官不足を心配していたセラードとリーズはとても喜んでくれた。
現在復興軍は、兵士1万8400人。戦闘には参加しない後方勤務2200人。ジェルファ王国から非公式援軍の指揮官と医務官97人。東部支隊2000人近くという大部隊になった。
これに加えて復興軍討伐に来た部隊の捕虜が2万7000人いるので、セラードによると2万人は兵士として当てにできるそうだ。
捕虜は装備付きで捕らえているから、本人の意志さえあればそのままこちらの兵士になってもらえるのでとても助かる。
残りの7000人も装備だけは回収して転用できるので、東部支隊の分はこれで賄えるだろう。
ただ、この先も考えると義勇兵を募ったりしたら大量の装備が必要になる。
調達の当ては……近くにジェルファ王国という、最近帝国の脅威が減ったので軍隊を減らしている国があるよね。
もちろんいざという時に備えて武器の備蓄は必要だけど、復興軍が活躍するほど『いざという時』が起こる可能性が低くなるので、頼んだら武器や防具を回してくれそうな気がする。
という訳でララクを通して、ジェルファ王国の国王と宰相、軍務大臣と内務大臣辺りに連絡を取ってみる。
代償は……やっぱりお金を払う必要あるよね。
食料も今は去年天然化学肥料で豊作だった分という事でタダで貰っているけど、来年からはお金を払う必要があると思う。
……一番手っ取り早い金策は、どこかの貴族領を攻め取って財産と収入源を奪ってしまう事。
拠点も確保できて一石二鳥だけど、現有戦力でそれができるだろうか?
どこかを攻め取る所まではできそうだけど、維持は難しそうだよね……。
――となると、採れる手段はおのずと限られてくる。
俺はその手段を検討するべく、復興軍の主要メンバーを集めるのだった……。
帝国暦169年 6月4日
現時点での帝国に対する影響度……10.279%
資産
・5749万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)
※9話に誤字報告をくださった方ありがとうございます。こっそり修正しておきました。




