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244 新部隊の運営

「余はアムルサール帝国第26代皇帝、アムルサール26世である」


 十分溜めて発した俺の言葉に、8人の元貴族達は強い困惑の色を見せた。


 それはそうだろう。目の前にいるのはごく普通の格好をした17歳の青年だ。

 自分が皇帝だと思っている頭おかしい奴という認識の方が自然かもしれない。


 アフマン将軍はシーラに視線を向け、シーラが黙って頷くのを見て目を見開いたが、それでもまだ状況が飲み込めないのだろう。言葉を発せないでいる。



「……なにか、信じるに足る証拠はありますか?」


 8人の中で一番年長に見える人。たしか元侯爵だという初老の男性が言葉を選んで。俺が本物でもギリギリ不敬にならない言葉で訊いてくる。


「川で溺れた振りをして帝都から逃げ出したので、ほとんどなにも持ち出せず物証はない。


 あえて言うなら、ここにいるシーラは後宮ハーレムにいたので皇帝時代の余を知っておる。

 もう一人後宮にいて皇帝時代の余を知っておる者がいるが、今ここには来ておらん。


 あとはそうだな、後宮周りの間取り図を描いたり、勅令状ちょくれいじょうの形式を書いたりはできるぞ。

 命じられるがままハンコを突いていただけだが、文章は見ておったからな」


 そして実際偽造もしたしね。


「……恐れながら、書いてみせて頂く事は可能でしょうか?」


 お、口調の丁寧さが増した。


「かまわんぞ」


 そう言って、後宮と数回行っただけの謁見の間の間取り図をサラサラと描いていく。


 ――描いていて思ったのだが、これ証拠になるのだろうか?


 後宮は皇帝以外の男子禁制だったので、この人達も間取りなんか知らないと思う。


 ……まぁ、謁見の間は分かるか。


 そう思いながら大雑把に描き上げ、シーラ経由で元侯爵に渡し、次は勅令状を書きにかかる。


 その間に間取り図は8人の間を回覧され。元侯爵が元男爵の一人に耳打ちすると、その人は『しばし失礼致します』と言って、間取り図を持ってテントを出て行った。


 なるほど、元囚人の中にリーズみたいな昔後宮にいた人がいるのだろう。



 そんな事を考えながら勅命状のサンプルを書き上げ。以前偽造した印章があるけど、あれはしまっておく事にして『ここにハンコ』とだけ書き。シーラ経由で元侯爵に渡す。


 元侯爵は食い入るようにそれを見つめ。他の6人も集まって覗き込むが、ピンときていない様子だ。


 物は問題ないはずなので、勅令状を見た事がないのだろう。

 そんな頻繁に見るものではないし、本物を見た事がないと偽物かどうかの判定なんてできないからね。


 唯一元侯爵だけが真剣に見つめているのは、本物を見た事があるのだろう。


 果たしてお眼鏡に適うだろうか……。



 ――ちょっと緊張しながら見守っていると。険しい表情をしながらじっと紙とにらめっこしていた元侯爵が丁寧な動作で紙をテーブルに置き。一旦立ち上がると、床に片膝かたひざをついた。


「たしかに、まごう事なき皇帝陛下の勅令状です」


 そう言って頭を下げたのとほとんど同時に、間取り図を持ってテントを出て行った元男爵が慌てた様子で戻ってきて、床に片膝突いて頭を下げる。


「確かに後宮の間取りであると確認が取れました!」


 相次ぐ判定に、どうやら俺が元皇帝である事はかなりの信憑性を得たようで。全員が床に片膝突いて臣下の礼をとってくれる。


「うむ、信用してくれて嬉しく思うぞ。

 ……それで、余は宰相を討って帝国の政治を正したいと思っておる。協力してくれるか?」


「もちろんでございます! 元より我等宰相とは因縁のある身ですし、あのような者をのさばらせておくのは、国ためにも民のためにも良かろうはずがありません。


 私はこのままここで朽ち果てるのだと思っていましたが、もう一度戦う機会を与えて頂けるなら、こんなにありがたい事はありません。この老骨ろうこつでお役に立つ事があれば、なんでも致しましょう」


 ――うん、『皇帝陛下のために』的な言葉が出てこないのをみると、まだ100パーセント信用してはいないのだろう。


 とりあえず今はそれでいい。協力に関しては宰相が敵という点で全面的に得られるだろうし、俺を元皇帝である可能性が極めて高い人と認識してくれれば、人事に不満も出にくいだろう。


 元とはいえ侯爵経験者がどこの誰とも分からない若造の下につくのは、色々抵抗があるだろうからね。



 そんな訳で、編成上の問題点を解消し。軍人経験者らしい元侯爵を帝国復興軍・東部支隊長に。

 アフマン将軍を防衛隊長に。

 元伯爵の人が若い頃に財務副大臣をやった事がある文官畑の人らしいので、参謀長に任命して、事務作業から拠点と部隊の庶務全般をお願いする。


 後の細かい編成や運営全般は任せて大丈夫だと思う。

 経験豊富なベテラン揃い。それも貴族家当主を勤め、宰相に睨まれるくらいに有能だった人達だ。

 俺が下手に口を出さない方がいいと思う。


 もちろん、なにか問題があれば口を挟むけどね。



 そんな感じで内部の部隊編成と運営を任せ、俺は外と関わる案件に考えを巡らせる。


 食料は当面帝国からの供給に頼るとして、防衛隊に装備する武器がない。

 監視兵から奪った物があるけど、100人分くらいしかないので全然足りないのだ。


 自作する資材もないので、他所から運んでくる事になる。

 問題はそのルートだけど……。


 そう考えながら、俺は荒野に掘られている大きな溝を眺め、次いで北に視線を向ける。



「……シーラ、北の様子を見に行きたいんだけど、同行してくれる?」


「了解しました」


 俺の言葉に、目的も訊かずに即了解してくれるのは嬉しいね。


 ここから北へなんて、なにもない荒野を見に行こうと言っているようなものなのに。



 シーラから寄せられる信頼のあつさを感じながら。食料の受け取り部隊が無事に帰還して食糧供給が確保されたのを見届けて、俺とシーラとキサの3人は北へと向かうのだった……。




帝国暦169年 5月25日


現時点での帝国に対する影響度……10.279%


資産

・5749万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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