242 収容所の運営
政治犯収容所内の広場……と言うか運河を掘った後の土捨て場に結構な人数が集まったので、シーラに俺達の事を伝えてもらう。
本来俺がやるべきなんだけど、俺はあんまり肺活量がないせいか大声出せないし。囚人達は警戒しているのか、ちょっと遠巻きにこちらを見ているので、距離的にもシーラの肺活量に頼るしかない。
そんな訳で、シーラの声で
・我々は宰相一派の専横を除き、国を正すために立ち上がった帝国復興軍である
・諸氏の中で志ある者は復興軍に加わり、我々と共に宰相一派と戦って欲しい
・この場所は当面反乱が起きた事を隠し、今まで通り運営して帝国から食料を供給してもらうので、故郷に帰ったりなどはしばらく待って欲しい
・表向き今まで通り運営するために、帝国兵に変装して南の運河終点まで馬車で食料を取りに行く人員がいる。演技に自信がある者・馬車を扱える者は名乗り出て欲しい
・帝国軍の逆襲に備えて防衛隊を編成する。反乱に当たって武器を取った者はそのまま防衛隊に志願するか、それを望まないなら武器を返却して欲しい
・事務作業もあるので、得意な者の協力を求む
という内容を伝えてもらう。
みんな関心があったのか、食事をしていた人も手を止めて聞いてくれ。話が終わると早速防衛隊や復興軍に、変装や事務作業にと志願者が集まってくる。
とりあえず防衛隊志願者には、逃げた監視兵達の捜索と捕縛。そして遺体の回収をお願いする。
事務室にあった名簿によると監視兵は94人らしいので、全員の所在を確認したい。
今現在すでに捜索に当たっている人達もいるので、防衛隊は状況が落ち着いたら改めて編成する事になるだろう。
そして事務作業志願者には、収容者全員の名簿作りをお願いする。
名前と年齢、性別、出身地、元の地位、特技、この先の身の振り方の希望、特記事項など。
復興軍に志願を希望するかも聞いてもらう。
最終的にはシーラの面接と、アフマン将軍の内申書なんかを加味する事になる。
宰相の不興を買って政治犯にされた人が多い流刑地のはずだけど、本当に悪い事をして流刑になった人もいるかもしれないからね。
そんな段取りを整え、俺は最優先事項の食料調達に意識を移す。
ここに来る途中で見た光景を思い出すと、運河の終点に小さな小屋があった。
南からの食料はあそこまで船で運んで、そこから馬車に積み替えてここに運んでくるのだろう。
小屋は濡らしてはいけない物の一時保管所といった所か。
問題はその受け渡し方法で、囚人に知っている人がいればよかったんだけど、どうやら監視兵だけでやっていたようだ。
なのでまずは事務室を漁って、受領印みたいな物がないか探してもらう。
輸送担当だった監視兵を捕縛できると一番いいんだけどね……。
そんな事を考えながら、鎧をはじめとした帝国兵の装備。水を運んでくる樽、馬車の整備などの準備を整える。
馬車を扱える人も確保して。これで一応、明日の朝から食料を受け取りに向かう事ができる。
そう食料関係の段取りを整え、広場に戻ってみると、監視兵の遺体が集めて並べられていた。
俺の姿を見つけたシーラが『現状殺害46名、捕縛8名です』と報告してくれる。
書類によると全部で94人いるらしいから、あと40人か。
収容所を捨てて逃げた人達だろうけど、追っ手の皆さんの頑張りに期待したい。
一人でも逃げ延びて反乱の情報が伝わったら、食料の補給が来なくなって大ピンチだからね。
……とはいえここは一面の荒野で、食料はおろか水も調達できないから、逃げるのは簡単ではないはずだ。
唯一の可能性は南の運河に辿り着く事だけど、騎馬隊を率いて捜索に行ったアフマン将軍に南を重点的にと言ったから、多分追いつけると思う。
囚人の逃亡を難しくしていた不毛の大地が、今監視兵の逃亡を難しくして反乱を隠蔽する役に立っていると思うと、皮肉なものだね。
――とはいえそんな感傷に浸っている時間はないので、死者の埋葬をお願いして、俺は捕縛者の尋問にかかる。
監視兵達はおおむね質が悪いのが集められていたらしく、シーラがちょっと脅したら全員素直に情報提供に応じてくれた。
……まぁ、シーラの『ちょっと脅し』はガチで怖いからね。
槍を大きく振って、鼻先0ミリにピタリと突きつけられ。重たい声で『返答次第で生き残るチャンスをやろう』なんて言われて氷のような目で見下ろされたら、命がいらない人以外は全員質問に答えると思う。
そんな訳で情報収集をしたら、食糧輸送を担当していた人がいたので、その人から
・朝……と言うか昼近くに出発する
・昼過ぎに運河終点に着くと小屋に食料が納めてあるので、それを馬車に積み。樽に水を汲んで戻ってくる。馬にも水を飲ませる
・船の水運部隊と顔を合わせたら軽く挨拶をする
・たまに連絡事項があると、小屋にメモが置いてある。囚人を受け取る時などは時間を合わせて会う
という情報を得た。
大分大雑把な方法だけど、原則会わないならやりやすくて助かる。
無人の荒野なので、置いておいた荷物が盗まれる心配もないのだろう。
小屋は雨対策というより、野生動物対策らしい。
大型の魔獣とかは出ないけど子犬やウサギサイズの小動物はいて、たまに食料を齧るのだそうだ。
とりあえず明日までに必要な情報は入手でき。逃亡した監視兵達も、順次捕縛・殺害の報告が入ってきている。
収容所の管理運営は一応の軌道に乗ってきた感じがするので、後の事は収容所の人達に任せて、日も暮れてきたので俺は休ませて貰う事にする。
今日は疲れたし、明日からも忙しい。
元監視兵のテントを借りて寝ようとした時、シーラが遠慮がちに言葉を発した。
「アフマン将軍と話をしてきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「うん、もちろんいいよ。積もる話もあるだろうしね。
食料庫にお酒があったから、2・3本手土産に持って行くといいよ。ついでに収容所の様子とか、帝国の様子とか分かる範囲で情報を集めてきてくれると助かる」
「――ありがとうございます。キサ、アルサル様の護衛をよろしく頼みます」
「はい、お任せください!」
そんなやり取りを経て、シーラは少し嬉しそうに出かけていった。
……若干嫉妬しないではないけど、父親の旧友と。平和で幸せだった時代の記憶を共有できる人と会い、父親の思い出話などをできるのだ。そりゃ嬉しくもなるだろう。
いつか俺にも楽しそうに笑いかけて欲しいけど、それは宰相を倒してシーラ父の仇を討ち。
母親と妹を助け出した後じゃないと叶わない夢なんだろうね……。
そんな事を考えてちょっと悲しくなりながら。俺は一日の疲れから急速に夢の世界へと落ちていくのだった……。
帝国暦169年 5月24日
現時点での帝国に対する影響度……10.279%
資産
・5749万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)
※240話に誤字報告をくださった方ありがとうございます。こっそり修正しておきました。




