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241 政治犯収容所を維持する方法

 監視兵を追い払い、政治犯収容所を解放する事に成功したが、問題はこの先だ。


 食料庫を見たが、備蓄されていた食糧は1日分か2日分だった。


 これでは2000人の政治犯を復興軍の拠点に連れて行くには、全然足りない。


 復興軍から食料を運んできてもらうにも、ここまで来るのに馬を飛ばして8日かかった。

 俺達が急いで戻って情報を伝え、食料を運んでくるまでには多分20日とかかるから、とても待てない。


 現地で調達しようにも、辺り一面荒地で、食料はおろか水すらない。


 ……わりと深刻な状況で、これをなんとかする方法は一つしか思いつかない。


 すなわち、『今まで通り帝国に食料を運んでもらう』だ。


 反乱が起きた事を隠し。今まで通り運営されているように見せかければ、必要量の食料は自動的に供給されるのである。

 これを利用しない手はない。


 作戦行動中からこの事を考えていた俺は、シーラが戻ってきて無事を確認した後、早速行動を起こす。


「シーラ、大声で全員ここに集まるように言ってくれる。声量に関してはシーラが圧倒的だからさ。


 キサ、馬に乗って辺りを走りながら収容所が解放された事と、可能な人はここに集まるように呼びかけてきて。

 それで辺りを一周したら、岩の所に置いてきた荷物回収してきて」


「「了解しました」」


 二人共ピッタリ重なる返事をして、シーラは戦場での指揮用に鍛えたよく通る声で参集を告げ。キサは馬に乗って駆け出していく。


 俺は全員が集合するのを待つゆとりもなく、集まってきた人からとりあえず武器を持った戦いの心得がある人達に、生き残った監視兵達の捜索と、可能なら捕獲を命じる。


 そして、それ以外の人からは手当たり次第情報を収集する。


 それによると、ここにいる囚人は2000人ほどだと思うけど正確な数は不明。

 監視兵は100人ほどだと思うけど、正確な数は不明。

 毎朝馬車5台が南に向かい、水と食料を積んで戻ってくる。

 食料は十分な量が支給されておらず、みんなお腹を空かせている……。


 お、これはいかん。とりあえず空腹はよくない。覇気を削いだり、イラつかせたり、判断力を鈍らせたり、体力を落としたりと、とにかく空腹は悪い影響を及ぼす。


 俺達の評価を上げて信用を得るためにも、大至急食糧事情を改善する必要がある。


 ――という訳で、今集まっている収容者から調理ができる人に集まってもらい、食料庫にあった食材を解放して多めに料理を作ってもらう。


 そして料理ができるまでの間に、情報収集を再開だ。


 収容所長は元子爵家の次男だったが、喧嘩をして他の貴族の息子を殺してしまい。死刑になる所を、宰相派だった父親の嘆願でここの所長として追放刑になったという、わりとろくでもない存在らしい。


 できるだけ早く対応しないとと思っていたら、監視兵の捜索に出た人から『死んでいるのを発見しました』という報告が入った。


 どうやら最初に見た女性に乱暴を働こうとしていた男達の1人で、キサに射殺いころされた内の1人だったらしい。


 所長自らなにやってるんだ……いやむしろ所長だからなのか?


 複雑な気持ちになりつつ情報収集を続け、シーラに『知り合いいる?』と訊いてみるが、悲しそうな目をして、黙って首を横に振った。


 シーラの家が取り潰されたのはもう7年か8年前だから、ここに送られてきた人がいても、もう生きていないのかもしれないね……。


 悲しい気持ちになりながら情報収集を続けていると、突然野太い声で、『おまえ、トラフの所のシーラではないか?』と声をかけられ、シーラがハッとしたように視線を向ける。


「――アフマン将軍ではありませんか!」


「おお、やはりシーラか! 立派になったな、前に見た時はこのくらいだったのに」


 どうやらシーラの知り合いが見つかったらしい。


 初老の男性は両手で50センチくらいの幅を作って見せるが、いくらなんでもそんなに小さくはなかったと思う。

 感覚で物をしゃべる人っぽいな。


 とはいえシーラはとても嬉しそうで、めったに見る事ができない笑顔を浮かべている。


『トラフ』はたしかシーラの父親の名前だったと思うので、それを呼び捨てで呼んでいる事。シーラが『将軍』と呼んだ事からすると、軍人だったというシーラ父の知り合い。

 年齢を考えると上官とか先輩で、幼い頃のシーラを知っているという事は、家族ぐるみの付き合いがあったのだろう。


 ――幼い頃のシーラを知っているとか、うらやましいな。きっと可愛かったんだろうな……。


 そんな事を考えていると、シーラは俺に話を向けてくる。


「アルサル様、この方は父の剣の師匠だった方です。

 伯爵家の三男で本来貴族位を継ぐ立場にはなかった所を、軍人としての優れた才覚と功績で、新たに子爵家を興す事を許されたほどのお方です。


 将軍、こちらの方はアルサル様と言って、宰相を討つべく立ち上がった帝国復興軍の軍師兼実質的な指導者。今の私がお仕えする主君です。

 他の肩書きもありますが、それは後刻……」


 シーラは将軍をかなり信用しているみたいだけど、さすがにいきなり元皇帝の話はしないようだ。

 この慎重さ、好ましいね。


 俺の方も名乗ってアフマン将軍も自己紹介をしてくれるが、握手をした手は老人らしいしわが寄ったものでありながら、びっくりするほどの力があった。

 元優秀な武人というのは伊達ではないのだろう。


「将軍はどうしてここに?」


「それがな、軍を引退して悠々自適の生活を送っておったら、いきなり兵士達が来て捕らえられた。

 なんでも息子が反帝国の陰謀を企てておったとかで、当主だった息子は処刑。先代のワシはここに流刑という訳じゃ。3年ほど前の事になる」


「当家と同じですか……」


 シーラが暗い声で言う。


「まぁそういう事じゃな。……トラフの事は、なにもしてやれんですまなかったな」


「いえ、皇帝の勅命とあれば一貴族にどうこうできる話ではありません。悪いのは全て、皇帝陛下を傀儡かいらいとして権力を欲しいままにしている宰相です」


「うむ……それで、おまえ達は宰相を討つための軍を起こしたと言ったか」


「はい。今回ここに来たのも、その仲間を集めるためです。

 少し予定が狂って、偵察だけのはずが少人数での強襲になってしまいましたが、別の場所にはすでに2万を越える兵士が集まっています」


「ほう……」


 シーラの言葉に、アフマン将軍の目が鋭くなる。

 武人の顔だ。


 そして俺は、ここぞとばかりに口を挟む。


「ここの収容者で、信用できて能力もある人に協力をお願いできたらなと思っています。

 シーラと2人で選定に当たって頂けませんか?


 ――あ、その前に監視兵の残党を全員殺すか捕らえるかしたいのですが、協力願えますか?」


「無論だ」


 おお、めっちゃやる気で助かる。

 3年ここにいると言っていたから、積もり積もった感情があるのだろう。



 そんな訳で、ここの監督はシーラにお願いし。食事ができたらそれを配るのと、武器を配ったのでそれが暴走しないように監視してもらう。


 俺は荷物を回収して戻ってきたキサと一緒に、アフマン将軍と将軍が知っている武人系の囚人達をカーミラの所に案内し、即席の騎馬隊を編成して逃げた監視兵達を探してもらう。


 特に、南に逃げた兵士達は要注意だ。


 反乱が起きた事を隠して帝国に食料を供給し続けてもらおうと思っているので、情報が漏れるのは絶対にまずい。


 その事を伝えて将軍達を送り出し、俺はキサと2人で収容所の事務室になっていたテントに向かう。


 かなり雑に運営されていたみたいだけど、最低限監視兵と囚人の名簿くらいはあるだろう……と思っていたら、監視兵の名簿はあったけど囚人の名簿はなかった。


 ただ、受け入れ人数と死亡人数を記録して『現在1952人』と書かれた数字があるだけである。


 どれだけいいかげんな運営してたんだ……そして囚人は人間ではなく、一塊の数字として扱われていたんだね。



 気分が悪くなるのを感じながら、それでも俺は必要な書類を集め、シーラの所に戻る。


 拠点は攻め落とすのも大変だけど、占領したあと維持管理するのも大変なのだ……。




帝国暦169年 5月24日


現時点での帝国に対する影響度……10.279%


資産

・5749万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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