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24 俺が役に立つ道

 メルツさんとメーアさんが加入して10日。パーティーとしてはとても順調な冒険者生活を送れている。


 唯一の問題点としては、荷物持ちの役目さえ失ってしまった俺の存在価値がほぼ皆無な事くらいだ。


 シーラにしてみれば、いずれ帝国に対して反乱を起こす時の旗印として有用なので、俺を手元に置いておく事には価値があるのだろう。


 だけどそれだけでは限りなくヒモと言うか、お飾り感が半端ない。


 なのでなにか俺の存在意義をと色々考えるが、今からシーラに武芸を習ったり体力をつけようとしても、3年かけてシーラには遠く及ばず、メルツさん以下。メーアさんといい勝負になれるかどうかくらいだと思う。


 そしてそのレベルなら、俺じゃなくても代わりはいくらでもいる。


 ……色々考えた結果、俺は寝る前のシーラと二人きりの時間に、真剣な口調になって言葉を発する。


「ねぇシーラ、俺勉強をしようと思うんだけど」


 俺の言葉にシーラはわずかに戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに真面目な表情になる。


「それは良い考えだと思います。私もアルサル様には勉学の適性があると思っておりました」


「……それは単に武芸の適性がないだけじゃない?」


「そんな事はありません。グレートベアと戦った時、とっさに援護を手配してくださった判断は素晴らしいものでしたし、メルツとメーアへの対応も見事でした。


 私なら、メーアに上級傷薬を使う判断はしなかったでしょう。その場合は、我々は今でも仲間を得られていなかったはずです。


 結果的に、上級傷薬を与える判断は英断でした。アルサル様には参謀の素質があります」


 おおう……なんかずいぶん買われてるな。


「クエスト手伝えなくなるけど問題ない?」


「問題ありませんし、仮にクエストに支障をきたすとしても勉強なさる事をお勧め致します。


 ……言い方は悪いですが、クエストにおいてアルサル様の代わりになる人材はいくらでもおります。ですが優秀な参謀は、国中を探して一人見つかれば上出来なほど貴重な存在なのです。


 一騎当千と評される、一人で千人の兵士にあたいする働きをする武人がいれば、戦闘には勝てるかもしれません。


 ですが戦争に勝つためには、一人で万の兵士を。時に十万の兵士を指揮できる参謀が必要なのです。


 それを得られる可能性があるのなら、目の前の些事さじになどにこだわっている場合ではありません」


 おおう……ホントに評価が高いな。


 プレッシャーが半端じゃないけど、シーラがここまで見込んでくれていると知り、俄然がぜんやる気が湧いてくる。


「うん、じゃあ悪いけど、クエストの方は任せるね……それでもう一つ相談なんだけど、この犬のぬいぐるみについてる宝石、全部使っちゃってもいいかな?」


「それは構いませんが……王都へ行って勉強なさるのですか?」


「それも考えたんだけど、メルツさんに訊いたらこの国の学校は貴族じゃないと入学できないみたいなんだよね。


 個別に師匠を見つけて弟子入りする方法もあるけど、内政・外交・兵法・地理・歴史・技術と色々勉強したいと思っているから、それだと効率が悪い。


 なによりせっかく落ち着いたこの場所を離れたくないから、本を読んで勉強しようと思ってる。だから、お金がかかると思うんだよね」


 この世界の本は、元の世界では考えられないほど貴重で高価な品なのだ。


 まず字が読める人がほとんどいないから需要が少なく、出回っている数が少ないから希少価値があるし、印刷技術もないから全部手書き写本。紙も高価だ。


 基本貴族しか読まないものだから装丁そうていも豪華で、美術品に準じる扱いになっている。


 この街で一番大きい商会があって、宝石を売ったり上級傷薬を買ったりするついでに訊いてみたけど、安いものでも一冊200万ダルナ。高い物は1000万とか、それ以上する物もあるらしい。


 犬のぬいぐるみの宝石はまだ沢山残っているけど、こんな高額な本を沢山買ったら、あっという間になくなってしまうだろう。


 読み終えた本を下取りに出すとしても、時間の問題だ。ホントに、後宮ハーレムにいた時に宮殿にあっただろう本を読んでおきたかったね……。


 そんな事を思い出していると、シーラは得心とくしんがいった表情になる。


「なるほど、そういう事でしたら存分にお使いください。足りなければ私が稼いできますから」


「いや、さすがにそれは申し訳ないよ」


「優秀な参謀を育てるためであれば、申し訳ない事などありません。むしろ必要な投資です!」


「――う、うん……」


 シーラに顔を近づけられ、ちょっとドキドキしながら返事をする。


 なんか責任重大になってきたな……。




 そんな訳で、翌日から俺はクエストに同行するのをやめ。宿に閉じこもって本を読む生活に入る。


 まずはこの街最大の商会と交渉し、本を買い集めてもらう所からだ。物語の類は避けて、実用書中心にと依頼する。


 とりあえず在庫としてあった品は全て買い取り、あとは重複不可でなるべく多く手に入れてもらう。読み終わったら、7割の値段で買い戻してもらうという条件になった。


 この街にはないけど、王都へ行けば貴族向けの本屋があるそうで、わりと短期間でまとまった量が揃うだろうとの事だった。ありがたい。


 ……そんな訳で、俺の引きこもり読書ライフが始まる事になる。


 本は高価な品なので用心のため、商会へ行くのは朝シーラ達と一緒にと決まり。10日に1回のペースで本を仕入れに行く以外は、ほぼ引きこもりの生活だ。


 案外と言うか、かなり性に合っていると思う。


 ただ、元の世界の本と違って大きくて重たいし、なにより高価なものなので、ベッドに寝転んで読む訳にはいかない。


 椅子いすと机で、姿勢を正して読むのだ。



 メモを取るための紙とペンも用意して、参謀目指して勉強の日々が始まる……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・437万7380ダルナ(-3万7200)

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ(かなりハゲてきた)


配下

シーラ(部下・D級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)

メーア(パーティーメンバー・E級冒険者)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 宝石犬からただの犬に!? 冒険者をやっていて物語がどんな方向に動くのか気になっていたのですが仲間を得て、皇帝さまは参謀になるべく行動するということでもっと先が楽しみになってきました 現在…
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