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237 帰る場所

 大草原に戻る前にアルパの街に寄り、セファルさんと弟君に会う。

 今はティアナさんが運んでくる塩と北の拠点に運ぶ物資の管理と、捕虜収容所の物資の管理を担当してくれている。


 弟君は最初に会った時に患っていたくる病がすっかり完治したようで、元気よく歩いていた。


 セファルさんが会うたびに感謝の言葉を伝えてくるので、ちょっとこそばゆい。



 それはともかく、北の拠点での給料支払いで手持ち資金が寂しくなったので、塩の売上を受け取りに来たのだ。


 ジェルファ王国は海から遠く、元々塩の値段が高いので、帝国の通行税がなくなった後でもそこそこの売上が出ている。


 その売上3200万ダルナを受け取って一息をつき。

 情報交換をして特に問題がない事を確認した後、『これからもよろしくお願いします』と言って東に向かう。




 帝国との国境の街まで来て、そこから北に向かって道を逸れ。物資集積所に立ち寄ると、完全武装をした数十人の軍人が俺達を待ち受けていた。


 一瞬身構えたけど、シーラが平然としているので危険はないのだと判断し。馬を降りると、一人が一歩前に出て綺麗な敬礼をしながら言葉を発する。


「アルサル様、お久しぶりです!」


「……あれ、ララク? なんでこんな所にいるの?」


 声の主は、元孤児で冒険者を経てジェルファ王国解放軍の部隊長になり、今はジェルファ王国軍の指揮官をしているララクだった。


 少し前に帝国軍が王国に攻めてきた時、後方の出撃拠点を逆侵攻して占領しに行った時以来なので、そんなに久しぶりではないような気もしないではない。


 それはともかく。話を聞いてみると『帝国で内戦が始まり、王国に対する脅威が減ったので、今までの恩をお返しするべく参上しました』との事だった。


 後ろに並んでいるのもララクと同じく、元孤児で現王国軍幹部の子達らしい。

 その数97人だそうだ。


「……97人って、全員じゃない? みんな今は王国軍の中核でしょ? 王国の守りは大丈夫なの?」


「内戦中の帝国が王国に大軍を差し向ける余裕はないでしょうし、我々がいないと全く軍が機能しないという訳でもありません。


 戦いの経験を積んだ優秀な指揮官候補が育っていますし、そもそも王国軍は兵力を減らす予定です」


 ――なるほど。確かに現状の王国軍は国力に対して戦力過大なので、敵の脅威が減れば縮小するのは当然の流れだ。


 そもそもこの世界、大規模な常備軍を維持する事自体が難しい。


 食料の生産力が低いので、生産性がない軍隊に多くの労働力を常駐させている訳にはいかず。

 帝国みたいな巨大な国家はともかく、普通は各地方に領軍と呼ばれる少数の兵士がいるだけ。


 領軍は普段、各領地で治安維持や街の警備隊を務めていて、いざ戦争になった時は兵士として住民を徴集し、領軍の兵士を隊長にして30人とか100人とかの部隊を編成するのが基本形だ。


 ジェルファ王国もその基本形に戻って軍を削減するのだろうけど、帝国の脅威がなくなった訳ではないので、段階的に減らしていくらしい。


 そしてそれに紛れて、ララク達97人は王国軍を辞め、復興軍に合流しに来てくれたらしい。


「……個人的にはありがたいけど、本当にいいの? みんなせっかく故郷で平和に暮らせるようになったのに」


 俺の言葉に、ララクがちょっと苦笑しながら言葉を発する。


「俺達には家族がいません。家族がいない故郷というのはその……昔の記憶ばかりが頭をよぎって、あまり居心地のいい場所ではないのです。


 せっかくここまで育てて頂いたのですから、我々は前を向いて生きていきたいと思います。

 そのために、お世話になった方々の。俺達を育ててくれたエリス国王とアルサル様のお役に立ちたいのです」


 ララクの言葉に後ろに並ぶ96人を見ると、全員が一斉に力強くうなずく。


 ――ありがたい話だ。とてもありがたい話だけど……。


「気持ちは嬉しいけど、本当に大丈夫? 復興軍の兵士達は元帝国兵。なんなら今も、立場は違うけど帝国兵だよ。


 みんなの家族を殺したのも帝国兵なのに、一緒に戦うのは辛くない?」


「そこは悩ましい所でしたが、割り切ろうと決めた者だけがここにいます。

 今となっては、エリス国王が俺達の面倒を見てくれたあの宿。そして共に過ごした訓練所が我々の故郷、帰るべき場所なのです」


 割り切ろうと決めた者だけって、全員なのでは……全員が割り切ってくれたという事か。


 それはすごく助かる話ではあるけど……。


「エリスの宿と訓練所が故郷だと言うなら、なおさらジェルファ王国に留まってエリスを守ってあげるべきじゃない?」


「エリス国王を守る一番の方法は、アルサル様を手助けして帝国の皇帝に返り咲いて頂く事でしょう?


 そもそも我々を保護して、居場所を作ってくださったのはアルサル様です。

 おまけにシーラ教官もご一緒とあれば、ここで恩を返さずしてどこで返すのだという話です。


 エリス国王も賛同してくださり、我々に『退職手当』として麦1万袋を下さいました。

 順次ここに運ばれてくる事になっています」


 おおう、エリスの全面支援まであるのか……。


 復興軍の食糧は今の所、去年王国の北部で天然化学肥料を導入して収穫が増えた分のうち、半分を俺の取り分にするという契約でエリスが。実質ジェルファ王国が提供してくれているが、この先も考えるといくらあっても困るものではない。


 王国軍を辞める兵士達に、退職金ではなく食料の現物を支給したのは、辞める理由とその後の行動を把握した上で、『ジェルファ王国として公式に復興軍の支援はできないけど、兵士達経由で支援しよう』というエリスの配慮なのだろう。


 本当にありがたくて涙が出てくるね……。


 ここまでしてもらってはもう断る理由がないので、ありがたく好意を受け取る事にする。


 セラードからも『兵士はいるけど部隊長や指揮官クラスが不足している』と言われているので、まさにうってつけだ。


 ララク達は幼少期から将来の指揮官候補として育ててきたし、とても信用が置ける存在なので、安心して部隊を任せられる。



 ――ジェルファ王国からの非公式援軍を得た俺達は一路大草原へ。帝国復興軍の拠点へと向かう。


 そこでララク達を紹介するが、復興軍と馴染むには時間がかかるだろう。


 ララク達の心は整理がついていると言うけど、それでも家族の仇かもしれない相手を実際に目にしたら心が揺れるだろうし。帝国兵の側も、若いララク達に指揮されるのは反発があるだろう。


 ララク達の能力に関しては実力を見れば分かって貰えると思うけど、それで全員が納得するとも限らない。


 なので、現場指揮官として兵士達に絶大な信頼があるリーズと、戦闘能力に関しては人間全体でも上位に入るだろうシーラの協力も得て、馴染むように力を尽くす。


 その間にセラードにアルパの街郊外の捕虜収容所まで兵士達を引き取りに行ってもらい、復興軍の戦力を現時点での最高潮まで充実させる。


 大草原に雨が降る初夏までには準備が整い。次の攻勢をかける事ができるだろう。



 その時に備えて、俺は作戦の立案を。まずは情報収集へと向かうのだった……。




帝国暦169年 5月12日


現時点での帝国に対する影響度……8.279%(±0)


資産

・5817万ダルナ(+3176万)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・帝国復興軍部隊長97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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