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236 新しい交易所

 北の拠点での用事を済ませ、ふところが寂しくなった俺は、持てるだけの塩を担いで大山脈を南に越える。


 途中でエルフの男の人と接触し、3人で担いできた塩19袋と引き換えにエルフの傷薬57本を手に入れたが、セラードと約束した部下の重傷者全員を回復させるにはあと500本必要なので、全然足りない。


 塩の在庫は大量にあるので、俺は試しに交渉を持ちかけてみる事にする。


「交易所の支部を作ってもらう事はできませんか? 塩の在庫は沢山あるのですが、ここまで運ぶ手段が限られるのです」


「人族と日常的に関わる気はない」


 おおう……思いっきりバッサリ切られたな。

 この人ティアナさんの弟さんで、お姉ちゃんの情報を提供したりしてちょっと仲良くなれた気がしていたんだけど、やっぱりエルフは基本人間が嫌いみたいだ。


 ――とはいえ、この返事は想定内である。


「では、海狸かいり族とならどうですか? 以前は塩分を手に入れるために、海狸族の集落まで行って海草や塩魚を取引していたのでしょう?

 それが塩に代わるだけなら、大した問題はないのでは?」


「…………」


 お、即答で断られなかった。脈がありそうだ、もっと押してみよう。


「海狸族に間に入ってもらえば、むしろ人間と接触する機会は減りますよ。それに、塩の取引を今より増やす事ができます……そういえばまだ需要ありますかね?」


「需要はある。腐るものではないから、蓄えておけばいいだけだ」


 おお、頼もしいお言葉だ。

 そういえば以前『手に入る時に1000年分でも溜めておけばいい』みたいな事を言っていたよね。


 基本なんでも自給自足できるエルフが唯一外から買わないといけないものだけに、執着がすごい。


 そして長命種のエルフなので、『1000年分買い溜め』も現実的な選択肢なのだろう。


 俺としてはありがたい事なので、そのまま粘り強く説得を続けて、無事『エルフの村交易所、海狸族集落近く支店』の開設了承を勝ち取る事ができた。


 名前は俺が勝手に付けただけだけど、久しぶりに元の世界のサラリーマン時代を思い出す交渉だった気がする。



 そんな訳で、北の拠点から近い海狸族の集落近くに交易所ができる事になり。こちらの輸送は格段に楽になって、大量の取引ができるようになった。


 海狸族は元の世界で言うとビーバーとカワウソを足したような種族で、川を堰き止めてダムを作ってそこを集落にしているが、その手前までは船で行けるので、船で大量の塩を運びこむ。


 一方エルフ達はティアナさんを見ても分かるように身体能力が高いので、大量の傷薬を運んできて、大量の塩を持って帰る事ができる。


 今までとは効率が段違いで、もっと早くこうしていればよかったなと思うが、今まで取引実績を積み重ねた信用があってこその支店開設だと思うので、どのみちこのタイミングになっただろう。


 交易所はエルフさん達が建ててくれた、小さい小屋である。


 中には大きな木箱が置かれていて、俺達はそこに塩を入れておく。


 あとは適時エルフさん達がやってきて、1キロ分くらいを目安に作った容器一杯の塩を持ち帰る代わりに、傷薬一本を置いていくというシステムだ。


 海狸族製作の魚の胃袋で作った袋は大きさに多少のばらつきがあるので、これの方が安定した取引ができる。


 袋の製作数も限られるみたいだし、この袋は防水性が高くて復興軍側でも需要があるので、そっちで使いたい。


 エルフのみなさんはなんか独自の袋を使っているようなので、先方の輸送にも特に問題はない。


 仕組み上人間とエルフが接触する事はなく。一応建前として海狸族が仲介者をやってくれ、エルフが来た時には計量に立ち会ってもらう事になる。

 信用していない訳ではないけど、こういうのは形式が大事だからね。


 海狸族の皆さんには報酬として、エルフの村製のもりが1年に3本贈られるらしい。


 少ないような気もしたが、海狸族の人口はあまり多くないので、これで十分なのだそうだ。


 エルフ製作の武器は丈夫で長持ちするみたいだから、需要を満たしたらそれ以上は必要ないという事だ。


 いいよねこの欲のない精神。人間も見習えば争いの半分くらいは減る気がする。


 海狸族は手が水かきみたいになっていて細かい細工が苦手なので、エルフの武器は大物漁をする時などにとてもありがたいらしく。これで三者とも満足いく取引関係ができ上がった。


 エルフの傷薬も順次船で東送してもらうようにお願いし、北の拠点で預かっている怪我を負った幼い孤児達も、体が上級傷薬の負荷に耐えられるようになったら、適時回復するようお願いしておく。



 そんなこんなで仕組みが作動するのを見届け。

 エルフの人達わりとこまめに回収に来るなと、改めて塩の需要が高い事を確認しながら、目標の傷薬500本が集まった所で、南に戻る事にする。


 今回の旅は後方拠点の充実と共に、張り詰めた戦場から遠ざかってのんびりと過ごす、いい息抜きにもなったと思う。


 特にシーラは、色々張り詰め過ぎていた感があったからね。



 そんな訳で大山脈を南に越え。


 捕虜収容所に傷薬500本を届けて、これでセラードとの約束を果たす事ができた。


 彼等はセラードやリーズと一緒に現王都。当時は帝国西方新領州都で教国相手に長期の包囲戦を戦った人達で、ベテランの兵士だし指揮官達に見捨てられた経験から、帝国貴族に対する反感が強い。


 おまけにセラード達とは辛く苦しい篭城戦を共にした固い絆で結ばれているので、いい兵士になってくれると思う。


 統率は俺よりセラードの方が適任だろうから、そのうちセラードに引き取りに来てもらう事にして。当面はリハビリに当たってもらい、俺達は東へと向かう。


 帝国との戦いの最前線へと戻るのだ。


 これからの戦いがシーラの夢を叶えるための。

 そして俺の恋を成就させるための、最大の山場になる。



 俺は決意を新たに、暗く曇った東の空を見上げるのだった……。




帝国暦169年 5月3日


現時点での帝国に対する影響度……8.279%(±0)


資産

・2641万ダルナ(-5万)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35(500増えて500減)


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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