230 勝ち方には色々ある
今すぐ全軍を出撃させて欲しいという俺のお願いに。ララクは『他ならぬアルサルさんのお願いであれば、是非もありません』と、即断で了承の言葉を返してくれた。
やっぱり信頼関係って大事だね……。
この街の王国軍にはララク以外にも2人、元孤児の軍人がいて、彼等の協力のおかげで出撃準備は迅速に進む。
元々臨戦態勢だったおかげもあって、あっという間に準備が整い。5000人の部隊が街を出発する。
もしこの辺りに敵の偵察部隊が潜んでいたり、内通者がいたりしたら、街の防備がカラになったのを帝国軍に知られてしまい、別働隊を送られて占領されてしまうかもしれない。
だけどそのリスクを負ってでも、今は行動するべきだと思う。
そんな決意を胸に。俺達は敵がいる南……ではなく、南東へと向かう。
昔読んだ兵法書に、『敵とまともに戦って勝てる見込みがない時は、敵が嫌がる事をやれ。嫌がらせを続けて敵を撤退に追い込む事ができれば、戦って勝たずとも勝利を得る事ができる』と書いてあった。
なので自分が敵の司令官になったつもりになり、やられたら嫌な事を考えてみる。
……一つは、以前にも近い事をやった焦土戦術である。
でも今回は準備がないので、やるならガチの焦土戦術になってしまう。
それはあまりにも住民の負担が大きいので、さすがに却下だ。
となると、現状の戦力でできそうなのはあと一つだけ。
それを実行するために、俺達の部隊は南東へと急ぐ。
……街を発って2日。
俺達の部隊は国境線を超えて、帝国領へと侵入している。
目指すのは、今回帝国軍の集結地になっていた帝国側の国境の街だ。
どれだけ守備兵がいるかは分からないけど、俺なら隣国を攻める目的で国境の街に兵力3万を集めたら、3万をそのまま出撃させる。
占領地ならともかく、自国の街だからね。
まして今回は、本来7万のはずが3万になってしまっているのだ。
余計な所に部隊を割く余裕などないはずで、守備兵は元々の警備隊に、プラスで若干の連絡要員と後方要員くらいだと思う。
兵士と言うより事務方なので、5000の兵力でも十分に勝ちが見込めるはずだ。
そしてこの街を占領されたら、帝国軍は後方連絡線を遮断される事になり。孤立してしまう。
それは軍に致命的な影響を与えるものではないけど、気分はよくないだろう。
ぶっちゃけ3万の兵力があれば、このまま国境の街を押し潰し、ジェルファ王国に雪崩れ込んで王都を落とす事も不可能ではない。
でもそれをやるには、相当の決断力と胆力が必要になる。
もし王国の抵抗が思ったり強くて、進撃が止まってしまったら。
なにか不測の事態が起きて、撤退する事になってしまったら。
万が一負けて、逃げ帰る事になってしまったら。
その時後方が遮断されていて、退路も連絡路もないというのは非常に不安に感じるはずだ。
帝国の第二次遠征隊は、偽の宰相命令を信じて敵地を突き進み、教国領奥深くまで攻め込んだけど。あれは期日を区切った宰相の厳命という強力な圧力と、後方は後続部隊が確保するという約束があったからできた事だと思う。
まぁ、結局どっちも嘘だったから壊滅しちゃった訳だけどね。
今回の帝国軍に関しては、北に向かった復興軍討伐隊が戻ってきて俺達を打ち破り、後方連絡線を回復してくれるという希望があるだろうから。それを打ち砕くために、北に向かった部隊は負けたという情報を流す。
これは本当の事だから、広まるのは速いし真実味もあるだろう。
その上で帝国軍と交渉をして、俺達が占領した街を返還する代わりに帝国軍はジェルファ王国から撤退するという条件で講和を結ぶ。
その後は復興軍への対応が優先になるだろうから、ジェルファ王国は当面安泰。
……というのが理想形だ。
実際は交渉に応じず、力ずくで後方拠点の奪還を目指して攻めてくる可能性もあるし、一番困るのは俺達を無視して、王都へ直進されるパターンだ。
だけど、現状では全ての可能性をカバーはできない。
今の俺達に帝国軍と正面から戦う戦力がない以上、敵が嫌がる事をするこの方法が一番現実的な対応策なのだ。
今回は別に戦って勝つ必要はなく、帝国軍を撤退させればそれで勝ちなのだ。
そして今回の帝国遠征軍は3度目の編成であり、兵士も指揮官も質は低下していると思う。
後方が遮断されても怯まずに、一気に王都を突くとかの大胆行動は難しいんじゃないだろうか。
それなら、こちらにも十分勝ち目がある。
そんな計算をしながら、俺達は帝国領の街へと急ぐ。
――道中敵と遭遇する事もなく迅速に到着し、すぐに攻略に取りかかる。
案の定守備隊は極少数のようで、突然現れた敵に動揺してまともな防戦もできない内に、こちらの部隊は街壁にはしごをかけ。次々に登っていく。
攻城戦の経験はないとはいえ、ジェルファ王国軍は解放戦争を戦った経験者がほとんどなので、みんな戦い慣れている。
おかげで攻略は順調に進み。数時間の内に街壁の一角を占領して、そこから攻め下って門の一つを開くと、守備隊は早くも降伏を申し入れてきた。
初戦の成果は上々である。
兵士達には規律を正しく守るようにと指示を徹底して街に入り、帝国軍の捕虜を尋問すると、やはりと言うか守備兵は200ほどしかいなかったらしい。
そりゃまぁ、普通はこれから隣国に攻め込むぞって時に、出発地に1000も2000も残していかないよね。
ただでさえ、当初予定の7万が3万に減ったのだ。
とはいえ重要なのはこれからなので、早速捕虜の中から三人を選び。王国兵を付けて使者に立てる。
こちらの要求は、俺達がこの街を返還する代わりに帝国軍はジェルファ王国から撤退する事。
そして、『ジェルファ王国は中立を望んでおり、帝国領内での争いには干渉しません。貴軍は反乱軍への対応に当たるのがよろしかろう』と書いた手紙も添えておく。
そして北に向かった軍が復興軍に破れたという情報だが、わざわざ俺達が広めなくても普通に広がっていたので、特別なにかしなくても西の帝国軍の耳にも届くと思う。
そうなると西の帝国軍は完全に孤立した形になるので、交渉に応じて王国から撤兵するか、撤退を兼ねてこの街を奪い返しに来る可能性が非常に高い。
どちらでも結果は似たようなもので、俺達の目的は達成される。
もし力ずくで奪い返しに来たら、俺達にここを守る理由なんてないので、さっさと逃げるだけだ。
まずは送った使者への反応を待ちつつ。攻撃に備えて偵察隊を出しながら、俺は街の様子などを見て時間を過ごす。
さて、どう出る帝国軍……。
帝国暦169年 3月11日
現時点での帝国に対する影響度……8.269%
資産
・1億4165万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




