228 草原の戦い終結と帝国軍の新たな動き
南へ向かって逃亡する帝国軍に対する包囲戦は上々の戦果を収め、2万7000人もの捕虜を得る事ができた。
攻めてきたのが4万5000だったはずなので、半数以上だ。
捕虜は2000人ずつに分けて草原の各地に分散し、野営する場所を自分で作ってもらう。
元々北へ戦いに来ているだけあって、各自最低限の毛布や天幕なんかは所持しているので、野営するだけなら問題ない。
むしろ地面を掘ったりして防寒施設を作れるので、毎日移動していた頃よりも快適に過ごせるはずだ。
問題は食料の方で、とりあえず残った羊を提供して時間を稼いでいる間に、ジェルファ王国から食料を運び込む。
ジェルファ王国は去年使った天然化学肥料のおかげで大豊作だったので、食料には余裕がある。
そしてエリス国王もクレア宰相も俺に協力的なので、余剰分の食料を国境の拠点に集めてくれているのだ。
問題はその輸送手段で、これはジェルファ王国に頼む訳にはいかない。
復興軍はあくまで教国の支援を受けて、帝国北部領主の誰かが裏で糸を引いている部隊であり、ジェルファ王国は関与していない。王国は中立を望んでいるという設定を維持しないといけないからね。
なので、食料は俺達が自分で運ぶ必要がある。
とりあえずシーラ率いる騎兵隊に最速での緊急輸送をお願いし、追加で歩兵の輸送部隊も送り出す。
騎兵はエリート部隊なので普通は荷物運びとか嫌がるものらしいけど、シーラは必要とあれば下働きでも黙々とやってくれるので、本当にありがたい。
そしてシーラの実力が広く認められているので、部下達も文句を言わずにそれに従う。
ホントに、シーラは現場指揮官としてこれ以上ないくらい最高の人材だ。
――そんな訳で、食料の手配と捕虜の割り振りを進めていくが、まず貴族と一般兵は別にする。
そして一般兵は、なるべく今までの部隊がバラけるように配分する。
周りが見知った仲間だと現状への不満が外に向いて、団結して反乱や逃亡に繋がる可能性が高いけど、周りが知らない人だとまず周囲に警戒心が向くので、団結して反乱や逃亡に至りにくい。
なので捕虜はそれまでの部隊をバラバラにして、分散して収容するのがいいと、勉強期間中に読んだ本に書いてあった。
捕虜達はいずれ説得して仲間に誘う予定だけど、それはちょっと落ち着いてからだ。
本によると、今みたいな状況で『寝返った者には食料を多く支給する』とかやると即席の戦力は増えるけど、それは寝返ったり逃亡したりしやすい危うい兵士になるので、非推奨らしい。
どうしてもやるなら、寝返らせたあと危険な任務に投入して早期に消耗してしまうのが良いが、危険な任務に投入するとますます寝返ったり逃げたりする率が上がるので、扱いは難しい。
そんな話を読んだ記憶があるので、復興軍では採用しない事にした。
いずれセラードに来てもらって、穏便に説得してもらおうと思う。
そんな訳で食料の輸送と捕虜の扱いに段取りをつけ、俺はキサの馬に乗せてもらって南へ向かう。
帝国軍が逃げ戻っている辺りを避け。遠回りをして帝国領に入り、情報を取るために右腕さんがいるファラの街を目指す。
道中の街では早くも帝国軍が負けたらしいという噂が広がっていて、住民に動揺が広がっていた。
明日にでも復興軍が攻めてくるという噂が広がって、街から逃げ出そうとしている人までいたくらいだ。
あえて否定はしなかったけど、それができるだけの戦力があったらよかったのにね……。
そんな事を考えながらファラの街に到着し。右腕さんに会って、『帝国軍が負けたというのは本当ですか?』と、白々しい事を訊いてみる。
「……どうやら本当のようです。詳細はまだ分かりませんが、かなりの数の損害が出たとか」
「それは困りましたね。反乱軍が攻めて来るという話も聞きましたけど、逃げた方がいいですかね?」
「それは分かりませんが、逃げる準備はしておいた方がいいかもしれません。今この辺り一帯の防備は極めて弱いですから」
「え、北に向かった帝国軍は半数だけでしょう? まだ半分残っているのでは?」
「それが……残存部隊は西への進撃派だったのですが、北へ向かった部隊の帰りを待たずに単独で出撃してしまいました。今この辺り一帯には僅かな数の警備隊しか残っていません」
――おおう、そんな暴挙に出たのか。
元々命令通り西に進んでジェルファ王国を攻める派と、北で暴れている反乱軍を先に討伐するべきという北部領主達とで意見が分かれて軍を分けたと聞いているので、西進派だけで独自の行動を起こしたというのもまぁ、分からなくはない。
戦略的には下策だと思うけど、中央に領地を持つ貴族達や宰相の影響が強い中央軍の将軍達だと、とにかく命令の遂行を急ぎたいという事情もあったのだろう。
前に聞いた情報だと、帝国軍6万8000の内4万5000が北に向かったそうなので、西に向かったのはざっと2万3000。
分離時点でまだ集結途中だったらしいので、後から来た軍勢を合わせて、2万5000から3万と言ったところだろうか?
北に向かってきた兵士より少ないとはいえ、まともに戦ったらかなりの大軍だ。
ジェルファ王国では解放軍改め王国軍を東に集めて防衛に当たっていて、西の教国とは不可侵条約を結んだのでほぼ全軍。3万人ほどが守りについているはずだ。
数的にはほぼ同数だけど、これが守備側の弱い所で、ジェルファ王国軍は国境沿いの複数の街に3万人を分散配置しているはずで、一ヶ所を集中して攻められたら、多分5000対3万とかになると思う。
街に篭れば街壁がある分戦い易くはあるけど、それでも容易には埋められない戦力差だ……放置はできないよね。
「――なるほど、ではしばらくの間身を隠す事にします。早く落ち着いて商売ができる世の中になって欲しいものですね」
「全くです」
有用な情報を入手し、愚痴のような事を言って右腕さんと別れるが、右腕さんは北上する帝国軍に食料や装備を売って一儲けを企んでいたから、実は相当儲かっているのではないだろうか?
北に向かった帝国軍は最後、武器や防具まで捨てて身軽になり、身一つで逃げていった兵士も多かったからね。
捨てられた装備はこちらで回収して、しっかりリサイクルさせて頂く予定だ。
そんなこんなで、俺はジェルファ王国の救援に向かうべく。一旦北の復興軍の拠点へと戻るのだった……。
帝国暦169年 3月1日
現時点での帝国に対する影響度……8.269%(±1.7)※帝国軍第三次遠征隊の半数を壊滅、その半数を捕虜に
資産
・1億4165万ダルナ(-19万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




