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227 本命の敵

 方陣に向かって突撃してくる帝国軍騎兵隊が日寄ひよった所に、シーラを先頭に復興軍の騎兵隊が突撃をかける。


 帝国軍の隊列は密集隊形の方陣と違って隙間がたくさんあるので、その隙間を縫うように騎兵が切り込んでいき、帝国軍の隊列は見る間に分断されていく。


 ――こうなったらもう、帝国軍は突撃どころではない。


 分断された帝国軍の前半分は進む方向を変え、方陣の前を横切るようにして南へと向かい。後ろ半分は混乱状態に陥って隊列が乱れ、停止してしまった。


 機動力が売りの騎兵が、敵前で停止するほど愚かな事はない。

 その点では、そのまま走り抜けて逃げようとしている前半分の方が優秀だと言える。


 指揮官が違うのか、あるいは出身が違うのか。

 帝国軍は皇帝直属の中央軍と、各領主が率いる領軍で構成されているらしいけど、領軍は錬度や士気に相当ばらつきがありそうだよね。


 そんな事を考えながら見ていると、帝国軍の隊列を切り裂いたシーラ達はそのまま反対側まで駆け抜け、弧を描いて方向を変えると、停止している後ろ半分の部隊に再度の突撃をかけに向かう。


 さすがシーラ、敵が弱点を晒していると見るや、そこを突くのに躊躇ちゅうちょがない。


「我々も攻撃に移りますか?」


 リーズがちょっと興奮気味に言葉を発する。


「――今はやめとこう。バラバラになったら騎兵突撃相手に無力になっちゃう。


 騎兵隊が方向を変えたのは俺達が密集隊形を取っていて、入り込む隙間が無かったからだ。


 前半分が逃げたと見せかけて戻ってくるかもしれないし、後ろ半分も今は混乱状態だけど、1隊100騎だけでも突っ込んできたら大損害が出ちゃうから。

 油断せず陣形を保つように指示を出して」


「わかりました」


 俺の言葉に、リーズは不満そうな様子を見せる事もなく、迅速に動いてくれる。

 自分の意見を却下されてもねたりしない、いい子だね。


 ……多分攻撃に出ても大丈夫だとは思うんだけど、万一があるし、今回の戦いの主戦場はここではない。


 シーラもその辺分かっているのだろう。帝国軍に対して二度突撃をかけたが、敵が逃げはじめると深追いする事なく、こちらに戻ってくる。


「リーズ、攻撃に移るよ」


 そう言うと、リーズは困惑の表情を浮かべる。


「今からですか? 敵はもう逃げてしまいましたが?」


「今回の戦いで騎兵隊は一番の脅威だったけど、主敵じゃないよ。主敵は帝国軍の本隊。草原にいる間に追いついて、可能な限りの捕虜を取りたい。

 部隊を再編して、準備ができた隊から行軍に移って。ただし、敵に攻撃をかけるのは命令があるまで待つ事。


 それと、北にいる補助部隊にも南下するよう伝令を出して。特に羊を飼育している隊は迅速に」


「あ……わかりました、ただちに!」


 リーズはそう返事をして、慌てて指示を出しはじめる。


 まぁ、目の前に騎兵という大きな脅威がいたら、それに気を取られてしまうのはしょうがないよね。

 帝国軍の本隊は姿も見ていない訳だし、印象薄いのだろう。


 だけど今回の戦いの主目的は、帝国軍の本隊を撃破する事。

 戦場はここだけではなく、ここから南のとても広い範囲なのだ。


 戻ってきたシーラともその旨打ち合わせをして、騎兵隊はよく働いてくれたので、今日はもう休みにし、休息を取ってもらう。


 どのみち歩兵とは機動力が違うから、一緒に行動するなら騎兵は休み休みになる。


 奇襲をかけるなら騎兵だけでいいけど、守りを固めている相手に騎兵だけで挑むと酷い事になるのは、今目の前で見たばかりだ。

 自分で同じ轍を踏むのはあまりにも愚かだからね。



 ――そんなこんなで慌しく転進の準備が進められ、一部の部隊は早速出発していく。


 帝国軍は疲労と空腹。そしてここまで来てなんの成果も得られなかった徒労感で足取り重いだろうから、追いつくのは十分可能だと思う。


 偽の内通者に騙されていたと知った帝国軍の指揮官は怒り心頭だろうから、ちゃんとした指揮ができていない可能性もあるしね。




 ……全速力で南下をはじめて3日目。偵察隊からの報告によると、帝国軍の士気は大いに低下し、列を乱して敗走に近い感じで南に向かっているらしい。


 行軍についていけずに落伍らくごした兵士を何人か収容したが、寒さのせいで病気になった兵士はともかく、戦っていないのに負傷している兵士もいた。


 事情を聞いてみると、帝国軍内で内輪揉めが起きているらしい。


 食料が不足気味な中、中央軍と領軍の間で支給量に差があったり、領軍でも部隊によって差があったりするらしい。


 それで不満が高まっている所に、統制が乱れて軍規が緩んでいる事で元々仲が悪かった領主同士の争いも発生し、食料の奪い合いなどの小競り合いが起きているのだそうだ。


 先日偽情報を流した手前、これも偽情報である可能性を一応警戒しつつ、距離を詰めていく。


 偵察隊によると帝国軍の隊列はバラバラみたいなので、シーラ率いる騎兵隊に奇襲をかけてもらい。さらに歩みを遅らせる。



 そうして、追撃戦がはじまって4日目の夕刻。ついに最後尾の一隊を捉え、いざ戦闘だと思ったら。なんの抵抗もせずに、あっさり武器を捨てて降伏を申し出てきた。


 上層部への不審と、疲労が限界に近かったらしい。


 話を聞いてみると落伍兵からの情報は本当で、今はそれがさらに悪化して、お腹をすかせた兵士が上官の馬を殺して食べるなんて事例まで起きているらしい。


 その話を聞いてシーラとキサが表情を曇らせていたが、二人共馬が大好きだもんね。


 元の世界で馬刺し食べた事があるのは黙っておこう。


 それはともかく、帝国軍の指揮官は補給的にかなりギリギリまで。もっと言えば限界を超えて北上していたらしい。


『復興軍は帝国の旗を見れば大半が寝返って、あっという間に瓦解がかいする』という話を信じて、敵の食料を当てにして進軍していたのだろう。


 改めて、情報と指揮官の判断の重要性を痛感するね……。



 そんな訳で、帝国軍の状況はかなり悪いみたいなので、ちょっと強気な作戦に出る事にして。シーラ率いる騎兵隊に南へと向かってもらう。


 退却する帝国軍の頭を押さえて、包囲戦に持ち込むのだ。



 ……出撃するシーラ達を見送りながら、俺は早くも勝った後の事について考えを巡らせる。


 元の世界には『獲らぬ狸の皮算用』という言葉があったし、結果が出る前から勝った気でいるのは負けフラグのような気もするけど。実際に軍師をやってみて、必要な事だと理解できた。


 結果が出てから次の事を考えるようでは、遅れを取ってしまうのだ。


 もちろん勝った時だけじゃなくて負けた時の事も考えておかないといけないけど、今回は負けたら逃げるだけなのでとても分かりやすい。


 先の想定はちょっとした出来事ですぐ変更になってしまうから、考えた事の9割は無駄になってしまうんだけど、それでも1割を拾うために、軍師はあれこれ考えないといけないのである。


 それはかなり大変だし、一生懸命考えた事が無駄になるとがっくり来るけど、こればかりはどうしようもない。


 俺なんかと比べるのは恐れ多いけど、人類で最初に過労死したのが諸葛孔明しょかつこうめい説、わりと本気である気がする今日この頃だ。



 そんな事を考えながら、俺はシーラ達が消えていった南の空をじっと眺めるのだった……。




帝国暦169年 2月26日


現時点での帝国に対する影響度……6.569%(±0)


資産

・1億4184万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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