226 北部草原での戦い
大草原で方陣を組み、帝国軍の騎兵隊を待ち受けていたら、現れたのはなぜか帝国軍の本隊に遊撃戦を仕掛けているはずのシーラ達だった。
方陣の外まで迎えに出た俺の姿を向こうも認めたらしく、シーラは部下達に『水場に行って馬を休ませてこい!』と大声で命令し、自身は俺の前で馬を止めてヒラリと飛び降り。騎士っぽく地面に片膝を突いて頭を下げる。
かっこいいなぁ。
「帝国軍の本隊は動きを止め、南に戻りつつあります。
ですが騎兵は北を向いて部隊を再編する動きを見せたので、騎兵単独での攻撃を仕掛けるつもりと見て戻ってまいりました。
……陣形を見るに、情報は伝わっているようですね」
「うん、偵察隊が知らせてくれた。シーラの方こそ、よくこんなに早く戻ってこれたね」
「こちらも偵察は出していましたし、我々は原隊の位置が正確に分かっていましたから、真っ直ぐここに来る事ができました。
帝国軍は大まかな位置しか掴んでいないので、遠回りしているのでしょう」
なるほど、位置番号入りの地図は大活躍だね。
――だけど、それにしても早過ぎたような……。
「……ってあれ、偵察? 帰還しろって伝令が届いたから戻って来たんじゃないの?」
「いえ、伝令とは途中で出会いました。
敵の騎兵隊が本隊を襲う動きを見せた以上、救援に向かうべきと判断して独断で戻って来ました……命令違反という事であれば、処罰は戦いが終わって後にして頂けるとありがたく思います」
「いや、問題ないよ。命令は帝国軍の戦力を削ぐ事と騎兵隊の牽制だったんだから、騎兵隊が動いたらそれを追うのは普通に任務の範囲内だし、戻って来てくれて助かった。
いい判断だったよ」
「ありがとうございます……ではこれから如何致しましょう?
ご命令を頂ければ、馬を休ませ次第すぐにでも再出撃できますが」
「いや、大丈夫。敵の騎兵隊は2000くらいみたいだから、200の騎兵隊だけで撃退するのは難しいでしょ。歩兵と共同で戦おう。
方陣に一ヶ所弱い所を作っておくから、そこに敵が突撃をかけてきたら、その横腹に逆突撃をかける予定で備えておいて。
敵が姿を見せたら知らせるから、それまでは休んでいて。みんな戦い続きで疲れてるだろうから。
シーラも、シルハくんと一緒に休んでね」
俺の言葉に、シーラは一瞬なにか言葉を発しようとした。
多分、『私は大丈夫です』とか言おうとしたのだろう。
だけど戦いは一人でするものではないし、愛馬のシルハくんを引き合いに出されると弱いので、『分かりました』と言って、シルハくんの手綱を取って水場の方へと歩いていく。
なんか最近、俺の一番重要な仕事はシーラの体調管理な気がしてきた……。
そんな訳で俺は再び方陣の中心に戻り。リーズにシーラ達の事を伝えて、再び脚立モドキに登って見張り任務に戻る。
正直、キサが馬の気配を察する方が早い気がするけど、それはそれだ。
今は手を抜いていい場面じゃない。
――寒風に耐えて見張りを続けていると、下にいるキサが『向こうから馬の大軍が来る気配がします』と教えてくれる。
指差す方向を望遠鏡で覗くが、今回もなにも見えない。
下ではリーズが地面に腹ばいになり、土に耳を押し付けて音や振動を感じ取ろうとしているが、『ちょっと揺れているような気はしないでもないですが……方向とかは全然分かりません』との事だ。
立った状態で方向まで感じ取れるキサの鋭さが人間離れしているんだろうね。遊牧民はみんなできるのだろうか?
そんな事を考えながら意識は目に集中していると、しばらくしてキサが指差した方向に土煙が見えてきた。さすがだ。
リーズに伝えて全部隊に戦闘準備を発令し、俺は空を仰ぐ。
太陽はすでに南中を過ぎ、西に傾きはじめている。
もし時計があれば、14時から15時くらいだろうか?
帝国軍としては敵前で一泊する選択肢なんてないだろうから、当然今日中に攻撃をかけてくるだろう。それもあまり時間は多くない。
観察を続けていると、向こうも俺達の姿を認めたらしい。
一旦停止し、隊列を整理して突撃隊形を組み始める。
多分俺達がバッチリ陣形を整えて待ち受けている事に驚いていると思うけど、だからといって攻撃をやめる気はないようだ。
そして、攻撃前に使者とか送ってくるかと思ったけど、そんな様子もない。
帝国軍の姿を見れば復興軍の半数は寝返るだろうという情報を得ているはずなのに、ちょっと焦り過ぎな気もする。日没が近いのが影響しているのかもしれない。
こちらもシーラの所に伝令を飛ばして、臨戦態勢を取ってもらう。
逆突撃をかけるタイミングはシーラに一任だ。戦場の空気を読む事にかけては、シーラ以上に優秀な人を俺は知らない。
――今度こそ草原に戦機が満ち、帝国軍の騎兵隊は帝国の旗を先頭に立てて、こちらに向かって動き出す。
最初はゆっくりと……次第に速度を増す騎兵突撃はすごい迫力だ。
ここまでくると、音も振動も恐怖を感じるレベルで伝わってくる。
訓練を受けていない新兵や士気が低い部隊だったら、逃げ出す兵士が出て陣形が崩れていると思う。
なにしろ、人と馬併せて500キロか、それ以上の重量物が人間の全力疾走より速い速度で。しかも武器を振りかざして向かってくるのだ。
ある程度訓練された部隊でも、誰か一人が恐怖に駆られて逃げ出したら、たちまち周囲に伝染して陣形が崩壊してしまうだろう。そんな迫力と恐怖がある。
だけど復興軍の兵士は誰一人として持ち場を離れず。
槍を持った兵士は穂先を敵に向け、弓兵は次々と矢を放つ。
冷静に、自分の任務を忠実にこなしてくれている。さすが死線をくぐってきたベテランの兵士達だ。
――帝国軍としては、この段階で復興軍から大量の寝返りが出て、総崩れになっている予定だったのだろう。
だけどそれは存在しない内通者からの偽情報で。実際の復興軍はリーズの指揮の下、恐怖を乗り越えて騎兵突撃を受け止められるだけの精兵揃いだ。
予定と違う現状に、帝国軍には動揺の空気が見えるが、一旦始めた突撃はそう簡単に止まれない。
先頭を進む旗を持った騎兵が矢を受けて落馬しても、後ろが前を押すように突っ込んでくる――が、方陣とぶつかる少し前で先頭の騎兵が弾き飛ばされるように馬から落ちた。
張っておいたロープに引っ掛かったのだろう。
後続の騎兵も急には止まれないらしく、2人・3人とロープに引っ掛かって落馬するが、所詮槍と普段使いのロープだけの簡易なトラップ。4人も引っ掛かれば壊れてしまう。
――だけどその光景は後続の騎兵達を動揺させる効果があったようで、突撃の勢いが少し鈍った。
勢いが鈍ればそれだけ矢を射ち込める時間が長くなるし、突撃のエネルギーも減衰する。
そしてその時間は、騎兵達の頭を冷やす効果もあったらしい。
こちらの方陣はしっかりと密集隊形を保っていて、馬が通り抜ける隙間はない。
という事は、このまま突っ込んできたら先頭は文字通りの体当たりで陣形を乱さないといけない訳だけど、それは捨て身の突撃になる。
それをやるだけの覚悟。
あるいは勢い、高揚感が、速度を落とすと同時に引いてしまったのだろう。先頭が方向を変え、方陣への突入コースを外れていく。
そしてそのタイミングを待っていたように、シーラ率いる復興軍の騎兵隊が、帝国軍騎兵隊の横腹へと逆突撃を開始した。
戦術の教科書に載せたいくらいの、見事な騎兵突撃である。
草原の戦いは、今まさにクライマックスを迎えようとしていた……。
帝国暦169年 2月22日
現時点での帝国に対する影響度……6.569%(±0)
資産
・1億4184万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




