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224 消耗する帝国軍

 シーラ達奇襲部隊を送り出し。草原を転々としながら逃避行とうひこうの日々を送っている俺の所には、1日1回伝令が送られてくる。


 広大な草原を移動しているのに、移動先に迷う事なく伝令が届くのも、事前に作っておいた地点番号入りの地図のおかげだね。


 改めて準備の重要性を再認識しつつ、届いた報告を読むと、シーラ達の戦いは中々順調なようだ。


 接敵せってきして3日目までに7回の攻撃をしかけ、敵の後方輸送隊2隊を壊滅。

 毎晩夜襲をかけて敵の安眠を妨害しているらしい。


 夜襲は50騎の少数部隊でやっているそうだけど……もしかしてこれ、シーラは毎回参加していないだろうか?


 昼の作戦もあるのに、そんな事をしていたら帝国軍より先にシーラが参ってしまう。


 部隊長という重要な責任を負っているんだし、さすがにそこまで無茶な事はしないと……いや、しそうだな。て言うかむしろ絶対していると思う。していなかったら逆にビックリだ。



 この世界に転生して、初めて出合った人であるシーラ。


 あれからもう5年。ずっと一緒に行動して、多くの時間を共に過ごし、間近で見てきた俺には分かる。


 シーラは良く言えば真面目で献身的だけど、悪く言えば自分をかろんじ過ぎる。


 危険な死の病にかかった皇帝おれを一人で看病していた事もそうだし。自分の身を犠牲にして皇帝の妻に、そしていずれは将来の皇帝の母になり、宰相に近付く機会をうかがって刺し違える気でいた事もそうだ。


 戦いの時に先頭に立って突撃するのも、士気が上がるし、シーラにはそれをやるだけの実力があるのも知っているけど、危ないのも確かだ。


 無茶し過ぎている時に抑えるのも俺の仕事なんだけど、今はそばを離れてしまっている。


 一応手紙に『無理をせず適度に休むように』と書いておくが、果たしてどうだろう?


 シーラは俺の言う事は基本尊重してくれるけど、無理の基準がとんでもなく高い気がしてならない。


 3日間寝ないで戦って『無理していません』とか、わりと素で言いそうだ……。


 なので、『仮眠でいいから毎日寝るように。疲れた頭だと判断を誤る事があり、指揮官が判断を誤ると部下が死ぬから』と書き添えておく。


 シーラはわりと猪突猛進ちょとつもうしん型の指揮官だけど、部下は大切にするタイプなので、この言い方は効果があると思う。



 そんな訳でシーラの活躍に期待と不安をいだきつつ、俺は集まった情報から帝国軍の状況を分析する。


 情報源はシーラが送ってくれる報告の他、偵察隊を多数出しているので、そこからの報告も随時届く。


 戦闘部隊と偵察部隊は別にしておかないと、戦闘に支障が出たり偵察がおろそかになったりするからね。


 ――という訳で情報を分析した結果なのだが、帝国軍はかなり疲れていそうだ。


 最初に草原に入ってきた頃に比べて、1日の移動距離が3分の2に。日によっては半分にまで低下している。


 大草原に入ってもう10日。

 敵をとらえる事ができないまま貧しい食事で草原を彷徨さまよい歩き、寒さに晒され、夜襲を受けて夜もゆっくり眠れず、補給部隊まで攻撃された。


 そりゃ士気も下がるし、体力的にも辛いだろう。


 元の世界で読んだ漫画で、『ひもじくて寒いと死にたくなる』みたいな言葉があった気がするけど、あれはホントに人間の本質を突いていると思う。


 一応お肉を食べてるこっちの兵士達にも疲れが見えているくらいだから、帝国軍の士気はそれはもう低下していそうだ。


 普通の指揮官ならそろそろ一時撤退を考えはじめる頃で、多分帝国軍の中でもそういう意見は出ていると思う。


 ――だけど、ここで内通者からの情報が効いてくる。


 復興軍には騙されて連れてこられ、現状に不満を抱える者が多くいる。帝国軍が間近に迫りさえすれば大挙して寝返りが発生し、復興軍をあっという間に崩壊させる事ができる……という幻想が、帝国軍指揮官達の判断を鈍らせ、撤退の判断を遅らせてくれるはずなのだ。


 それに期待して、復興軍と帝国軍との距離を適度に保ちつつ。草原の奥へ奥へと敵を引き込んでいく。


 帝国軍としては、あまり奥まで進んでしまうと撤退の決断をしても食糧不足で帰れなくなるので、どこか限界地点で止まって引き返すはずだ。


 そうなったら攻守交替で、退却する帝国軍を俺達が攻撃する番になる。そこまで逃げ切れれば、この戦いは実質勝ちだ。


 ――そんな訳で、帝国軍と付かず離れずの距離をとって逃げ回っているうちに、帝国軍が草原に入ってから15日が経過した。


 そしてその日の昼、偵察隊から急ぎの報告が来て『帝国軍が動きを止めた。騎兵隊が再編中』と報告がくる。


 ……これは多分、歩兵の行動限界に達したのだろう。


 さすがに同じ日数はかからないだろうけど、15日かけて来たんだから、帰りも10日くらいかかりそうだもんね。


 そして騎兵隊を再編しているのは多分、軍としてはもうこれ以上進めないけど、騎兵の機動力ならワンチャンあるので、今までシーラ達の対応に当てていた騎兵を一まとめにして、復興軍にぶつけようという苦肉の策だと思う。


 ……気持ちは分からなくもないけど、これは騎兵の運用としては正しくない。


 確かに騎兵は機動力と突撃力に優れるけど、今回はタイミングがバレているから奇襲はできない。

 陣形を作って待ち構えている歩兵の集団に正面から突っ込んで行くのは、さすがに無謀だ。


 突撃力が高いので同数か、ちょっと多いくらいの損害は与えられるだろうけど、騎兵と歩兵のコスト差を考えたら、1対1やそこらの損害比率では到底割に合わない。


 騎兵運用の理想形は、機動力を活かして歩兵が攻撃している敵の側面や背後に回り込んで強襲を仕掛けるとか。攻撃してくる敵の側背そくはいを突いて勢いを殺すとか。逃げる敵に追撃をかけて戦果を拡張するとかだ。


 歩兵との連携なしで、陣形を組んで守りに入っている敵に単独で突撃を仕掛けるのは、騎兵の運用としては下の下だと言える。


 守備側に方陣を組まれたら側面も背後もなくなって、守りを固める敵に正面から突撃するという、騎兵の機動力を完全に殺してしまう最悪の運用になってしまう。


 弓騎兵でもいれば少しは違うけど、乗馬自体が高等技術なのに、さらに騎上から弓を射る騎射ができるのは、精鋭が集まる騎兵隊の中でもさらに精鋭。最精鋭のエリート兵だけ。


 うちの隊でも、まともに当たる騎射ができるのはシーラとキサの2人だけだ。


 そしてそんな精鋭の兵士は、多くが1回目と2回目の遠征軍に動員され。今回の部隊にはほとんどいないはずである。


 騎兵隊の数自体も多くなく、今まで受けている報告からすると、2000騎程度。


 5000人いる俺達より数で劣る。


 いかに強大な国力を誇る帝国と言えど、大規模な遠征軍を編成するのが3回目となると、質の低下は避けられないのだろう。


 帝国軍の上層部が期待しているだろう、『知らない間に復興軍に入れられた兵士達の寝返り』が発生すれば別だけど、発生しなかったら勝ち目は薄い。


 ――とはいえ、騎兵の突撃力が脅威なのも確かで、2000の騎兵突撃を受けたら、いくら攻める側にとって最悪な、待ち受けている敵に正面からという形であっても、こちらも相当の損害を受けてしまうだろう。

 それはよくないので、できるだけの手を打たないといけない。



 俺は兵士達に急いで方陣を組むよう指示を出すと同時に、シーラの元に急ぎの伝令を飛ばすのだった……。




帝国暦169年 2月22日


現時点での帝国に対する影響度……6.569%(±0)


資産

・1億4184万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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