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223 主導権

 今いる場所を撤収し、復興軍は北へと向かう。


 ここには大軍がいた痕跡だけを残し、食料を始め役に立つ物はなにも残さない。


 唯一残すのは、わざとらしく土を盛り上げて埋めた『北へ向かうようです (べ)』と書かれたボロ布だけ。


 帝国軍がこれを発見すれば、後を追って北へ向かうだろう。


『ベルグ』ではなく『(べ)』にしたのは、万一復興軍に発見された場合を警戒して省略したという設定だ。


『ベルグ』だと特定容易だけど、『ベ』で始まる人名なら復興軍に何十人もいるだろうからね。


 こういうちょっとした小細工が、内通者ベルグの存在に信憑性しんぴょうせいを与えてくれる……と思う。



 そんな訳で俺達は北に半日ほど移動し、草を踏み倒したりして大軍がいた痕跡作りに励む。


 それがそこそこできた所で、今度は『北西に向かうようです (べ)』と書いたボロ布を目立つように埋め、北西に向かう。



 基本はそれを延々繰り返して我慢比べをする訳だが、動く食料として羊を沢山保有している俺達の方が有利なんじゃないかなと思う。


 ちなみに羊は500頭いるのを、毎日10頭ずつ消費する計画だ。


 人数5000人に対して羊10頭なので、500人に1頭と考えるとそれだけでお腹は満たせないけど、あるとないとでは全然違う。


 食事は基本、各自携行の麦と、部隊ごとにまとめて運んでいる乾燥野菜と塩でスープのような雑炊のような物を作るんだけど、基本まずい。


 だけどそこにお肉が一切れでも入れば一味違ってくるし、骨で出汁だしをとれば、グッと美味しくなる。


 軍隊は食事がほとんど唯一の楽しみみたいな場所だから、その質は士気に大きく影響するのだ。


 それに一切れでも肉が入っていれば満腹感も段違いになるし、栄養的にも貴重なたんぱく質だ。


 味的にも栄養的にも満腹感的にも、俺達は帝国軍より優位にあるはずなので、羊肉パワーでなんとか追いかけっこを逃げ切りたい所である。



 そんな感じで、帝国軍に次の位置を書き残しながら草原を転々とする訳だけど。歩兵と歩兵ならほぼ同じ速度の追いかけっこになるのだが、ここで騎兵と言う、速度と攻撃力に特化した厄介な存在が出てきてしまう。


 広大な草原は騎兵が活動するのに最適な戦場でもあるので、今回の作戦で最大の懸念は、この騎兵の動きになる。


 本来騎兵は長槍で迎え撃つものだけど、今回は機動力重視の軽装、荷物は食料多めで来ているので、長槍の本数は多くない。


 なので、騎兵には騎兵をぶつけて撃退するのが今回の基本方針だ。


 だけどこれは難易度が高くて、互角以上の条件で当たる事ができれば後はシーラの腕を信頼するだけだけど、数は向こうの方が多いだろうし、なによりタイミングを読むのが難しい。


 騎兵の機動力を活かして奇襲をかけられたら圧倒的に不利だし、だからと言って常時臨戦態勢というのも負担が大きい。


 十分な防御施設や装備がない状況では、戦いは基本守る側が不利になると、読み漁った兵法書にも書いてあった。


 それならどうすればいいかと言うと、対応自体は簡単で、こちらが攻撃する側に回ればいいのだ。


 攻撃する側に回れば、さっきの守る側の不利が逆転し。奇襲をかける事もできるし、戦うタイミングもこちらの都合で好きに選べる。


 そして戦うのはシーラ率いる最精鋭戦力だけだから、攻撃された場合より損害を少なくできるはずだ。


 おまけに状況が不利になったらサッと引いてしまえば、それで一旦戦闘終了となる。

 個人的にはこれが、攻撃側の最大の利点だと思う。


 守備側で状況が不利になろうものなら、ここぞとばかりに総攻撃をかけられたりするからね。

 戦いの主導権を握っておくのはとても大切だ。


 ……まぁ、世の中には下手に攻めて損害を出した所で守備側が反撃に出て、攻守交替で攻撃側が大損害なんて例もあるみたいなので、念のためシーラに気をつけるように言っておこう。


 シーラの実力は信頼しているけど、いらないお世話を焼くのも軍師の仕事だ。



 そんな訳で、シーラを隊長に騎兵200騎と歩兵100人から成る奇襲部隊を編成する。


 行動方針は、


・安全優先で、危険な事は避けて戦力の温存に努めるように


・敵の主力よりも、後方の補給部隊とかがいたらそっちを優先して狙う


・敵に損害を与えるよりも、疲れさせる事。指揮官クラスを苛立いらだたせる事を優先する


・帰還する時は後を付けられないように。特に敵騎兵の動きには注意する


・敵の騎兵が奇襲部隊を探し回るはずなので、十分に注意して可能な限り距離を取って休む


・捕虜や戦利品はいらないので、身軽である事を最優先に


 といった所だ。


 正面切って勇ましい戦いをやりたいだろうシーラは不満かもしれないけど、まだ帝国軍とまともに戦える戦力は揃えられていないので、我慢して欲しい。


 ……いやまぁ、本人は『武人の血がたぎります』とか言ってやる気満々だったけどね。


 それはともかく、戦いは基本騎馬隊が行い、歩兵は支援部隊だ。


 羊10頭を連れて、離れた場所を移動しながら食事の準備や馬の世話なんかの補助業務をやってもらい、騎馬兵を戦いに集中できるようにする。


 本当は交代制にできるといいんだけど、現状馬が300頭に届かない数しかいないので、少ない騎馬隊を最大効率で運用するしか方法がないのだ。


 ――繁殖所では結構な数の馬が育っていたので、お金があれば数を増やす事はできる。


 だけど少し前に買ったのが50頭で7000万ダルナだったので、仮に500頭揃えようとしたら7億ダルナも必要になる。

 そして、繁殖所にも500頭はさすがにいなかった気がするなど、世の中色々難しい。


 街で買うと、いい馬は1頭300万ダルナとかするので、大規模な騎馬隊を揃えるのは本当に大変だ。


 理想を言うなら、帝国軍のを吸収する形で充実できたらいいなと思う。



 そんな事をあれこれ考えながら、出撃するシーラ達を見送る。


 騎馬隊を構成する馬の半数は教国からもらった白馬なので、戦場では目立ってしまうような気がするけど、しょうがない。


 ……白いと夜襲とかやりにくかったりするのだろうか?


 気にはなるけど、その辺は現場指揮官として全幅ぜんぷくの信頼を置いているシーラに上手い事やってもらうしかない。



 馬上からピシッとカッコイイ敬礼をきめて出撃していくシーラをまぶしく見送り。俺は自分にできる仕事をと、またあれこれ考えを巡らせるのだった……。




帝国暦169年 2月14日


現時点での帝国に対する影響度……6.569%(±0)


資産

・1億4184万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×35


配下

シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

※221話と配下一覧に誤字報告をくださった方ありがとうございます。配下一覧の方は毎話文末掲載なので修正数の多さに一瞬意識が遠のきかけましたが、頑張って修正しました。ありがとうございます。

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