221 動き出す帝国軍
ファラの街に滞在して6日目。帝国軍が北に向かって動き出したという情報が入ってきた。
早速右腕さんの所に行って詳しい話を聞いてみると、『現在集結中の兵士6万8000人の内、4万5000を北に向ける』という決定が出されたらしい。
そして右腕さんによると、どうやら帝国軍の中で意見の対立があったらしい。
復興軍なんて無視して予定通りジェルファ王国に侵攻するべき派と、側面に脅威を抱えていては落ち着いて進軍できないので、まずは復興軍を討伐するべき派。
そして、1万程度の兵士を送って対応させればいい派の三派があったそうだが、復興軍はかなりの大軍らしいという情報が入ったので、復興軍討伐派が優勢になったのだそうだ。
俺が流した情報が反映されている感じがするね。
それはつまり、俺からの情報を送った右腕さんが信用されているという事でもあるので、着実に帝国上層部の信頼を勝ち得ているようでなによりである。
贈り物としてのメープルシロップが功を奏しているそうなので、来年も張り切って供給しよう。
全軍ではなく軍を二つに分けたのは、西へ進むべき派の一部がどうしても折れず、『ジェルファ王国への攻撃準備と、遅れてくる部隊との連絡のために残る』という名目で残留したらしい。
軍内でかなり深刻な対立があるようで、敵対する俺達にとってはいい情報である。
そして、年が明けても集結が終わっていないというのもいい情報だ。
地方領主の疲弊と不満が反映された結果だろうからね。
さらに話を聞いてみると、帝国軍の分裂は北部の領主達が復興軍討伐派。中央部の領主達が西への進撃派だったらしい。
事情は分かる。北部の領主達は自領が復興軍に攻撃されているのに、西に攻め込んでいる場合ではないのだろう。
そして中央部は帝都の影響力が強いので、当初の命令通り西への進軍を主張した。
西や南の領主達は、それぞれの事情や他家との関係で立場色々。東の領主達は戦場から遠いので、ほとんど来ていないそうだ。
帝国軍の情報を入手した所で、俺は『戦いに巻き込まれると嫌なので隠れています』と気弱な事を言って、右腕さんの店を辞した。
右腕さんは大軍がこちらに来るとの事で、食料などの商いに忙しそうだったので、俺の事を大して気にする様子もなく。
『そうですか、ではお気をつけて』と言って見送ってくれ、俺も『はい、そちらもお元気で。状況が落ち着いたらまた来ます』と言葉を交わして別れた。
――そして俺は隠れると見せかけて、戦いの真っただ中へと足を踏み入れていく……。
ファラの街を発った俺とキサは急いで北へ向かい、途中の街や村の様子を確認しながら、1月27日のお昼頃。シーラ達との合流を果たした。
帝国軍4万5000が向かってくるという情報にリーズは表情を硬くしたが、シーラはさすが、一切表情を変えない。
今回は正面切ってぶつかるのではなく、敵を大草原の奥深く引き込んで補給途絶で自滅させるのが目的だから、戦力差はあまり大きな問題にならないはずだけど……俺としても心配は心配だ。
だけど軍師や指揮官達が不安そうにしていると、それはすぐ兵士達に伝染してしまうので、俺は努めて平静に。
なんなら計画通りだといった感じで、余裕のある表情を作るよう意識する。
シーラはさすが慣れたものだし、リーズもすぐにその事に気付いたのだろう。
表情を平静に戻して、落ち着いた様子に戻ってくれた。さすが歴戦の部隊長なだけある。
そしてやる事はもう決まっているので、すぐに全軍を集結させ、歩兵隊と騎馬隊に分けて再編成する。
歩兵隊の指揮官はリーズ、騎馬隊の指揮官はシーラだ。
武器や装備の点検をして、兵士達の健康状態なども確認し。具合が悪い兵士がいたら、草原の奥に作った仮設救護所へと移送する。
寒い時期に北の草原での作戦だから、体調管理は万全にしておかないとね。
他にも、遊牧民から届いた羊の管理。地図の作成と配布などを手際よく進める。
地図は羊の放牧を担当してくれていた人達からの情報で作成し、川や丘、遠くに見える大山脈の形なんかの目印が書き込んであるだけのものだけど、目印がほとんどない草原では貴重な物なので、絶対に敵の手に渡らないようにと、厳重に注意をしておく。
地図には1から30までの数字が書き込んであって『〇番に移動』とだけ指示を出せば、草原を効率よく移動できる優れ物だ。
あとは、帝国軍の内北方への転進を拒んだ2万強の兵力が単独でジェルファ王国へ侵攻する事態も考えて、王国に警戒を促す伝令も送っておく。
そんな慌ただしい準備が進む中で月は2月に変わり、5日には偵察の騎馬兵から『帝国軍が草原に入った』という情報が送られてきた。
――想定よりちょっと遅い。
帝国北西部は広大な麦畑が広がる穀倉地帯で、秋小麦の収穫が終わってまだそう日にちが経っていないから、値段はともかく、ここまでの食料調達に苦労したとは思えないけど……。
もしかして、『北部の領主に裏切り者がいるかもしれない』と匂わせたのが効いたのだろうか?
敵が仲間を疑って疑心暗鬼になっているのなら、ますます戦いがやりやすくなって、とても助かる。
計画が順調な事に気をよくし。
だけど油断だけはしないように気を張りつつ、俺は帝国軍との最初の接触方法についてあれこれ考えるのだった……。
帝国暦169年 2月5日
現時点での帝国に対する影響度……6.569%(+0.285)※帝国北部で村の徴税官館襲撃をさらに拡大・帝国軍を北部に転進させた
資産
・1億4184万ダルナ(-361万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




