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22 冒険者の事情

 グレートベアに襲われていた、メルツさんとメーアさん。


 名前が似ているので兄妹かと訊いた所、メルツさんの目が泳いだ。


 シーラは気付かなかったみたいだけど、元アラフォーサラリーマンの俺は人の視線に敏感なのだ。


「……いえ、兄妹ではありません」


 答えてくれた言葉に嘘をついてる感じはしないけど、微妙に歯切れが悪い気もする。


 追求しようか迷う所だが、奴隷として売り払うならともかく、俺の中では二人を仲間に引き込みたいという気持ちが生まれている。


 反乱の同志としては難しいだろうけど、とりあえずパーティーメンバーとしてだ。


 それなら、できるだけ情報を知っておきたい。


「二人は恋人同士だったりするんですか?」


「……はい。一人前の冒険者になったら結婚しようと約束しています」


 おっと、甘酸っぱい青春話を聞いてしまった。


 これはますます、メルツさんを奴隷にして売り飛ばしにくくなったね。


 そしてこの話の流れだと、次は『冒険者としての調子はどうですか?』とか、『そうですか、頑張ってくださいね』とか言う所だろうけど……。


「お二人はどこで知り合ったんですか?」


 俺はまだ違和感をぬぐえていないので、更に二人の関係を掘り下げにいく。


 シーラが(今訊く話か?)みたいな目をしているけど、それから逃げつつ、メルツさんの反応をうかがう。


「……子供の頃から一緒に育ちました」


「幼馴染ですか?」


「……そのようなものです」


 う~ん、やっぱり返事が煮え切らないし、慎重に言葉を選んでいる感じがするよね。


 だけど裏を返せば、それは嘘をついていないという事でもある。


 ただ隠したいだけなら最初の質問に『兄妹です』と答えてもよかったし、どこで知り合ったかの質問に適当な嘘をつけばよかったのだ。


 仲間候補として、正直な人というのはとても好感が持てる。


 メルツさんはなんか礼儀正しいと言うか、冒険者にありがちな粗暴さがないのも好ポイントだ。


 もしかして、どこかいい所の産まれだったりするのだろうか?


 ……よし、嘘をつかないならストレートに訊いてみよう。


「お二人の関係にはなにか事情があるとお見受けしますが、よければ話して頂けませんか?」


「――――っ」


 メルツさんはわずかに視線を伏せ、しばらく迷っていたが。チラリとメーアさんを見てまだ目を覚ましていないのを確認すると、意を決したように口を開く。


「命の恩人に嘘をつく訳にはいきません。正直に申し上げますと、駆け落ちをしてきました」


「……それはやっぱり、親に交際を反対されてですか?」


「はい。……実は僕は、西部にある小さな男爵家の三男で、メーアは我が家で働く使用人の娘だったのです。


 世襲せしゅう貴族では最も下の男爵家。それも田舎の小さな家の三男であっても、平民である使用人の娘との間には大きな身分差があります。父には『愛人にしておけ』『遊びなら許すが、真剣になるのは許さん』と言われました。


 だけど僕は、真剣にメーアの事が好きだったのです……だからメーアと相談し。メーアの両親の許しを得て、二人で家を飛び出してこの街に流れてきました。家も名前も捨てて、メーアに似た名前に変えたのです。


 ですからもう実家との縁は切れていて、僕を奴隷に落とした所でなにも問題は起きませんから、ご安心ください」


 ……おおう、なんか想像以上に大きな話が出てきたな。


 メルツさん元貴族だったんだね、どうりで礼儀正しい気がした訳だ。


 それにしても、俺が元皇帝。シーラの家は伯爵家だったそうだし、メルツさんが元男爵家だとすると、このメンバー元貴族率高いな。メルツさんは国が違うけどさ。


 まぁそれはともかく、これで違和感が晴れた。そしてメルツさん、やっぱりいい人だよね。


 元貴族なのに偉ぶる様子もなく、自分が奴隷に落ちてでもメーアさんを助けたいと言ったのは、本気でれているのだろう。


 そして、元貴族だけど家と縁が切れているから奴隷にして売っても問題ないと言ったのは、口に出した事を忠実に守るつもりだという事だ。やはりこの人は信用できる。仲間として申し分ない。


「シーラ、メルツさんを。本人がいいって言ったらメーアさんも仲間として迎えたいと思うんだけど、どうかな?」


 あえて『仲間として』の部分を強調して言うと、シーラはちょっとボーっとしていたのか、一瞬反応が遅れたが、すぐに『よい考えだと思います』と同意してくれた。


「うん、じゃあメルツさん。俺達の仲間としてパーティーに加わってくれませんか? ちょうど人員を募集していたんです。


 条件は……報酬を月に30万ダルナ出しますから、そこから毎月10万ダルナずつ。利息込み10年で上級傷薬代を返済するという事でどうでしょうか?


 仕事は主に、魔獣の解体と荷物運びになると思います。奴隷ではなく仲間なので、装備などは自己負担でお願いしますね。よければメーアさんにも加入して頂けるよう頼んでみてください」


 報酬はギルドを通じてメンバー募集を出す時、シーラと相談したものを転用した。


 E級冒険者なら月20万、D級なら25万と、それぞれのランクの平均収入にちょっと上乗せした額を提示していたのだ。


 今回はそこに、返済額の10万をそのまま上乗せする。


 上乗せせずに20万から引いちゃうと、月に10万ダルナでは生活が難しいと思うのだ。


 この街に親が住んでいて住む所が確保されているならともかく、メルツさんは駆け落ちしてきたそうだから、当然この街に住む所なんてないはずだ。


 宿に泊まると一番安い所でも二人で2000ダルナとかだから、それだけで月に6万ダルナ飛んでしまう。


 メーアさんと二人で稼げばなんとかなるかもしれないけど、ギリギリの生活になってしまうだろう。


 貧民街スラムへ行けばもっと安い宿があるかもしれないし、川沿いの屋外で寝ている人達も見かけるけど、多分ゆっくり休めないと思う。


 仲間になって一緒に行動するんだから可能な限り万全の状態でいて欲しいし、なんなら同じ宿に泊まってもらいたいくらいだ。ご飯美味しいからね。


 この辺は後で、シーラも交えて相談してみよう。


 そんな事を考えている間に、戸惑いの表情を浮かべていたメルツさんも考えがまとまったらしい。表情を引き締めて言葉を発する。


「本当にいいのですか? 状況を考えれば、僕は一生奴隷にされても文句が言えない所です。


 それに月30万ダルナは、E級冒険者への報酬としては破格です……報酬に見合った働きを求められたら全力を尽くす覚悟ですが、危ない事にメーアを巻き込む訳にはいきません。


 メーアも誘えとの事でしたが、それはどうかご容赦ください……」


 おお、やっぱりこの人真面目だね。とても好ましい。そして俺、なにをやらせようとしてると思われてるんだろうね? 魔獣の解体と荷物運びって言ったよね?


「ちゃんと上級傷薬分働いてお金を返してくれるなら、奴隷にはならなくていいですよ。10年後に返済が終われば後は自由の身ですし、パーティにいる間も奴隷的な扱いをするつもりはありません。


 パーティリーダーとしてお願いや指示をする事はあるでしょうが、嫌だったら断ってもらって構いません。もちろんメーアさんをパーティーに加える件もです」


「……メーアの件は、しばらく時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです。傷は治っても精神的なショックはあるでしょうから、しばらく療養してから決めてもらって構いません」


「ありがとうございます……でしたらもう他に申し上げる事はございません。今この時より、アルサル様の下で働かせて頂きます」


「うん……何回も言うけど奴隷じゃなくて仲間だから、もうちょっと普通に話してくれていいよ」


「はい、承知致しました」


 ……本当に承知してくれたのか疑問だけど、ともかくこれで、メルツさんをいい形で仲間にできたと思う。


 人手が増えれば運べる獲物も増えるので、シーラの狩りの技術と合わされば増えた分のコストも補える……んじゃないかな、多分。



 そんなこんなで、ついに俺達のパーティーに仲間が加わる事になったのであった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・429万2080ダルナ

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ(結構ハゲてきた)


配下

シーラ(部下・D級冒険者)

メルツ(パーティーメンバー・E級冒険者)

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