219 帝国軍と戦う方法
俺とキサが遊牧民の集落に行っていた期間はトータル7日間で、手早く話を終えて帰ってくる事ができた。
戻って早速留守中の報告を受けると、シーラは村の徴税官館18ヶ所を襲撃。損害はゼロで、戦利品は馬21頭と、武器若干。そして100万ダルナ金貨3枚だったそうだ。
金貨は、ある村で逃げ遅れた徴税官が命乞いとして差し出してきたらしい。
元々徴税官を殺す計画はなく、むしろ復興軍の情報を報告して広めて欲しいくらいなので殺す気はなかったのだが、せっかくなので貰ってきたらしい。
そう報告するシーラの表情は、ちょっと冴えない。
誇り高い騎士であるシーラにとって、盗賊の真似事をしたみたいで心中複雑なのだろう。
だけどそれでも金貨を持ち帰ってきたという事は、シーラの中でも戦いについての認識が変わってきたのだと思う。
シーラの父親は帝国軍の軍人だったそうだけど、正規軍の。それも伯爵家の当主であってみれば、シーラが知っている父の姿は、命令を受けて戦場に向かい。敵と戦ってそれを打ち倒す勇ましい光景だろう。
でもそれは戦いの派手な部分だけで、裏では俗に兵站と呼ばれる、食料や物資の調達と輸送。なんなら生産も。
そして、それにかかる人手や資金にまで考えを巡らせないといけないのだ。
シーラ父も多少はやっていただろうけど、国の命令で出兵する時は資金も物資も人手も、国がそれなりに面倒を見てくれただろう。
そして子供の視線は、どうしても派手な部分に行きがちだ。
シーラの戦いに対する認識が、表の戦闘だけに偏っていてもしょうがない。
だけどジェルファ王国解放軍を立ち上げて以来。俺がこの兵站に頭を悩ませ、苦労する様子をとなりで見てきたシーラは、戦いというものに対する認識を変えた……と言うか、広げてくれたのだろう。
そんなシーラが確保してきてくれた物資と資金をありがたく頂戴し。リーズからは、拠点の整備状況を聞く。
大草原に間隔を置いて、3ヶ所の仮拠点を設置し、それぞれに食料と若干の装備、物資を集積したとの事。
これはシーラ達が作戦行動をする時の、補給所になる場所だ。
そしてそのさらに奥に、本拠地にする拠点を作るべく適地を探しに行ったそうだけど、草原だけに守りに適した場所は見つからず。
大山脈まで行くと魔獣の脅威が大きくて拠点を作るどころではなくで、適地は見つからなかったそうだ。
――なるほど、超優秀な護衛としてのティアナさんがいないと、大山脈に拠点を作るのは難しいよね。
護衛はシーラでもいいけど、シーラは基本前線で戦っているので、本拠の守備はできない。
なので本拠地を作るのは諦めて、大草原をさまよい歩く流浪の復興軍になる事にする。
俺が考えている作戦的にも、本拠地は必ずしも必要ではないからね。
寒い時期なので休む小屋とかは欲しいけど、それは攻めてくる敵側も同じなので、どちらが先に音を上げるかの我慢比べに持ち込むのだ。
拠点に篭って敵を迎え撃つのではなく、戦わずに逃げ回って、敵が力尽きるのを待つ作戦だ。
この辺りの地形をよく調べておけば、地の利がある分だけ逃げ回る俺達が有利になるだろうし、食料は動く肉である羊を大量に買い付けてきた。
高騰した穀物を村で買い付けて運んでくる帝国軍より、ずっと有利だと思う。
帝国軍も羊を買い集めるかもしれないけど、遊牧民の皆さんには想定戦場から退避するようにお願いしたので、まず接触が難しいだろう。
そして俺が大量に買いつけたので、大量調達も難しいはずだ。
ずっと東の方の部族まで行けば買えるだろうけど、それを運んでくるのは相当な手間だと思うので、キサの一族の全面協力を得て、羊を運んでもらえる俺達の方が圧倒的に優位である。
……そんな訳で、計画を聞いたシーラがしばらく理解できない様子でキョトンとしていた。戦わずに敵を自滅に追い込む作戦が採用された。
まぁ、戦わないと言っても全力でぶつかる大会戦をやらないだけで、逃げ回る都合上速度が速い敵の騎兵は討つ必要があるだろうし、可能なら嫌がらせ的な小規模攻撃はかける予定だ。
その辺の打ち合わせも済ませ、早速作戦を実行に移す。
まずは、編成中の帝国軍をジェルファ王国ではなく俺達に向けないといけないので、村の徴税官館を襲う作戦を継続しつつ、人数を増やしていく。
可能なら小さい街まで手を広げてもいいけど、街壁などの防御施設がある所は攻めにくいので、無理はしない方向で。
復興軍にその街の出身者がいて、内通が可能とかならチャレンジしてもらう。
その手の作戦はシーラが苦手とする所なので、リーズさんにお願いする。
最終的に復興軍5000人が全員襲撃に参加する事になるけど、全員で一隊はさすがに効率が悪いし動きにくいので、500人ずつの10隊編成にする。
これはセラードが骨組みを作っておいてくれたので、実行に移すのは簡単だ。
そして各隊から5名ずつ、50人の志願者を募って、キサに短期集中で放牧の仕方と羊の管理、解体などについて講義をしてもらう。
遊牧民から送られてきた羊を、俺達の側で放牧するための人員だ。
放牧は必然的にあちこちを移動する事になるので、ついでにこの辺りの地形把握と地図作りもお願いする。
将来帝国軍に追われて逃げ回る状況になった時、各隊に地理に詳しい人がいるのは役に立つだろう。
そんな事を考えながら編成を済ませ。街とかに攻め込む場合は数隊をまとめて、1000なり2000なりの兵力にする段取りも整える。
そして街に攻め込んだ場合でも、
・領主側の施設を襲うだけで、占領はしない。
・もし復興軍に参加を希望する人がいても、今は加入させない
という2点を徹底しておく。
街を占領しても数万の帝国軍本隊が来たら守りきれる訳がないし、下手をしたら住民も巻き込んで大きな損害を出してしまう。
そして新規加入者はスパイが入り込む可能性があるのと。帝国軍が来た時に逃げ回る段階では、新兵はついてこられない可能性が高いからだ。
当分は訓練を積んだベテランの兵士だけで運用して、新兵を募るのはもっと先の段階。
勢力圏を確保して、こちらも大軍を運用できるようになってからにする。
占領しないと新兵を入れないの2点はリーズさんを通じて兵士一人一人に徹底し、今は遊撃戦に徹する事をよく理解してもらう。
そんな感じで計画をまとめた俺は、後の事をシーラとリーズに託して、キサと二人で南へ向かう。
目指すのは、ファラの街。
帝国北西部にあって、塩を卸していた商会の支店長さんが立ち上げた商会がある街だ。
あそこなら帝国軍の情報が取れるはずなので、敵の動向をいち早く掴む事ができる。
固定の位置なので、シーラ達に何かあった場合の伝令も来やすいしね。
とりあえず帝国軍の動きを探り。誘導に成功して北に向かってきたら、先回りをしてその情報をシーラ達に届けるのが俺の仕事だ。
帝国軍が北に向かってきたら、復興軍は大草原の奥に撤退して、逃げ回りモードに移行する。
そこまでが今回の作戦の第一段階なので、まずはその形の実現をめざす。
俺は帝国軍が作戦に乗ってくるようにと祈りながら、キサの馬に乗せてもらって南へと向かうのだった……。
帝国暦169年 1月13日
現時点での帝国に対する影響度……6.2622%(+0.018)※帝国北部で村の徴税官館襲撃を拡大
資産
・8755万ダルナ(+300万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




