218 復興軍の初戦と遊牧民への連絡
新しい年が明けて、俺は17歳になった。
皇帝の平均寿命が15歳だった事を考えると、後宮から逃げ出したおかげで、寿命延長2年目に突入だ。
このままずっと長生きしたいものだね、シーラと一緒に……。
しばらくそんな空想に浸った後。それを現実にするために、行動を開始する。
シーラは徐々に戦力を増やしながら村の徴税官館を攻撃、リーズは拠点の設営だ。
ちなみに攻撃する村は可能な限りの情報を集めて、領主の評判が悪い村を優先する。
さすがに帝国出身者が5000人もいると大抵の場所の出身者が揃っているので、北部出身者を中心に聞き取りをしたが、『うちの領主様はいい方です』と言う人が一人もいなかったのは悲しいね……。
宰相の独裁体制下ではまともな領主は生き残れず。宰相に媚びへつらって、一緒に私欲に走るような悪人ばかりが勢力を伸ばしているのだろう。
そしてシーラの父親は、そうやって排除された貴族の一人なのだ……。
そんな訳で狙う村はおおむねどこでもいい訳だけど、特に評判が悪かった領主の村から順に狙っていく。
俺はシーラに同行し、キサに護衛されながら襲撃の様子を遠くから見ていたけど、さすがシーラの攻撃は見事な手際だった。
村にはほぼ被害を出す事なく、徴税官館だけを焼いて、馬2頭を奪って戻ってきた。
望遠鏡で見ていると、徴税官は数人の護衛と共に逃亡。
燃える館に村人が集まってきたけど、火を消す訳ではなく。館や付属の倉庫から荷物を運び出し、そのまま家に持ち帰っている。
どうやら俺達の代わりに略奪の役目を果たしてくれているようだ。
略奪と言っても重税を課されて集められたものなので、奪うと言うより取り返すの方がしっくりくるね。
そしてビラも撒いたので復興軍の存在を示せたはずだし、領主の権威を貶める効果も十分に発揮した。初戦の成果は上々だ。
その日は手際よく3つの村の徴税官館を襲い。問題なさそうな事を確認して明日以降の事はシーラに任せ、俺はキサと二人で遊牧民の集落に向かう。
今は冬の最中だけど、元々降水量の少ない草原には分厚く雪が積もる事もなく。枯れ草が広がる薄茶色の大地を駆け抜けていくのは、寒い事に目を瞑れば気持ちがいい。
キサは遊牧民の血が騒ぐのか、とても快調に馬を飛ばしてくれ。
3日後には、特に目印がない大草原なのに、ピタリと馬の繁殖所に到着した。
俺にはどこまで行っても同じ光景に見える草原だったけど、キサにとっては懐かしい故郷の景色で、どこかに目印になるものがあったのだろう。
そんな訳で久しぶりの馬繁殖所に着き、キサのお兄さんに会って、まずは今年分の運営費。1200万ダルナを渡しておく。
そして草原が戦場になるかもしれないという話をして、馬繁殖所や、想定戦場に村があったらそこも退避をお願いし。放牧地が減る分羊を高値で大量に買い取るので、そのお金で南の村から穀物を買って欲しいとお願いする。
キサ兄は最初『親父に相談してみるから5日ほど待ってくれ』と言ったが、キサに『お兄ちゃんここを任されてるんでしょ。戦いに巻き込まれちゃったらどうするのよ』と詰め寄られ。
さらに、
『羊を高値で買ってくれるのはいい話じゃない。お金はいつでも食べ物に変える事ができるし、腐る事もない。羊みたいに干ばつが来て死んじゃう事もない。沢山蓄えておけるまたとない機会なのに、どうして迷う必要があるのよ!』
と詰められ、『お、おう……』と動揺した様子で返事をしたあと、少し考えて『わかった』と返事をしてくれた。
キサ、強くなったね……。
初めて会った時は遊牧民なのに馬に乗れない子で、劣等感からか自信なさげで大人しい子だったけど、シーラの特訓で馬に乗れるようになり。ジェルファ王国軍の兵士達に乗馬を教えるほどの腕前に育った。
加えて、シーラやエルフであるティアナさんから体術や弓術の教えを受け。
ジェルファ王国の宰相や国王と共に行動して、話をし。
教国の大司教や枢機卿との交渉の席にも同席し。
元帝国皇帝の護衛をしたりと色々経験を積んだ事で、度胸と自信が付いたのだろう。
冷静に考えれば、どれも普通なら一生経験しないような事だもんね。
そりゃ成長もするだろう。預かって見守ってきた俺としては嬉しい限りである。
そんなキサの活躍で遊牧民との交渉は順調に進み、普段は一頭6万ダルナの羊を倍の12万ダルナで500頭買い入れる契約を結ぶ。
たしかキサの一族が飼っている羊がおおむね700頭と聞いた記憶があるので、およそ7割だ。
買い過ぎかもしれないけど、足りなくなったら他の一族から買い足すだろうから、問題ないと思う。
そして他の一族もお金で穀物を買えば、帝国北部で穀物が品薄になり。帝国軍に影響を与えるだろう。
一方の俺達は買い付けた羊を食料にするので、穀物が品薄になって値上がりしても問題はない。
いざとなればジェルファ王国から買い付ける事もできるしね。
――そんな訳で、羊は順次遊牧民の人が俺達の拠点まで運んでくれる事になり。馬繁殖所の維持費と併せて、7200万ダルナを支払う。
帝国軍が北に向かってくるのはもう少し先になるだろうから、その間に輸送を終えてしまえば危険はないだろう。
支払いは、教国から貰った白銀鎧の売却代金が早くも役に立った。
大司教様と、前金でくれたクレア宰相に感謝である。
そして草原では戦いにも移動にも馬があるととても便利なので、馬養殖場の本領発揮となる。
キサに『何頭までなら連れて帰れる?』と訊いたら、『草原を移動するだけなら50頭は』と心強い答えを貰ったので、50頭を馬具つき7000万ダルナで購入した。
――街で買う値段の半値で質もいいとはいえ、やはり馬は高いね……教国から貰った白馬100頭の価値がよく分かる。
鎧の白銀と併せて、5億ダルナ相当だ。
その援助を最大限利用して戦備を整え、帝国軍をこちらに引きつけ、持久戦に持ち込むのだ。
現状帝国軍を正面から打ち破るだけの戦力はないし、持久戦に持ち込んで相手の消耗を。特に地方領主達の経済的な消耗を誘う方が、効率よく敵の戦力を削る事ができると思う。
そんな訳で、キサの活躍もあって遊牧民との話は迅速にまとまり。俺達は買いつけた馬50頭を連れて、帝国復興軍の拠点へと戻るのだった……。
帝国暦169年 1月7日
現時点での帝国に対する影響度……6.2442%(+0.002)※帝国北部で複数の村の徴税官館を襲撃
資産
・8455万ダルナ(-1億4200)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×35
配下
シーラ(部下・帝国復興軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息 帝国復興軍後方部隊長と前線部隊長)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




