215 凱旋
イドリアの街を離れ。教国軍の前線部隊に寄って、同行の軍人さんから撤収命令を伝えてもらい。メルツ達の所に戻った時には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。
メルツに教国との間で不可侵条約が成立した(多分)事を知らせ、メルツの方からも、『帝国軍は全員降伏しました。捕虜の数は現在確認中です』と報告を受ける。
教国軍との間にも問題は発生しなかったようで、ホッと胸をなで下ろし。大司教様と約束した案件の実行にかかる。
「メルツ、昨日見た教国の親衛隊いたじゃない。あの人達の遺体回収を俺達でやる事になったから、疲れている所悪いけど、軽装で100人ほど人員を集めてくれない。
今からやって朝までには終わらせたいから、松明も」
「了解しました」
メルツが人員を手配してくれている間に、俺とシーラとキサはメーアが運んできてくれた簡単な食事を食べ。人員が揃った所で現場へと向かう。
メルツが揃えてくれたメンバーは、精鋭部隊員10人を含むかなりの猛者揃いだった。
俺のお願いなので気を利かせてくれたのか、一日戦ったあとで更に徹夜作業なんて、普通の人間にはできないからなのか。
ともかく集まったメンバーと現場に向かい。『別々に』と言われたので、まずは装備の回収をはじめる。
……なんか死体漁りみたいで、ちょっと微妙な光景だね。
その間に俺は30人を連れてイドリアの街に向かい、用意されているという棺を受け取りに行く。
東部地区大司教様に会って教会の倉庫に案内されると、そこにあったのは普通の木箱だった。
棺と言うから棺桶みたいなのを想像していたのに。教国ではこれが普通なのか、あるいは急場の措置なのか。
気にはなったけどそんな事を訊く空気でもなかったので、一人一箱を担いで運び、三往復して100箱を揃える。
それに鎧を脱がせた遺体を納め、あとはその辺に置いておいてくれればいいと言われたので、適当に並べておく。
そして剥いだ鎧の方は、俺達がお持ち帰りだ。
担いでだと運びにくいので、ちょっと嫌な感じがするけど身に付ける。
実はこれが大司教様から追加で出された条件で、『親衛隊の白銀の鎧をまとった部隊を編成して、それでジェルファ王国まで帰って欲しい』という内容だ。
――多分だけど、道中の街で親衛隊が健在であるように見せたいのだろう。
住民の動揺を小さくするための手段なのか、あるいは親衛隊全滅自体を闇に葬るつもりなのか。
それは分からないけど、とりあえず『威厳をもって進んで欲しい。ただし、どんなに乞われても街や村には寄らないように』とお願いされた。
死体から剥いだ鎧を着てもらう人達には申し訳ないけど、俺達としてもジェルファ王国軍と親衛隊が友好的な様子を見せられるのはありがたいし、最後はジェルファ王国まで持ち帰って、融かして一旦地金にする事を条件に、俺達の物にしていいという話だった。
白銀は高価な物なので、正直とてもありがたい。
偽親衛隊員が乗る用の白馬100頭も貰えたけど、大司教様としてはこれから帝国と戦う俺達に、『援軍は出せないがせめて……』という心使いもあるのかもしれないね。
白銀は軍資金に、馬は戦力になるから、いくらあっても困らない。
――そんな訳で、帰りの道程は順調に進み。
食料を運んでくれる荷車隊の帰りに負傷兵を乗せてもらう事で次第に進軍速度も上がり、12月2日。無事王都に凱旋を果たす事ができた。
王都のメインストリートで戦勝記念パレードが行われたが、道の両側には住民が大挙して詰めかけ、大喝采の嵐で、ちょっと引くくらいである。
帝国軍に辛酸を舐めさせられたジェルファ王国民にとって、帝国軍を打ち破ったというのは、まさに胸のすく快挙なのだろう。
パレードに続いてエリス国王主催の式典が行われ、ロムス教皇国が新生ジェルファ王国の独立を承認したという情報に、また大きな歓声が起こった。
……その日は王都中で夜遅くまで祝宴が繰り広げられたみたいだけど、俺達は浮かれてばかりいる訳にもいかないので、早速エリス国王達と今後の話をする。
教国であった事を報告し、そのうち正式に不可侵条約の調印式とかをやる事になると思うから、その用意と、定期的に教国と連絡を取る事をお願いしておく。
教国で仲介者になってくれた商人さんも一緒に帰ってきたから、この先も仲介をしてくれると思う。
その見返りとして、王国と教国の間の貿易で多少の便宜を図ってもらうよう、クレア宰相とミリザ内務大臣にお願いしておく。
そして、貰った白銀の鎧兜をなるべく人目に触れないように鋳潰して、売却する段取りも整えてもらう。
その作業には結構時間がかかると思うんだけど、クレア宰相が『早い方がいいでしょうから』と言って、想定売却額に当たる2億ダルナを先払いしてくれた。
正直とても助かるが、地金の状態で一人分200万ダルナとか、ホントに高価な装備だったんだね……。
ちなみに見た目が綺麗なだけで、特別な防御効果とかはないらしい。
まぁ、元の持ち主の親衛隊があっさり全滅していたもんね……。
それはともかく、今後の行動方針としては、東の帝国と戦う事になる。
いよいよ本来の敵との戦いだ。
それに備えて色々準備をしてきた訳だけど、ジェルファ王国軍は原則戦いには参加しない。
理想としては帝国の中で戦い、ジェルファ王国は表向き中立か、なんなら帝国寄り。裏では俺達の支援拠点になって貰う計画だ。
直接参戦よりもこの方が貢献度が高いと思う。
なにしろ帝国軍は強大なので、ここを攻めると明確な目標を決められたら、そこは粉砕されてしまうに決まっているからね。
それは砦でも街でも、ジェルファ王国でもだ。
なのでジェルファ王国が攻められないように、密かに帝国の内部と連絡を取って、先の戦いで捕虜にした貴族達の返還交渉をやる。
表向きはジェルファ王国が仲介者として教国と交渉をし、教国に身代金を払う形で、捕虜の貴族を返還するのだ。
調べた所、捕虜の中には有力貴族の身内もいるようだから、交渉をしている間はジェルファ王国が攻め滅ぼされる事はない……と思う。多分。
この交渉もエリス達にお願いし、帝国とパイプを持っている、塩を卸している商会の支店長さんを紹介しておく。
そして俺達は身代金を軍資金にしつつ、当面は昔帝国の西方新領でやったように、正体不明・拠点不明の反乱勢力として、帝国領内で活動する計画だ。
現在帝国で編成中らしい新しい遠征軍がジェルファ王国に向かってくる前に行動を起こして、帝国軍の注意をそちらに引きつけたい。
そのためには時間がないので、迅速に必要な事を決めていく。
まず、ジェルファ王国軍はこのまま東に移動して、帝国との国境を固めてもらう。
だけどジェルファ王国の国力的に今の規模で軍を維持するのは不可能なので、帝国軍の目が反乱軍に向いたのを確認したら、軍に残りたい人だけを募って、残りは故郷へ戻ってもらう。
特に西部は帝国と王国の戦いで荒れているので、復興が急務。そのためには人手が必要なのだ。
帝国領内で戦う反乱軍に参加してくれる義勇兵も募るつもりだけど、これにはあまり期待していない。
いくら帝国に恨みがあるとはいえ、せっかく取り戻した故郷を離れて帝国本土に乗り込み。圧倒的に不利な状況で戦おうなんて人は、あまりいないと思う。
一応募集をかけてみる程度だ。
主力になるのは帝国軍の捕虜達で、元王都守備隊だった人達。そして今回新たに獲得した人達だ。
セラードに説得頑張ってもらいたい。
ちなみに今回の戦いで得た捕虜は、1万1200人と、逃亡兵が2800人。
8万の大軍で国境を越え、イドリアの街での戦い前で4万人以上残っていたのに、酷い損耗率だ。
この中ですぐに戦える健康な兵士が、逃亡兵を加えて9000人ほど。
負傷者は矢傷刀傷から手足の欠損まで色々だけど、可能な限り回復させて戦力にしたい。
一方でジェルファ王国軍も、死者567人、負傷者2360人の損害が出たそうで。帝国軍や、おそらくこの何十倍もの損害を出しただろう教国軍に比べれば限定的とはいえ、決して少ない数ではない。
負傷者も戦死者の遺族も、国の解放に身を捧げた英雄としてエリス達がちゃんと面倒を見ると請け負ってくれたけど、心が痛む事には変わりない。
エルフの傷薬が無限にあればいいんだけど、それは望み得ない事だし。やはり戦いである以上、慣れるしかないのだろう。
こんな事に慣れたくないけどね……。
そんな苦しい気持ちを胸に。来たるべき帝国との戦いの準備は、急速に進んでいくのだった……。
帝国暦168年 12月2日
現時点での帝国に対する影響度……6.2422%(±0)
資産
・2億1947万ダルナ(+2億)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×55
配下
シーラ(部下・ジェルファ王国軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




