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213 軍師の戦いと武人の戦い

 シーラの一喝で教国軍の動きが止まり。戦場に一応の小康しょうこう状態が生まれた所で、俺は教国軍の指揮官らしい人を見つけ。戦闘が終了したので兵士の撤収と、教国の偉い人への取り次ぎを求める。


 教国軍第二軍団第一部隊長と名乗ったその人は、『私の判断で撤収はできません』と言って撤収は拒否したけど。帝国軍に動きがない限り現在地に留まる事と、取り次ぎは了解してくれた。


 相変わらず戦意が高いね……。これが神のご加護を受けているという親衛隊全滅の知らせを聞くだけで骨抜きになってしまうのだから、信仰心というのは難しいものだ。


 とりあえず精鋭部隊のみんなに教国軍の見張りをお願いし。俺とシーラ、キサの3人で教国との交渉に向かう。


 戦闘は終わっても、講和が結ばれるまで戦争は終わっていない。

 俺達は教国と敵対してはいないけど、要請も了解もなく他国の領内に軍を進めた形なので、下手をすれば揉め事にもなりかねない。


 そこをうまい事誤魔化して、教国にジェルファ王国の独立を認めてもらわなくてはいけないのだ。


 武人の戦争はもう終わったけど、軍師の戦いとしては、むしろこれからが本番だとさえ言える。



 緊張しながらイドリアの街に向かうが、真っ直ぐに向かったせいで途中で昨日の戦いの現場を。親衛隊が全滅した場所を通ってしまい、白銀の鎧をまとった死体が散らばっている光景を見た第二軍団第一部隊長さんが『あ……あ……』と言ってその場にへたり込んでしまった。


 自分達は勝ったんだからいいじゃないかと思うのだが、神のご加護を受けているはずの最精鋭部隊が全滅している光景は、やはり相当のショックであるらしい。


 もしこの情報を帝国軍が知っていたら、親衛隊の死体を並べておけば防御は万全だったし、投石器で街の中に投げ込めば、教国軍の士気はあっという間に崩壊していたんだろうね……。


 そんな非人道的な事を考え。だけどそうなっていたら今日の勝敗は逆だっただろうなと、改めて情報の重要性を噛み締めながら、立てなくなってしまった第一部隊長さんを馬に乗せて先を急ぐ。

 街に入るには仲介者がいるからね。


 時間はもう夕方なので、せめて今日中に停戦の確約と、教国軍の撤収までは取り付けたい。


 そんな算段を立てながらイドリアの街に着くと、街の入口に誰もいなかった。


 ……門番まで含めて全員出撃した? いや、さすがにそんな事はないだろう。


 考えられるとしたら……ここの門番は、昨日の戦場に一番近い所にいたって事だよね……。


 目の前で戦争やってる時の門番なんて、最大級に重要な仕事だろうに。

 それすら放棄してしまうほどに、教国人にとって神の権威が否定されてしまったのはショックなのだろうか?


 不気味な感じを覚えながら門を素通りし。街に入ると、大通りはガランとしていて、人の気配が全くない。


 帝国軍の侵攻におびえてみんな避難した……訳ないよね。

 昨日の夜から端緒たんしょが見えていたように、みんな教会に集まっているのだろう。


 ……これはどうなんだろうね?


 神の権威イコール教会の権威が失墜しっついした時、教国の民はどうするのだろう?


 初めはショックだろうけど、その衝撃から立ち直った時。教会を否定する反政府勢力とかが生まれるのだろうか?


 ……将来、俺が帝国の皇帝に復帰した後なら、教国の混乱も弱体化も悪い事ではない。


 だけど俺が帝国と戦っている最中に、背後での混乱は困る。


 内戦にでもなったらジェルファ王国にも影響が出かねないので、西の守りを厚くしないといけない。


 そうなったら当然東の帝国を警戒するための兵力が減るし、国力も消耗してしまう。


 それは困るね……帝国を牽制けんせいするためにも、当面は強大な教国でいて欲しい。


 そんな事を考えながら昨日案内されたこの街最大の教会に向かうと、案の定、周りは住民でいっぱいだった。


 様子を観察するが、すでに親衛隊壊滅の情報は伝わっているらしく。みんな呆然と座り込んでいて、なにかぶつぶつ祈りの言葉みたいなのを唱えている人もいる。


 まだ最初のショック状態なのだろう。これがもう少し時間が経って、お腹空いたので家に帰ってごはんを食べたりすると、現実と向き合う時間がやってくる。


 その時どんな反応が出るかは分からないけど、その前に教会から公式の声明みたいなのを出しておけば、少しは違うだろうにね。


 そんな事もできないほど、教会側も混乱しているのだろう。


 昨日の様子を思い出しながら裏手に回ると、警備もいないし扉には鍵がかかっていて、叩いても呼んでもなにも反応がない。


 これはダメかなと思って、隣の教国軍本部になっている宿へ向かうと、こちらも似たような状態だったが、入口の扉は開いていた。


 勝手に中に入って歩き回っていると、しばらくして『何者だ!』と鋭い声が飛んでくる。


 昨日もこんな事あったなと思いながら声の主を見ると、服装からして軍人だ。


 やはり軍人は聖職者よりも、神のご加護が否定されたショックが小さいのだろう。


 そんな事を考えながら、『ジェルファ王国軍の者です。こちらの方に仲介をお願いして来ました。ヤズド第一軍団長にお会いしたいのですが』と、歩けないのでキサが背負っている部隊長さんを前に出して言うと、軍人さんの目にふっと悲しそうな色が浮かぶ。


「軍団長殿は今日の攻撃の先頭に立って軍を指揮し、戦死なされた」


 ――おおう、あの人話が分かりそうだったのに、死んでしまったのか……。


 その事自体もショックだけど、第一軍団長ともあろう人が攻撃の先頭に立って戦死したというのも、中々衝撃的な話だ。

 小隊長とかなら分からなくもないけどさ……。


「では、東部地区管轄の大司教様にお目通り願えませんか? 『昨日会って頂いたジェルファ王国の者です』と言ってもらえれば分かると思います」


「……わかりました、こちらでお待ちください」


 軍人さんは思いっきり胡散臭うさんくさい者を見る目をしていたが、俺が大司教様の知り合いを名乗ると、とりあえず近くの部屋に案内してくれた。

 どうやら聖職者の威光はまだ健在のようである。



 ……しばらく待つ間。俺はシーラに話を向けてみる。


「シーラ、ヤズド軍団長が戦死したって話どう思う?」


「本当かどうかをお疑いであれば、真偽は分かりません。

 ですが、嘘にしてはつく必要がない嘘に感じます。


 攻撃隊の先頭に立って戦ったという話に関しては、一軍を預かる者としてはあまりに軽率な行動であると言えます。


 ですが、教国軍の軍制が統率を聖職者に、指揮を軍人に執らせる形式であるのなら、その是非は別として、国の命運がかかった戦いで先鋒せんぽうを務めるのは武人として最高の名誉であり。それで戦死しても本懐ほんかいであると、私なら考えるでしょう」


「そっか……」


 シーラならそう言うような気がしていたけど、ヤズド軍団長も同じ気持ちだったのだろうか?



 そうだったら少しでも救われるような気がしながら。俺は大司教様が来るまでの時間、ヤズド軍団長の姿を思い出しながら複雑な気持ちで過ごすのだった……。




帝国暦168年 11月1日


現時点での帝国に対する影響度……6.2422%(±0)


資産

・1947万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×55


配下

シーラ(部下・ジェルファ王国軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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