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212 イドリア郊外の戦い決着

 俺に向かって全力の突撃をかけてくる帝国軍の勢いに、思わず脚立きゃたつモドキを降りて逃げようとした時。


 帝国軍の隊列の横腹に、50騎ほどの騎兵が猛然と突進していく。


 前しか見ずに突撃していたのだろう帝国軍は、突然横から現れた敵に防御が間に合わず。シーラを先頭にしたジェルファ王国軍精鋭部隊は、大蛇だいじゃの腹を食い破るように帝国軍の列に突っ込んでいく。


 ――それは本当に、これ以上ないくらい絶妙なタイミングで。動きを止めない帝国軍の中にいる、一際立派な騎士。

 おそらく総司令官のケルマン公爵だろう人と、先頭で突撃するシーラとがピッタリ重なったと思った瞬間。兵士の群れの中に突然赤い花が咲いたように、血飛沫ちしぶきが上がるのが見えた。


 それは本当に一瞬の出来事で、シーラ達は馬を止める事をせず。そのまま反対側に駆け抜けていく。


 ――いくら敵将を討ち取っても、その場で止まったら敵兵に囲まれて、50騎くらいの騎兵なんてあっという間に討ち取られてしまうだろう。とても正しい判断だ。


 シーラは訓練でいつも、『騎兵の利点は速さだ。速さは振り下ろす武器に勢いを加え、敵の攻撃を当てにくくする、攻防一体の効果がある。

 だから騎兵は常に速くあれ。止まっている騎兵などただの的でしかない。人馬一体となって戦場を駆け抜けられるよう、自分の馬をよくいつくしんで世話をし、騎乗であっても地に足を付けているがごとく体を動かせるように鍛錬せよ!』と言っていたけど、今まさにそれが形になって実を結んでいるのだ。


 シーラ自身も先頭に立って訓練に励み。俺がちょっと嫉妬しっとするくらい、愛馬のシルハくんを可愛がっていたもんね……。


 そんな事を思い出している間に、シーラ達は帝国軍の中を反対側まで駆け抜け、そのまま距離をとってこちらに戻ってくる。


 帝国軍の隊列は真っ二つに引き裂かれ、総司令官を失った事で混乱が生じているが、その影響が広がっているのはまだ一部だけ。


 そして、元々包囲からの脱出を兼ねた突撃だったせいもあるのだろう。

 分断された前半分はそのままこっちに向かってくるし、後ろ半分も止まる事はない。


 こちらはメルツとメーアが予備部隊を指揮し、急いで防御陣形を構築しているが、間に合うかどうか微妙な所だ。


 ……やっぱり逃げるか?


 そんな考えが頭をよぎった時。こちらに戻ってきていたシーラ達が突然向きを変え、再び帝国軍へと向かっていく。


 帝国軍はほとんど徒歩なので、騎兵との機動力の差は段違いだ。先頭近くまで追いついたシーラ達は、再び帝国軍の隊列に突入していく――。


 今度は特定の目標はなかったようだけど、頭を潰される形になった帝国軍の進撃速度は一気ににぶり。

 先頭で起きた事だけに、後続部隊からもよく見えたのだろう。全軍に動揺が走るのが見て取れる。


 そして分断された後ろ半分では、総司令官戦死の情報が急速に広まっているのだろう。みるみる戦意が低下していくのが、見ているだけで伝わってくる……。


「……メルツ、命令変更! 帝国軍の前方を囲むように予備部隊を展開させて。前線の部隊にも連絡して、帝国軍を包囲する形に。

 その上で攻撃は抑えて、俺達は教国軍じゃない事を強調した上で。降服すれば命は助けると言って投降を呼びかけて。捕虜はなるべく丁寧に扱ってあげてね」


「了解しました!」


 俺の指示で予備隊の動きが変わり、伝令の騎馬兵が駆け出していく。


 ……降伏した敵兵を丁寧に扱うというのは、ついさっきまで命のやり取りをしていた相手だけに、とても難しい事だ。

 特にジェルファ王国兵は帝国兵に強い恨みを持っているので、余計にだろう。


 だけど俺としては帝国兵は将来の味方候補なので、なるべく多く確保しておきたい。


 正直皇帝だった自覚はあまりないけど、皇帝としては帝国兵は守るべき存在だしね。


 なのでどれだけ有効かはともかく、帝国兵を保護する命令を出しておく。教国軍に捕まったら殺されちゃうに決まっているから、それはできるだけ避けたい。


 貴族の捕虜に関しては、身代金を取る計画もあるしね……。



 そんな事を考えながら戦場の様子を見ていると、総司令官の戦死と二度目の包囲を受けた事。さらに騎兵隊の突撃を受けたせいもあって帝国軍の士気は急速に低下しているようで、次々に武器を捨てて降伏している様子が見える。


 一部では抵抗を続けている部隊もあるようだけど、今更戦況をひっくり返すのは不可能だろう。


 どうやら勝敗は決したようで、ホッと一息……つく間もなく、俺は脚立を降りて『キサ、馬を出して!』と叫ぶ。


 最初に帝国軍が包囲された場所にいた教国軍が、今帝国軍がいる方へと動き出すのを見たからだ。

 せっかく帝国軍を降伏させられそうなのに、今教国軍が乗り込んできたら全部台無しになってしまう。


「メルツ、軍の指揮は任せた! なるべく穏当に、一人でも多くの捕虜を取るように動いて。

 キサ、シーラの所に向かって!」


 そう言うと二人共すぐに了解の返事をしてくれ、俺はキサの馬に乗ってシーラの元へと向かう。



 ――シーラは帝国軍の包囲網近くで、降伏する帝国兵達を無表情のままじっと見つめていたが。俺の気配に気付くと馬から降り、頭を下げようとする。


「シーラ、そんなのいいから馬に乗って!」


 そう叫ぶと、目にスッと鋭さが戻り。ヒラリと馬に飛び乗る。


 普通なら戦いは終わったと気を抜いていてもおかしくないタイミングなのに、この切り替えの速さはさすがだ。


 キサの馬がとなりを通る頃にはシーラは馬を返し、ピタリとそばについてくる。配下の精鋭部隊のみんなもそれに続き、なにも言っていないのにあっという間に一団が形成された。さすがだ。


「なにかありましたか?」


 馬を走らせながら、シーラが訊いてくる。


「教国軍がこっちに向かってる。このままだと厄介な事になるから、ここで一旦停戦にしたい。その話をしにいく」


「――なるほど」


 得心とくしんのいった声を発すると、シーラは馬のスピードを上げ、俺達の前に出る。



 前方に見える土煙に向かってしばらく走ると、教国軍の兵士達が見えてきた。


 全員目を血走らせ、鬼気迫る表情をしていて、すごい迫力だ。ぶっちゃけ怖い。


 こんな集団に襲いかかられるとか、正直恐怖以外の何物でもない。俺達じゃなくてよかったの一言に尽きる。


 ――とても話をする雰囲気ではないので、キサに馬のスピードを緩めてもらい。話ができそうな指揮官は……と探すが、見当たらない。

 ……ていうかこれ、指揮官もガンギマリ状態である可能性あるな。


 どうしようかと思っていたら、前を走っていたシーラが馬を止め。目立つようにだろうか、教国兵達に側面を見せるように馬の首を巡らせると、スッと息を吸い込む――。


「帝国軍は降伏した! 戦いは終わったのだ、止まれ!」


 ――高く澄んだ。それでいて強い力のこもった凛とした声が戦場に響き。その堂々として威厳いげんに満ちた姿に、目に狂気の色さえ宿していた教国兵達が、我に返ったように足を止める。

 まるで命令されたみたいだ。


 ……なんかすごいよね。シーラは完全に大将軍の器だと思うし、カリスマ性にかけては俺より皇帝に向いてるんじゃないかと思う。


 そして、まだ帝国軍は降伏していないし小規模な戦闘も続いているのに、『降伏した』と言い切ってしまう思い切りのよさも中々のものだ。



 シーラの一喝によって教国軍が停止した事で、戦いは事実上の終息へと向かい。俺は教国の上層部とこれからの事について話し合いをするべく、とりあえずこの場の指揮官を探すのだった……。




帝国暦168年 11月1日


現時点での帝国に対する影響度……6.2422%(+3.5)※ロムス教国討伐軍壊滅


資産

・1947万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×55


配下

シーラ(部下・ジェルファ王国軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

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