表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/261

211 帝国遠征軍強襲

 ジェルファ王国軍と合流し、戦場へと近付いて行くと、次第に音が聞こえてきはじめる。


 武器と武器とがぶつかる音や、武器がよろいかぶと、盾を叩く音。

 それに兵士達の雄叫おたけびや悲鳴、指揮官達の命令や怒号どごうが入り混じった、個人的には不快な音である。


 その戦場の音は、いやが上にも兵士達の間に緊張感を増し。全員に戦場に近付いているのだという事を実感させる。



 ――そして、先頭を行く俺達の視界に帝国軍の後衛が映った時。メルツがありったけの声で『かかれぇ!』と叫び、それまで伏せられていたジェルファ王国の旗が高々と掲げられて、2万人の部隊が帝国軍の背後に突っ込んでいく。


 教国の偉い人達に『3万人率いてきた』と言ったのは正直ちょっと盛った数で、実際の戦闘要員は2万5000とちょっと。残りは食料を運んでくれる後方の補給部隊なんだけど、まぁバレないだろう。


 そしてその内2万人を帝国軍に向け、残りの5000人とシーラの精鋭部隊は、予備として手元に置いておく。


 戦いはマラソンと同じで、いきなり全力投入は推奨される行為ではないのだ。


 教国軍はその辺気にしないみたいだけどね……。



 それはともかく、ジェルファ王国軍の主力は帝国軍の背中に襲い掛かり。俺は周辺に高台がないので、秘密兵器。ハシゴを二つ組み合わせた脚立きゃたつみたいなのを作って、それに登る。


 本当は帝国軍みたいなやぐらがあるといいんだけど、身を潜めていた都合上そんな目立つ物は作れなかったので、長槍2本と適当な棒とロープで作った即席のハシゴ。

 それを二つ『ハ』の字型に組み合わせた、脚立モドキだ。


 長槍が4メートルくらいあるので、上まで登ると視点の高さは3メートルくらい。

 大した事ないようだけど、平坦な場所ではそこそこ見通しが効く。


 槍がしなってちょっと怖いけど、丈夫な木で作られているはずなので、多分大丈夫だと思う。


 一応下でキサが支えてくれているし、いざとなればシーラが受け止めてくれる……んじゃないかなと信じている。


 攻城戦では、こうやって作ったハシゴを二つか三つ繋いで街壁を登ったりするそうだから、それに比べれば大分マシだと自分に言い聞かせ。望遠鏡で戦場を観察する。


 多分向こうからも目立っていると思うけど、この世界には銃みたいに何百メートルも向こうから狙撃してくる武器がないので、そこは安心だ。

 周辺は予備部隊が固めてくれているので、弓で射たれる距離までは近寄ってこれないだろう。



 ――そんな訳で戦場を見渡すと、攻撃に向かったジェルファ王国軍は守備が弱くなっていた帝国軍の背後を襲い、一塊になって帝国軍の中を突き進んでいく。


 危ない戦い方ではあるけど、この戦いは多分敵将を討ち取るか捕縛すれば終わるはずだから、短期決戦を目論もくろむなら必要な事だ。


 ……が、最初は順調に見えた進撃も、帝国軍の奥深く入り込むにつれて抵抗が激しくなり、前進速度が鈍っていく。


 前方では教国軍の前進速度が増したが、これも一気に本陣を突けるほどではない。


 やはり帝国軍の用兵は巧みだ。このままではズルズルと続く消耗戦になってしまい、それでも最終的には勝てるかもしれないけど、味方にも大きな損害が出るので避けたい所だ。


 それに、教国軍に親衛隊壊滅の情報が広まったら、士気を喪失して戦えなくなる危険もはらんでいる。



 ――なにか状況を打開するいい案はないかと考えていると、昔読んだ兵法書に『戦場では敵の動きを先読みできれば有利になる。だけど相手の考えを正確に予想するのは難しいので、こちらの動きで敵を誘い。こちらが想定する行動を取らせて、それに対応した策を講じるのが上策である』と書かれていたのを思い出す。


 ……よし。


「メルツ、攻撃部隊に100歩後退して左右に広がって、包囲陣形に移行するように伝えて!」


 脚立もどきの上からそう叫ぶと、『了解です!』とメルツの力の入った返事が返ってきて、すぐに各隊に向け、4騎の伝令が走り出す。


 一旦引くという案に反対意見が出るかと思ったが、みんなスムーズに受け入れてくれた。


 それだけ信用されてるという理解でいいのだろうか? 頑張らないとね……。


 決意も新たに戦場を見つめていると、ジェルファ王国軍がゆっくりと後退をはじめ、余裕ができた帝国軍は一ヶ所に集結し、態勢を立て直しつつある。


 形としては敵に余裕を与えてしまった事になるけど、余裕ができれば次の行動を起こすだろう。

 そしてそれは、あのままズルズル消耗戦を続けるよりずっといい。


 教国軍からの攻撃は続いているので、帝国軍の動きは素早くとはいかないようだけど、上手く一塊になりつつあり。ジェルファ王国軍はそれを包囲する形で、左右に広がる。


 野戦で包囲されるのは大変よくないというのは兵法の常識だけど、一塊になっているという事は、まとまって次の行動を起こすつもりなのだろう。


 問題はその次の行動だけど……正直この状況からできる事は限られる。


 まとめた部隊を一点突破で攻撃に振り向けて、包囲を破って脱出するか、敵の急所を突くかである。


 そして帝国軍は、ここが敵地の奥深くである事を考えると、一旦退却して体勢を立て直すという案は採りにくいはずだ。


 援軍が来る訳でもないし、宰相の誕生日までに王都に朗報を届けろという縛りもある。


 そうなると乾坤一擲けんこんいってきの大逆転を目論もくろみ、敵の急所を。具体的には大将首とかを狙ってくる可能性が高い。


 本命としては前方の敵の大将を狙いたいだろうけど、教国軍の大将がどこにいるかは、俺の位置から戦場を見渡してみても分からない。

 イドリアの街の街壁の上とかだったら、手が出せないよね。


 じゃあ他に急所になりそうな場所は……と戦場を見回すが、特に見当たらない。


 前方の教国軍は相変わらずの力押しだし、ジェルファ王国軍はメルツの指揮が上手いのと訓練を積んだ精兵であるおかげで、隙のない完璧な包囲陣を構築している。


 ……そういえばこれも兵法書で読んだ話だけど。『戦いの場を見回して、カモがいないなと思った時は自分がカモだ』と書いてあった。


 ――なるほど、俺の位置からは見えないけど。そういえば戦場で一際高い脚立もどきに登って、望遠鏡を覗きながら指示を出してる奴がいる気がするな。


 突撃先を探している帝国軍からしたら、格好の目標に見えるだろう。


 ……うん。最初に戻って、『戦場では敵の動きを先読みできれば有利になる。だけどそれは難しいので、こちらの行動で敵の動きを誘い、それに対応した行動を取るのが上策である』案件だね。


「メルツ、予備隊を帝国軍に向けて防御陣形で配置して。シーラ、精鋭部隊を率いて前方左に伏せて。敵の主力がこっちに向かってきたら、敵将をめがけて横から突っ込んで。

 キサ、いざとなったら俺を乗せて向こうの森に逃げられるように、馬の準備をしておいて」


 俺の指示にメルツは一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、シーラとキサは『はい!』と勢いのいい返事をして、迅速に行動に移してくれる。


 メルツも一歩遅れて予備隊に指示を出し、迅速に陣形が組まれていく……のを見ている間に。一塊になって包囲されていた帝国軍が、突然一斉に同じ方向に向かって動き出した。


 一部の部隊が教国軍の足止めに残り、残りの主力は南側。教国軍とジェルファ王国軍の隙間で、ある意味一番もろい場所に向かって、全力で走り出す。


 先頭はなにやら派手なよろいをまとった大柄な騎馬兵で、太い槍を振り回して元気いっぱいだ。


 多分勇猛な将とかなのだろう。


 もし俺の前まで来て一騎打ちとか申し込まれたら、全力で逃げよう。


 そんな情けない事を考えている間に、南に向かった帝国軍は犠牲を出しながらも包囲を突破し。東に向きを変えてこちらに向かってくる。


 一日中戦ってクタクタなはずなのに、結構な勢いだ。さすが帝国軍の精鋭部隊といわれているだけある。


 包囲に当たっていたジェルファ王国軍が慌てて向きを変えて後を追う……が、追いつけそうにない。


 騎兵が少ないのがジェルファ王国軍の泣き所だよね……。


 ――と、そんな事を考えている間に、帝国軍は尾が広い流れ星のような形になって、真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。


 この速さだと、負傷兵は戦場に置いてきたのだろう。……さっきまで帝国軍がいた辺りに、教国兵達が群れを成している。


 あそこでなにが起きているかは、ちょっと考えたくないね……。


 そして帝国軍の心配をしている前に、自分の心配だ。帝国軍の主力が、俺に向かって一直線に突っ込んでくる。


 メルツとメーアが大慌てで防御陣形を構築しているけど、ちょっと間に合わないかもしれない。敵将の判断は速かったね、やはり相当優秀なのだろう。



 ――これはちょっとまずいかなと、脚立もどきを降りて逃げの態勢に入りかけた瞬間。遠くからシーラの凛とした声が響いて来るのが聞こえ、降りかけた脚立に足を戻して声の方を見ると、50騎ほどの騎馬部隊が帝国軍の横腹に向かって、真一文字に斬り込んでいく所だった。


 先頭に黒い髪をなびかせ、槍をかかげたシーラの姿が見え。その後に全員見覚えがある。元孤児で元冒険者、今は精鋭部隊の部隊員である子達の姿が続く。



 帝国遠征軍との戦いは、いよいよ最終局面を迎えようとしていた……。




帝国暦168年 11月1日


現時点での帝国に対する影響度……2.7422%(±0)


資産

・1947万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×55


配下

シーラ(部下・ジェルファ王国軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・ジェルファ王国宰相)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)

ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)

多数の誤字報告を下さった方ありがとうございます。こっそり修正しておきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ