205 教国の様子
教国との仲介者を探すべく、急いで王都に向かったが、王都に囚われていた教国人というのは1商隊5人しかおらず。ほとんど選択の余地なく、その商隊の長だったというヒゲの男性に決まった。
仲介者さんにはキサと同じ馬に乗ってもらい、急いでメルツ達の元に取って返して往復9日が過ぎたので。メルツに会うと、教国軍の戦いの情報が入ってきていた。
偵察隊の情報によると、王都を包囲していた教国軍は転進後。今から8日前に帝国軍に追いつき、そこで一大会戦が戦われたらしい。
自国を異教徒に侵された教国軍は怒りに燃えて戦い、すさまじい戦闘となったが、背後を取ったとはいえ消耗した部隊。しかも3倍以上の数の差がある相手とあってはどうにもならず、3日間の戦闘で文字通り全滅してしまったのだそうだ。
……俺と停戦交渉をした、あの枢機卿も死んでしまったのだろうか?
ちょっと切ない気持ちが胸をよぎるが、そんな場合ではないので続けて報告を聞くと、その戦いで帝国軍も大きな打撃を受け。残った兵士は4万人強であるらしい。
元は8万人だったはずなので、ほぼ半減。逃亡者も相当数いるみたいだけど、消耗した教国軍は同数か、それ以上の損害を帝国軍に与えたようだ。
頑張ったね……。
――とはいえ、4万人強もかなりの数である。
侵攻を諦めて戻って来られると非常に困るが、俺が作った偽の勅令状にある宰相からの命令は、相当強く総司令官を縛っているはずだ。
宰相からの命令に失敗したら、帝国での地位は絶望的。最悪処刑まであるだろうからね。
なので断固前進してくれている事を信じて、俺達ジェルファ王国軍も教国領内に足を踏み入れる事にする。
今まで捕えた帝国の逃亡兵と、この先逃げてくる兵士達は元解放軍訓練所にいるセラードの所に送るよう手配し、そのための若干の人員を残し、進軍を開始した。
偵察隊の報告によると、教国の元王都包囲軍と帝国軍が戦った場所までは、国境から馬を飛ばして4日の距離。
俺達が徒歩で行軍すると、半月ほどの場所だ。
帝国軍が相当教国領の奥深く侵攻している事が分かる。
ぶっちゃけ、ここでの教国の被害が大きければ大きいほど。俺達の救援と緩衝地帯としてのジェルファ王国に価値が出るので、非情なようだけど、作戦はとても順調と言っていい。
……俺、死んだら地獄に落ちるのかなと思いながら、仲介者の人と並んで、軍の先頭を進んでいく。
俺達の傍らには、ジェルファ王国の旗と並んで、教国の旗が掲げられている。
王都街壁外の戦闘後に戦場から回収したもので、軍隊が他国の旗を掲げるのは国際条約……的な物はないらしいけど、一般常識としてやってはいけない事らしい。
だけど俺達の軍には一人だけ教国の人がいるので、その人が教国の旗を掲げている……という事にしている。
苦しい言い訳なのは百も承知だけど、こうでもしないと教国領内を進むのは危険すぎるからね。
さすがに3万人いる本隊を正面から襲ったりはしないだろうけど、俺達は食料を自前供給で後方から輸送する予定なので、その輸送隊を狙われると非常に困る。
なので進路上に街や村を発見するたびに、仲介者の人と一緒に訪問して、『俺達は憎き帝国軍を共に打ち倒すために来た、ジェルファ王国からの援軍です』と説明して回る。
仲介人さんはさすが商人だけあって、どこの街にも顔見知りがいて話を通してくれるので、とても助かる。
やはり地位は低くても実績だよね。
教国側としてはとても胡散臭く見ているようだけど、俺達が食料を始めとしてなにも奪わず、行儀よくしているのを見ると、一定の理解を示してくれた。
これは多分、異教徒イコール敵と考えるような過激派の人達が遠征軍に参加し、ほとんど全滅してしまったおかげなんだろうね……。
――そんな教国領をとりあえず3日間進んだ感想としては、教国軍の守備はとても危うい。
主力はやはり遠征軍として帝国に攻め込んだようで、残っているのは各街のわずかな守備隊だけ。
帝国軍は先を急ぐために、街壁に守られた街は素通りして村だけを襲い、食料を調達しながら西に進んだらしい。
それなら守備隊も街に篭っていればいいと思うのだが、異教徒に国を荒らされるのが許せなかったのか、地元の村を守ろうと個別に戦いを挑んだようで、多勢に無勢であっという間に壊滅してしまっているらしい。
戦意高く最後の1人まで戦うので、多少の損害は与えられたし、帝国兵に精神的なストレスを与える事もできたみたいだけど、戦略的にはよくないよね。
……そして街は、満足な武器もないので住民が日用品を。包丁やハンマー、果ては棒切れを持って守りについているらしく、帝国軍が素通りして行ったからいいけど、攻められていたらわりと酷い事になったと思う。
さすがに街の人が全滅するまで戦うような事はないと思うけど、今まで教国人と接してきたイメージだと、半分死んでも驚かない。
いくらこの戦いで教国が受けるダメージが大きいほど後の交渉で有利になるとはいえ、さすがに寝覚めが悪すぎるよね……。
そんな訳で教国領を西に進み。街々で得た情報と、仲介者の商人さんの意見。帝国軍が進んでいる方向と、俺が偽の勅令状に書いた『教国の奥深くまで進攻し、1月25日までに朗報を帝都に届けよ』という指示を勘案した結果、帝国軍の目的地は『イドリヤ』という街だろうという結論に達した。
そこは教国東部で最大の街で、国全体で見ても五本の指に入る大きな街。
大きな川が流れていて交通の要衝である他、近くには鉱山もあるという街らしい。
そこを占領すれば、宰相の誕生日に届ける『朗報』としては、最高の物になるだろうとの事だった。
多分そこが決戦の地になるとの見込みで、俺達もそこに向かう。
帝国軍の進軍速度的に、すでに街に到達している可能性が高いらしいので、俺達も先を急ぐ。
――進路上には帝国軍と教国の元王都包囲軍が戦った場所があるのだが、そこは今でも死体が大量に転がる地獄のような光景が広がっているとの事で。先を急いではいるけど、そこだけは迂回して通った。
そんなものを見たら兵士達の士気が下がるかもしれないし、そもそも見たくないからね……。
――という訳で、晩秋の風が吹く10月の30日。
教国領内を平和的に進んだ俺達は、決戦の場となるイドリアの街の郊外に着陣したのだった……。
帝国暦168年 10月30日
現時点での帝国に対する影響度……2.7422%(±0)
資産
・1950万ダルナ(-453万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×55
配下
シーラ(部下・ジェルファ王国軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏家業三代目)