204 帝国遠征軍を討つ方法
メルツ率いるジェルファ王国軍と合流を果たし。状況の報告を受けて、早速これからの行動を決める会議を開く。
メンバーは俺とシーラ、メルツにメーア、護衛のキサという最低限の顔ぶれだ。
会議の内容は単純で、教国内に攻め込んでいる帝国の『ロムス教国討伐軍』を撃破する方法。
実現はとても難しいんだけど、実現に至る道筋はほとんど一択だと思うので、話自体はややこしくない。
「最初に俺の考えを話すから、なにか意見があったらその都度言って」
そう前置きして、俺の見解をみんなに聞いてもらう。
「まず大前提として、帝国軍が健在じゃないといけない。
教国の本国軍と、王都包囲から転進した遠征軍に挟まれて負けたんじゃ、倒す相手がいなくなっちゃうからね。
その情報はそのうち偵察隊が届けてくれるだろうけど、とりあえず教国軍が負けて、帝国軍が健在である前提で話を進めるよ」
俺の言葉に、みんな黙って頷く。
この前提が狂っちゃうと、作戦を根本から見直さないといけなくなるからね。
「それで帝国軍と戦う方法だけど、あまり時間はかけられない。
早ければ来年早々にも、帝国本土で新たな遠征軍が編成されて、こちらに向かってくる見込みという情報が入った。
それまでには西での戦いを片付けて教国と平和条約を結んで、東に転じて帝国軍に備えておかないといけない」
その言葉に全員の。特にメルツとメーアの表情が険しくなる。
まずこの計画の実現が難しい上に、仮に全て上手くいったとしても、ジェルファ王国軍だけで新しい帝国軍を撃退できる気がしないのだろう。
その件については一応、最近まで帝国軍の部隊指揮官をやっていたセラードから情報を得て対応を考えているけど、今は教国領内にいる帝国の遠征軍を撃破するのが先だ。
それができないと俺達が挟み撃ちにされる事になってしまい、勝機なんて皆無になってしまう。
なので今は目先の敵に集中する事にして、その倒し方だ。
「帝国の遠征軍を撃破するには、教国軍との連携が必須になる。なのでエリス国王に教国宛の親書を書いてもらったので、これを届ける事になる訳だけど……まず接触するのが難しいと思う。
だから、今王都の郊外で面倒を見ている教国軍の負傷兵。あそこから話が通じる有力者を探し出して、その人に仲介をお願いしようと思うんだけど、どうかな?」
俺の言葉に、メルツが難しい表情をして口を開く。
「それはどうでしょうか……私もあの中に利用できる者がいないかと思って見て回りましたが、正直協力者を探すだけでも難しいと思います。
異教徒からの施しなど受けたくないと言って食事を拒否する者がいるので、王都内にいたロムス教徒を探して、世話係として雇い入れたくらいですから」
おおう、反対されるのかと思ったらそっちか……。
ホント狂信的な信者は厄介だね…………ん?
「あれ、教国兵は異教徒からの施しを受けるのも嫌で協力してくれないのに、王都にいたロムス教徒は世話係として協力してくれてるの? 同じ信者を助けるためだからとか、そんな感じ?」
「それもあるかもしれませんが、単純に信仰の深さに個人差があるようです。
教国軍は異教徒を憎む過激派で、異教徒との戦いに進んで志願した熱心な信者の集団であり、教国内においてもある種特異な存在であると、世話係に雇った教国人が言っていました。
逆に、王都にいた教国人はほとんどが商人であり。教国内でも特別信仰心が薄い部類の人達であるようです。
なので我々に協力してくれましたが、教国内における商人の地位は低いようですから、彼等に交渉の仲介を頼むのは難しいと思います」
なるほど、教国内でも特に過激派な人達で構成されたのが教国軍で、その中でも特に極まった人達が、開戦当初にいた捨て身の攻撃をかけてくる人達だった訳だ。
そして彼等彼女等は教国内でも多数派ではないらしい。
そこはちょっと安心した。全員あんな人達で構成された国だったら、さすがにちょっとやば過ぎるもんね。
……そして、今のはかなりいい情報である。
攻めて来た教国軍が教国内における過激派の集まりだったなら、それがほとんど全滅した今、教国内では穏健派が主流になっていて、交渉がしやすい可能性がある。
……逃げてきた帝国兵からの情報によると、今でも教国軍は降伏を拒否して全滅するまで戦うそうだから、穏健派と言っても俺が想像する穏健派とは全然違う可能性もあるけど、少なくとも多少はいい情報だと思う。
でもそうなると、強硬派である教国軍の生き残りを仲介者にするのはよくないかもしれないね。
なら他の仲介者候補は……。
「――ねぇメルツ、王都にいた教国の人を雇ってるって言ってたけど、その人達包囲戦中はどうしてたの?
教国軍に囲まれてたんだから、こっそり逃げ出したりできたんじゃない?」
「内通と破壊工作を警戒されて、帝国軍に拘束されていたようです」
「ああ、なるほど。それなら裏切りを疑われる事もないだろうから、その人達に仲介を頼もうか」
「……ですが先ほども申し上げましたが、教国において商人は地位が低い存在とされているようです。仲介役としては適さないかと」
「地位が低いって表向きじゃないかな? 商人っていう職業の性質を考えれば、顔は広いだろうし色んな人との関係を持ってると思うんだよね。他国まで商売に来るような人なら、特に」
実際、諸説あるらしいけど、元の世界の士農工商とか、商人を下に置いていたけど、江戸時代中期以降は商人の影響力が大きかったと聞いている。
中世ヨーロッパでも、商人は物を生産せず、右から左に流すだけで利益を得る卑しい存在だとされていた時代や地域があったらしいけど、地位は低くても影響力はあった。教国もそんな感じなんじゃないかなと思う。
……だけどメルツは、イマイチピンときていない様子だ。
この世界でも商人の地位はあまり高くないみたいだから、分かりにくいのだろうか?
「とりあえず、ダメ元でやってみようよ。なにか他にいい案があるならそっちにするけど、誰かある?」
そう訊いてみたけど誰も手を上げなかったので、メルツ達には引き続きこの場に留まって情報収集に当たってもらい、俺は急いで王都に戻って、仲介者候補の商人を連れて来る事にする。
戻ってくる頃には、王都を包囲していた教国軍と帝国軍の戦いがどうなったかも分かっているだろう……。
帝国暦168年 9月29日
現時点での帝国に対する影響度……2.7422%(±0)
資産
・2403万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×55
配下
シーラ(部下・ジェルファ王国軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・ジェルファ王国軍務大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・ジェルファ王国軍務副大臣・E級冒険者 月15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・ジェルファ王国国王・将来の息子の嫁候補 月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・ジェルファ王国宰相)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・ジェルファ王国軍部隊長 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下・元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)
ミリザ(協力者・ジェルファ王国内務大臣・王都を仕切る裏稼業三代目)




