200 新生ジェルファ王国建国式
朝から抜けるような青空となった、帝国暦168年の8月30日。
王都にある王城前広場は、数万人の群集で埋め尽くされている。
みな新しいジェルファ王国の建国を祝おうと。そして新しい国王と、解放軍の英雄メルツを見ようと集まって来たのだ。
群集の最前列には解放軍から選ばれた兵士2000人がこちらを向いて整列していて、全員が見上げる先には、以前からこういう用途に使われていたのだろう。石造りのバルコニーがある。
――時間になり。壇上に人影が現れると、それだけでもう群集は大歓声だ。
バルコニーの中央にエリスが陣取り、その左にミリザさん。右にメルツとメーアが並んで、その更に左右には指揮官の子達が10人ずつ並ぶ。
……一方で、俺とシーラは将来の事を考えると顔バレするのはよくないので、裏に引っ込んで陰から見守っている。
顔を見られたくない事情があるクレアさんも同じくだ。
エリスとメルツが『新生ジェルファ王国の建国に一番ご尽力下さったアルサルさんが表に出られないなんて……』と悲しそうにしてくれたけど、これは俺達の側の都合だからね……。
とりあえず気持ちだけありがたく頂いて、俺とシーラとクレアさんとキサは陰から式典を見守らせていただく。
観衆の大喝采はしばらくの間止む事なく。最初にメルツが前に立ち、言葉を発する事ができるようになるまで、しばらく時間を要したほどだった。
……わずかに歓声が小さくなったタイミングを見計らって、メルツがありったけの声を張り上げ。教国軍と帝国軍に対する勝利を宣言をする。
――その瞬間の大歓声は地面を揺らすほどで、メルツが次の言葉を発せられるようになるまで、たっぷり10分以上かかったと思う。
いかに帝国軍と教国軍が嫌われていたかがよく分かるね……一応帝国の人間としてはちょっと複雑である。
まぁ、それだけの事をしたんだからしょうがないだろうし、抑圧から解放された人達の喜びがとびっきりなのも理解できる。
なので歓声を上げて手を振り、涙を流す人さえいるのを温かく見守り。俺は失脚してこんなに喜ばれる皇帝にはなりたくないなと、そんな事を考える……。
観衆が少し落ち着いた所で、メルツは勇敢に戦った解放軍を讃え。また大歓声が起こった後、今度は解放軍を助けてくれた国民みんなを讃えて、また大歓声と。テンポ悪く式典は進んでいく。
そして最後に、『解放軍を組織し、育て、支え、運営してくれた偉大な母にして、新生ジェルファ王国の女王、ジェルファ11世=エリス陛下からお言葉を賜ります!』と言って、メルツは一歩後ろに下がる。
ジェルファ11世という名は、帝国に滅ぼされた時の王が10世だったので、普通にそれを襲名した。
新しい王朝にする案もあったけど、馴染みがあって受け入れられやすいという理由で、ジェルファ王国を継承する事になったのだ。
もちろんエリスは王族じゃないけど、王としてやっていく能力があって、それを支える人達がいて、国民の支持があれば、血筋はなんとでもなる。100年位前の王の、庶子の子孫だとでも主張すればいいのだ。
元の世界だと三国志の劉備とか、ホントに漢王室の血縁かどうかとても疑わしいけど、蜀漢の皇帝に即位したからね。
みんなが認めれば、それが事実になるのだ。
そしてエリスには、解放軍総司令官にして解放戦争の英雄であるメルツ以下、元孤児である解放軍主要部隊の隊長達。
行政官としてとても優秀なクレアさんに、王都裏社会を仕切るミリザさん。
そして、いつか帝国皇帝に返り咲けたらいいなと思っている俺の全面的な支援がある。
俺の力は現状大した事ないので置いといて。これだけの支持があれば、今のジェルファ王国内にエリスに取って代われる人はいないだろう。
少なくとも帝国に攻められてさっさと降伏し、今は帝国内で小さな領地を貰って細々と暮らしているらしい元ジェルファ国王や、他の貴族達。
東から攻めてきた帝国軍に追われて西の教国へ逃亡し、そこに亡命政権を立てたものの、教国からさえ敵視されて今どうなっているか分からない人達なんかがなにを言った所で、エリスの地位は揺るがない。
将来的に正統性を確保するため、旧王家の関係者と形だけの結婚をする必要はあるかもしれないけど、統治が盤石ならそれさえ必要ないかもしれない。
……とはいえ、今王城前広場に集まっている人達は、メルツが新国王になると思っていた人が多いのだろう。
一瞬戸惑いの空気が流れたが、エリスが前に出た瞬間『エリス女王万歳!』の声が上がると、あっという間に伝染して『女王万歳!』の声に包まれる。
ちなみに最初に上がった『エリス女王万歳!』の声は、ミリザさんに頼んで群衆の中に配置した、配下の人達によるヤラセである。
だけどそれが全体に広がり、壇上ではメルツが片膝を突いてエリス女王に臣下の礼を取り。
左右に並んでいる指揮官達20人も一斉にそれに倣い、観衆の前に並んでいる解放軍の兵士達も『女王万歳!』の声と共に姿勢を正して敬礼をすると、もう場の空気は確定的である。
こうなったらもう、エリスが若い女の子である事も問題にならない。
ひとしきり続いた『女王万歳!』の声の後、エリスが高らかに『今この場において、敬愛する国民と忠勇なる兵士達の献身の結果として、解放された自由な国家。新生ジェルファ王国の建国を宣言します!』と謳い上げると、今までで一番大きな歓声が巻き起こる。
……とりあえず建国宣言は無事に済み。エリス女王も認知されたと思うので、建国記念式典は大成功だと思う。
この式典を直接見ていない地方都市では、素性の知れない若い女が国王になったという話に反発が出るかもしれないが、軍隊と政府中枢をしっかりと掌握している以上、エリスの地位は揺らがないはずだ。
エリスの能力は、北部解放区に避難してきた人達の間でも知られているしね。
そんな訳で、正式名称は従来通り『ジェルファ王国』。以前の王朝と区別する場合は『新生ジェルファ王国』と呼称される事になった国は、無事建国を果たす事ができた。
あとは、この国を守り存続させる事である。
東の帝国は大軍を派遣したばかりであり。すぐに次の軍を繰り出すのは難しいと思うので、その間に西に向かって教国を攻めている帝国の遠征軍を撃破し、教国との間に和睦を結んで緩衝地帯としての存在を認めてもらい、東に備える。
同時に俺が帝国本土に揺さぶりをかけて大規模な遠征軍の襲来を阻止できれば、ジェルファ王国は存続する事ができるはずだ。
簡単ではないけど、不可能という訳でもないと思う。
俺の目的のためにもジェルファ王国の存在はぜひとも必要なので、存続が叶うよう、最大限の努力を注ぎ込みたいと思う。
沸き立つ群衆を見ながら決意を新たに。俺は計画の次の段階へと考えを巡らせるのだった……。
帝国暦168年 8月30日
現時点での帝国に対する影響度……2.7422%(+1.5) ※帝国西方新領に新生ジェルファ王国を建国
資産
・2490万ダルナ
・エリスに預けた反乱軍運営資金 5640万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×5
配下
シーラ(部下・解放軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・解放軍総司令官・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・解放軍総司令官補佐・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・新生ジェルファ王国国王・解放軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・解放軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・解放軍部隊長 月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下 元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)
ミリザ(協力者 ジェルファ王国王都を仕切る裏稼業三代目)




