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20 上級魔獣

 冒険者生活5日目。俺とシーラの冒険者生活は順調であり、そうでもない部分もある。


 順調なのは成果の方で、シーラは毎日3・4匹の魔獣を狩って、30万ダルナ前後の稼ぎを叩き出してくれる。


 C級冒険者の月収にも相当する額だそうで、魔石が供給過剰で値崩れを起こさない限り、ずっとこれでいいと思うくらいだ。


 装備も充実し、シーラの槍と弓もいいものに買い替えたし、くつや服も冒険向きのものを買った。カバンも大きなものに替えたし、万一に備えて、1000万ダルナもする上級傷薬も一本購入した。


 上級傷薬はさすがに迷ったけど、致命傷に近い傷も回復する事ができるとの事で、命には代えられないと購入を決めたのだ。


 シーラが肌身離さず、こしに付けたポーチに入れて持ち歩いている。


 一方順調ではないのは、仲間集めである。


 いつか反乱軍を組織する気満々のシーラとしては、むしろこっちがメインというくらいに力を入れているのだが、残念ながら反乱の同志どころか、パーティーメンバーも集まっていない。


 冒険者ギルドを通じてメンバーの募集をかけているのだが、いきなり現れた出自不明の余所者よそもの二人組という事で、警戒されているらしい。


 それでも何人かは応募があったのだが、美人なシーラ目当てに下心で寄ってくる男性冒険者と、俺達の金回りがいいのを見てお金目当てで寄ってくる人達ばかりで、シーラの面接によって不採用になった。


 まぁ、新参のパーティに早々優秀な人材は来てくれないよね……。


 この世界には奴隷制度があるようなので、いっそ奴隷を買って仲間にする事も考えたが、シーラがあまり好まないようなので先送り中だ。


 そんな訳で実績を積むのもかねて二人で魔石採取に行く日々が続いているのだが、荷物持ち担当の俺の力が限られているので、せっかく倒した魔獣の素材の大半を持ち帰る事ができないでいる。


 森に放置しても他の魔獣や動物のエサになるので、無駄という訳ではないけど、お金になるものなのでもったいない。


 森には道がなくて馬を連れて入る事ができないので、せっかくいるシルハ君も出番がなく、宿の馬小屋に繋がれたままで暇そうだ。


 なので何とかして仲間を増やしたいのだが、シーラのお眼鏡に適う人となると難しいかなぁ……。


 そんな事を考えながら、冒険者生活一週間を迎えた頃。


 この世界には一か月の区切りはあるけど一週間の区切りはなく、土曜日はおろか日曜日もないと知って絶望に襲われながら森に通っていると、不意にシーラが足を止め。耳を澄ませたかと思うと、表情を険しくする。


「アルサル様、荷物は置いて、全速力で付いてきてください」


 ――なにがあったのかは分からないが、ただならぬ雰囲気に荷物をその場に置き、シーラの後を追って全力で走り出す。


 ……身軽になって全力で走った所で到底シーラには及ばないが、シーラは加減してくれているのだろう。先行しつつも一定の距離を保って森の中を駆けていく。


 足手まとい感全開で申し訳なくなるが、ともかく全力で走り、倒木を乗り超える……と、前方からシーラの『待て!』と言う声が響いてきた。


 俺に言われた感じではなかったのでそのまま走って追いついてみると、そこにいたのはクマのような大きな魔獣。そして地面に横たわる冒険者と、もう一人。折れた剣を手にした冒険者だった。


 地面に倒れている冒険者は女性で、まだ息はあるようだが、お腹と右足の太ももからひどく出血している。


 もう一人は男性で、女性冒険者のかたわらにしゃがみ込み、折れた剣を……女性冒険者に向けているように見える。


 そしてシーラが、二人をかばうようにクマのような魔獣との間に立って、やりを構えていた。


 クマのような魔獣は今まで森で見た事ない巨大なサイズで、シーラの1.5倍くらいある。


 冒険者ギルドにあった魔獣リストで見た覚えがあって、グレートベアという名前。山に生息する上級魔獣で、C級冒険者が複数か、B級冒険者でないと対応できない強力な魔獣のはずだ。


 本来森にはいないはずだけど、迷い込んできたところで、運悪く二人が襲われたのだろう。


 そしてこの魔獣には恐ろしい習性があって、獲物を一気に殺す事をせず。生きたまま巣に持ち帰って、少しずつ食べると書いてあった気がする。


 それは食べられる側にとっては、悪夢のような話だ。


 男性冒険者が怪我をした女性冒険者に折れた剣を向けていたのも、そんな地獄を味あわせるくらいならいっそひと思いに……という事なのかもしれない。


 だとしたらシーラが『待て!』と叫んだのも納得がいく。


 まさに絶体絶命の大ピンチで、シーラはこの気配を察知してここへ駆けてきたのだろう。


 ……だけど上級魔獣となると、シーラでもどうなるか分からない。一対一で立ち向かうには、B級冒険者相当の能力が必要なのだ。


 加えて、今回は奇襲ができなかった。一秒を争う状況だったので、弓を射かける時間がなかったのだ。


 果たしてこの状況で、シーラは上級魔獣に勝てるのだろうか?


 俺の足元にはシーラが投げ置いたのだろう弓矢があるが、これで加勢しようにも、俺の弓の腕前は酷いものだ。


 一度シーラの弓を借りて練習した事があるけど、まず力不足で満足に引けなかったし、真っ直ぐにも飛ばなかった。


 他の冒険者二人にしても、一人は重傷。もう一人も怪我をしているようだし、剣が折れてしまっている。


 シーラが時間を稼いでくれている間に逃げるにしても、たしかグレートベアは力と素早さに優れ、獲物に強い執着心を持つとも書いてあった気がする。


 ……道のない森の中、人を担いで走る困難さを考えると、逃げ切るのは不可能だろう。


 シーラは勝算のない戦いはしないとか言うタイプではなく、死病に罹った俺を命がけで看病してくれた時のように、正義感に駆られて無茶な事をするタイプだ。


 今回の事も、勝算あってとは限らない。


 ――なにか、手伝わないといけないよね。


 俺は視線を巡らせ、シーラとグレートベアが睨み合っている間に、足元の弓矢を拾って、二人組の冒険者の元へ駆けだした……。



「弓はできますか?」


 呆然としている男性冒険者に声をかけると、我に返ったように表情を変え『少しなら……』と答えた。全然な俺よりは可能性があるだろう。


「これを持って横へ走って、シーラの援護をしてやってください。難しければ最初の一撃だけで構いません」


 そう言って弓矢を渡すと、男性冒険者は真剣な顔になってうなずき、シーラ越しにグレートベアの姿を確認すると、横に駆け出す……。


 ――男性冒険者が放った矢はわりと正確にグレートベアに向かったが、鋭さが足りなかったのか、あっさりと叩き落されてしまう。


 だけど矢に気を取られた隙はシーラにとって十分なもので、目に見えないような速さで地面を蹴って距離を詰め、グレートベアの胸をめがけて槍を突き込む――。


 森を震わせるような雄叫おたけびが上がり、グレートベアの体がぐらりと大きく揺れる……が、倒れる事なく踏み止まった。


 心臓がある辺りに槍が刺さったと思うのだが、さすがは上級魔獣なのだろう、一撃では倒れないらしい。


 だがシーラはそんな事想定済みだったらしく。攻撃の手を緩める事なく、胸に刺さった槍から手を離し、槍のに回し蹴りを当てる。


 グレートベアの体内で槍先が大きく動いたのだろう。今度の雄叫びは悲鳴に近いものだった……えぐい。


 だけど命の遣り取りの場でそんな事を言っていられるはずもなく、シーラは腰から短剣を抜くと、やみくもに振るわれるグレートベアの腕をくぐり、ヒラリと身を躍らせてグレートベアの首筋にナイフを突き立て、思い切り横にぐ。


 ……今まで魔獣を解体する様子を見て思っていたけど、シーラってこういう事に躊躇ちゅうちょがないよね。


 狩りの経験があるのだろうし、狩猟をする冒険者であればむしろ当然で、苦手な俺の方が問題あるんだろうけどさ……。


 ――ともあれ、胸をえぐられた上に首を裂かれてはさすがのグレートベアも耐えられなかったようで、大量の血を噴き出し。やがて地面に倒れて動かなくなった。


 鋭い目を敵に向けたまま、体全体に浴びた返り血をぬぐうシーラの姿は、ゾクリとするほどカッコイイ……。


 ――って、今は見惚みとれている場合じゃない。



 俺は慌てて、重傷を負って倒れている冒険者へと視線を移すのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・429万2080ダルナ(+208万1400)

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ(結構ハゲてきた)


配下

シーラ(部下・D級冒険者)

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