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2 行動方針

 致死性の伝染病に侵されていたはずの俺に、口移しで水を飲ませてくれたシーラ。


 病気は多分治っているとはいえ、そんな事は知らないはずだし。ここに点滴や注射器がないのなら、自力で水を飲めないほど弱った子供を救う方法は他になかったかもしれない。


 多分代わりなんていくらでもいる、見捨てられた皇帝なのに。自分の命をかえりみる事なくそれをやってくれたのは、本当に優しい子だからなのだろう……。俺にとっては、大きな借りだ。


 借りは返したいし、シーラはとてもかわいいので、できればこれからも一緒にいたい。


 俺が皇帝のままでいられるならそれは可能だろうけど……どうなのだろう?


 とりあえず本当に伝染病にかかっただけで暗殺された訳ではないのなら、今日明日どうこうという事にはならないと思う。


 俺が死ぬ前提でもう次の皇帝が決まっていて、お払い箱になるならそれも悪くない。


 むしろどこかに小さい領地でももらえて、安全安心悠々自適の生活ができるなら大歓迎だ。そこにシーラも付いて来てくれたら、言う事なしである。


 ……でも多分、そう上手くはいかないんだろうね。


 皇帝をお飾りにして権力を握っている悪い大臣的な存在がいるなら、反乱の旗印になりかねない先代皇帝を野に放つはずがない。


 そうなると俺に残された選択肢は、一生無害な皇帝を演じ続けるか、時間を稼いでいる間に宝石かなんかをちょろまかして、逃げる事だろう。


 前者は演技に自信がないし、常に死の恐怖におびえながら生きる事になるので、事実上逃亡一択だ。


 シーラも付いて来てくれたら最高だけど、それはシーラの意思次第だろう。危ない逃避行だし、シーラにもここで夢とか目的とかあるかもしれないからね。


 断られたら、借りを返すのは別の方法を考えよう。皇帝権限で宝石とか贈れないかな?



 そんな行動計画を考えてみるが、まずはそれが実現可能かだ。いつもの生活の場らしい後宮ハーレムからの脱出ルートや、他所の国まで逃げるなら候補国の選定。そこまでの移動手段。


 そもそもここは、俺がいた日本と同じ世界なのか。同じ世界なら家に帰るのを目標にしたいけど、それも調べないといけない。言葉は通じたけど、文字は読めるだろうか?


 いずれにしろここを出るなら、護衛が必要かもしれない。路銀は宝石をちょろまかすとして……。


 頭の中で大雑把な計画を練るが、必要な準備を秘かに整える必要がある。……それにはやっぱり、協力者がいるよね。


 とりあえず皇帝の記憶を漁ってみるが、協力者の候補は出てこない。


 となると現状、俺が頼れる人は一人しかいない訳で、人間的にも信用できると思うから、協力してくれるなら最高だ。


 ……だけど万一。逃亡の手助けを頼んで断られ、密告されたりしたら、俺はきっと暗殺されてしまうのだろう。


 命がけの看病をしてもらった俺はシーラに強い好感と信頼を持っているけど、シーラからすれば、俺は遊んでばかりのアホ皇帝かもしれない。


 子供が死にかけていたから哀れに思って助けただけで、職務を放棄して逃げると言ったら、見損なわれてしまう可能性もある。シーラはなんか、真面目そうだからね。


 なのでいきなり逃亡計画をぶっちゃけるのは危険だ。まずはもう少しシーラの事を知ってからにしよう。



 俺は日本で長くサラリーマンをやっていたので、ある程度のコミュ二ケーション能力はある。


 その能力を活かして、探りを入れてみる事にする。


「シーラ、この国に不満があったりしないか?」


 ……うん、これ逃げようって言ってるのと大体同じだね。


 よく考えたら俺、入社一か月で営業に向かない判定されて他部署に移されたし、わりとコミュ障で友達とかいなかったわ。


 突然の俺の言葉にシーラは戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに平静に戻って口を開く。


「……何も、皇帝陛下が治めるこの国に不満などありません」


 まぁそりゃそう答えるよね……だけど、俺はシーラの表情に一瞬影が落ちたのを見逃さなかった。


 コミュ障は話すのは苦手だけど、表情を読むのは得意なのだ……多分。


 そしてどうなのだろう? シーラは国に不満があると見たが、それは皇帝に対してか。あるいは国を牛耳っているのだろう偉い人に対してか。もしくは他の何かに対してか。


 俺については命がけで助けてくれたくらいだから、そう印象悪くないと思う。


 いいように扱われているかわいそうな子供か、せいぜい日々遊び暮らしている事への不快感くらいだろう。


 さっき一瞬見せたシーラの表情は、もっと根が深いもの。重たい感情からくるものだったと思う。


 よし、それなら……。


「シーラ、余はこの国には問題があると思っておる」


 ――その言葉に、今度ははっきりとシーラの表情が変わった。


「……それはどのような問題でございますか?」


「多分、お主が胸にいだいているのと同種の問題だ」


 これはサラリーマン三大奥義の一つ、『よく分からないけど、とりあえず適当に話を合わせておこう』の応用だ。


 果たして効果は抜群だったようで、シーラは厳しい表情を浮かべ、声を落として言葉を発する。


「皇帝陛下、めったな事を申されてはなりません。宰相の手の者に聞かれたらお命に関わります」


 お、いい反応だ。この国を牛耳っているのが宰相である事。やっぱり皇帝の命は軽い事。そしてシーラも宰相をよく思っていないっぽい事が一気に判明した。


 それなら話がやりやすい。


「ここで話をすると聞かれるか?」


「……いえ、監視の者も今は病気を恐れてここには来ません。階下の部屋にはおりますが、小声で話す分には聞こえないでしょう」


「そうか……ところでここはどこだ?」


「宮殿の離れの……古い建物です」


 シーラはちょっと言葉を選んだ感じがする。多分倉庫とかに隔離されているのだろう。扱い悪いなぁ、皇帝陛下。


 だけど、内緒話をするにはもってこいだ。病気を恐れて誰も来ないというのもいい。



 小声を意識して、俺はさらに情報収集を続けるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……1.2%


資産

・特になし


配下

・特になし

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