196 解放軍の初陣
王都での交渉を終えて、街の外に陣取っている解放軍に戻って来て2日。
こちらでも調整と準備を整え、今日はいよいよ解放軍の実質初陣の日である。
現在の状況は、王都の中に帝国軍。
王都を囲むように教国軍。
その更に外側を囲むように俺達解放軍という、二重包囲の形だ。
王都の街壁には東西南北にそれぞれ門があって、教国軍は取り囲むと言うより、その門の周辺を重点的に固めている。
陣地と言うのかボロ小屋と言うのか、スラム街より酷いかもしれない寄せ集めの材料で作った建物がぐるりと王都を取り巻いているが。偵察によると、そこにいるのは教国軍の負傷兵だ。
数は把握できていないけど、かなりの人数らしい。
そりゃ元は20万に迫る大軍だったし、篭城側の帝国軍ですら、半数が戦死して更に半数が重傷を負っていたのだ。
攻め手側の教国軍は、そりゃもう酷い事になっていそうだよね。
こちらも偵察隊からの情報によると、東西南北の門周辺を固めている教国軍は、総数2万ほど。
どこが本隊とかはなく、四ヶ所均等に配置されているらしい。
他に食料収集に出ている隊が結構な数あるらしく、解放軍との間で小競り合いも起きているようだが、今更食料を絞ってもあまり意味はないと思うので、普通に通すようにしている。
所在不明の敵よりは、居場所が分かっている方が対処しやすからね。
食料収集隊がどのくらい出ているか分からないけど、仮に1万だとして、教国軍の実働戦力は最大3万人ほどという見積もりになる。
負傷兵がどれだけいるか分からないけど、最初の兵力20万に比べて消耗がえげつないね……。
――まぁそれはともかく、問題はどう戦うかだ。
教国軍は相当消耗しているとはいえ、総数3万は解放軍の2万人強を上回る。
今ここにいる2万だけでも互角。戦いが長引いて敵の数が増えれば、数で劣勢になってしまう。
王都内の帝国軍4000強を加えても、教国軍の最大戦力に届くかどうかだ。
なので、全面対決に持ち込むのは大変よろしくない。
戦争はリバーシの勝負と違って、『33対31での勝利』など勝利ではないのだ。まだ戦いは始まったばかりなのに、いきなり半数も損害を出したら後が続かない。
幸い敵が分散してくれているので、こっちは集中する事にして。5000人隊が四つある内の一つに三方の牽制を任せ、残りの三隊1万5000とプラスα(アルファ)で一ヶ所を集中攻撃する事にする。
これなら敵の三倍の数で攻撃できるし、王都内の帝国軍も加えれば四倍だ。数で敵を圧倒できる。
……そしてできれば、残り三ヶ所の教国軍とは戦わずに済ませたい。
異教徒相手に降伏するような人達じゃないのは分かっているけど、話の持って行き方次第では、お引取り願う事はできるかもしれないからね。
そんな訳で俺達は王都の南側に移動し、解放軍総司令官メルツの号令一下、攻撃が開始される。
まずは矢を射掛け、続いて槍隊。そして歩兵部隊が前進する、一般的な攻撃方法だ。
教国軍は防戦しつつジリジリ後退していたが、あまり後退すると王都の街壁から帝国軍の矢が飛んでくるので、後退するのも限界がある。
これ以上下がれなくなった所でこちらも前進を止め、弓矢の攻撃でじわじわ戦力を削る戦術に出ると、しばらくして相手もこのままではジリ貧だと気付いたのだろう。捨て身の反転攻勢に出てきた。
メルツの指示が飛んで弓隊は慌てて後ろに下がり、代わりに槍隊が前に出て迎え撃つ。
――その時、シーラの『行くぞ!』という鋭い声が響き、精鋭の騎馬隊が敵の横腹めがけて突撃していく。
さすがシーラ、これ以上ないくらいの見事なタイミングだ。
攻勢に出た教国軍は横から騎馬隊の突入を受けて部隊が二分され、混乱が生じた所に、後方で王都街壁の扉が開かれ、帝国兵2000人ほどが混乱している教国軍の背後を襲う。
教国軍の混乱はその極みに達し、逃げようにも逃げる場所はなく、次々に討ち取られていく。
――そして最後に、解放軍の歩兵部隊が敵を包み込むように押し潰していく……。
教科書通りの殲滅戦だ。
……途中何度も降伏勧告をしたが、教国には『異教徒との戦いで死んだら天国にいけるが、降伏したら地獄に落ちる』という教義でもあるのか、誰も降伏しようとせず。どんなに状況が不利になっても、文字通り最後の一人まで戦った。
それは異様とさえ言える光景であり。解放軍の初陣としては重苦しい戦いになったけど、貴重な経験にもなったと思う。
――とりあえず、今日は教国軍の包囲を破って王都内との連絡を取れただけで善しとしておく事にして、再び防戦主体の守備陣形に移行する。
そして報告によると、慎重に戦って終始有利に戦いを進めたにもかかわらず、解放軍には死者236名、負傷者1231名の損害が出たらしい。
弱っていたとはいえ、決死の覚悟の兵士相手に戦うのはやはり損害が大きいね……。
初陣だから戦いに不慣れで多かった可能性もあるけど、これをあと三回はちょっと耐え難い。やはり交渉の必要がある……。
一方で、慎重に攻めたおかげか帝国軍との同士討ちは起きなかったようだ。
今回帝国軍は敵じゃないというのを解放軍に徹底してもらい、帝国軍側には早めに退いてもらったのが功を奏したのだろう。
解放軍内には帝国軍とは降伏交渉中と発表し、戦いは禁止。王都内に入る門が確保できたけど立ち入りも禁止で、物資を運び込むだけに留めている。
受け取りに来るのは帝国軍ではなく、王都の住民。……ぶっちゃけミリザさんの配下達だ。
帝国兵ではないので、立ち会う解放軍の兵士達も友好的である。
解放軍には王都出身だったり、王都に親戚や知人がいる人も少なくないが、教国軍との戦いの最中という事で、軍を離れて会いに行くのは禁止にしている。
帝国軍とのトラブルの元になるかもしれないからね。
そして帝国軍には約束の傷薬1000本を送り、残りの437本は手元に100本を残して、解放軍に提供した。
将来の事を考えると、負傷者全員に傷薬をなんて無理な話なので、そこは割り切らないといけないんだろうけどね……。
ちなみにメルツ、『上級傷薬を337本』と聞いて、目を丸くしていた。
無理もない。魔獣に襲われて重傷を負ったメーアを助けるための上級傷薬代として、メルツは『奴隷にでもなる』と言って俺達の仲間になったのだし、その後メルツが傷を負った時にメーアが求めた上級傷薬代と合わせて、今でも地道に給料から返済中なのだ。
たしか完済予定は6年くらい先だった気がする。
一度『もういいよ』と言った事があるのだが、『これはご恩を忘れない為のケジメですから』と言われて、解放軍総司令官と副官になった今も返済中だ。
律儀ないい人達だよね……。
そんなメルツ達にこれ以上心痛を与えないためにも、なんとかして教国軍との戦闘はこれで終わりにしたい。
新生ジェルファ王国建国についても考えないといけないし、やる事いっぱいで大変だね。
とりあえず、王都入城の目処が立ったのでエリス達を迎えに行く部隊を派遣し。
一方で教国軍を退かせる方法はと、俺は頭を悩ませるのだった……。
帝国暦168年 7月28日
現時点での帝国に対する影響度……1.2422%(±0)
資産
・2490万ダルナ
・エリスに預けた反乱軍運営資金 5640万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×100(-1337)
配下
シーラ(部下・解放軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・解放軍総司令官・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・解放軍総司令官補佐・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・解放軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・解放軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・解放軍部隊長 月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)
セラードとその妹リーズ(部下 元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)
ミリザ(協力者 ジェルファ王国王都を仕切る裏稼業三代目)




