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194 帝国軍守備隊を懐柔せよ

 王都を防衛する帝国軍守備隊長のセラードと、その妹リーズを味方に引き込んだ所で、改めて現状の確認をする。


「ここに残っている戦力はどのくらいだ?」


「総数で7400ですが、戦闘に耐えられる者は軽傷者を含めて4000ほどです」


 おおう、篭城したのが1万数千と聞いているから、人数で半減。戦力としては3分の1か……。


 それでも最大10万人を超えたであろう教国軍の攻撃を耐えたのだから、すごい事だ。


「食料や武器などの装備はどうだ?」


「食料は、今の配給量を維持するなら後2か月分。武器は2万人の部隊を完全武装させるくらいありますが、矢はかなり消耗しています。

 軍馬は皆無で、薬も欠乏状態です」


 なるほど、さすがロムス教国討伐軍の後方拠点だった場所。武器は豊富なんだね。


 矢を消耗しているのは、8か月も篭城戦をやったのだからしょうがない。

 むしろ無尽蔵むじんぞうに近いほど矢を放てたのが、防衛が成功した一因だと思う。


 そして食料が残り2か月分というのは、わりと際どかった感じがするね。

 これ以上篭城戦が長引いたら街の人への配給を減らす事になって、深刻な対立が生じていただろう。


 そもそもかなり大きな街なのに、住民の分も含めて10か月分も蓄えがあったのが凄いよね。


 ロムス教国討伐軍の食料として集められた物だけど、教国軍の逆侵攻を受けた時に王国西部で自動的に半分焦土作戦になったくらい、かなりギリギリの所まで集めていたのだろう。


 住民の間で帝国の評判が悪い訳だ。


 ――ともあれ、武器が大量にあるのはありがたい。この先の事を考えれば、人は集まっても武器が足りない事態は十分考えられるからね。


 ……そして、薬がないという情報。


 8か月間も激しい篭城戦をしていたのだから当然だろう。だと思ったので、ここで俺が用意してきた物が役に立つのだ。


「キサ、荷物を」


 そう言って、キサが担いでくれていた荷物をテーブルの上に置く。


 包んである布を解くと、出てくるのは一抱えくらいある木箱。中には整然と小瓶こびんが並べられている。

 うん、割れたりしてないな。


「帝国で言うと上級傷薬に相当する品だ。瀕死ひんしの重傷者でも回復するし、中程度の傷なら一本で二・三人は回復できる。とりあえず200本持ってきた」


 その言葉に、セラードもリーズもポカンとして箱を見つめる。


 無理もない。上級傷薬と言えば、平時でも一本1000万ダルナが相場の超高級品。戦時の今、まして戦場ではどれだけの価値があるか見当もつかない代物だ。


 正確に言うと上級傷薬ではなくエルフの傷薬なんだけど、効果は同等……のはずである。


 そういえば試した事なかったよね。元冒険者の子達、現部隊長の子達にも何本か渡してあるけど、使ったという報告は聞いた事がない。


 ……まぁ、多分大丈夫だろう。


 ちょっと不安はあるけど、とりあえず話を進めよう


「これを全部下賜かししよう、怪我人に使ってやるといい」


「――よろしいのですか? 上級傷薬といえば、一つ1000万ダルナは下らない品ですよ」


「構わん。できるだけ多くの兵力が欲しいし、なにより兵士達は余の大切な臣民だ。

 余の命令ではなかったとはいえ、帝国のために戦ったのだから、最大限報いてやるのは当然であろう。


 それに、実は聖女の知り合いがおってな。いくらでもとは言えんが、日に一・二本であれば調達が可能なのだ」


 聖女の話は嘘で、エルフとの交易で手に入れたものだけど、こう言った方が皇帝として箔が付くし、聖女の祝福を受けているとなれば、兵達の士気も上がるだろう。


 嘘も方便というやつだ。ちなみにこの世界における聖女は、帝国では伝説的な存在で実在を疑われるレベル。教国では教会が認定した聖女がいるという存在だ。


 架空の聖女をでっち上げて、上手い事戦いに利用できないかなと考えている。


 セラードは聖女についてなにか訊いてくるかなと思ったけど、それより皇帝の温情に感激したらしく、『ありがとうございます!』と言って深々と頭を下げる。


「うむ。今も傷の痛みに苦しんでいる兵士達がおるであろうから、早く行って治療をしてやれ……と言いたいが、その前に二つ。


 一つは、この傷薬は皇帝からの物だと伝えよ。今は余の存在を明かさず、『皇帝から』とだけでよい。


 もう一つは、皇帝と共にある聖女の存在も匂わせておけ。士気を高める効果があるだろう」


「はい」


「うむ、では行ってやれ。足りなければ後日補充するから、重傷の者を優先して手当てしてやるのだ」


「承知いたしました、御温情に深く感謝致します……」


 セラードはそう言うと、木箱を大切そうに抱えて部屋を辞していく。


 8か月間生死を共にして戦った仲間達だ。思い入れも相当強いだろう。


 兵士達にはとりあえず、『貴族の上官は自分達を見捨てて逃げたけど、皇帝は自分達を大切に思ってくれている』という認識が広まってくれればそれでいい。


 それが将来的に、『皇帝をないがしろにする悪い貴族達』を討つ動機付けになってくれるはずだ。


 そして皇帝に対する信頼は、セラードとリーズの協力があれば簡単に俺に向ける事ができる。

 帝都にいる皇帝から、身近にいる皇帝に変えるだけだからね。


 身分を明かすのはまだ先の事になるだろうけど、下地作りは順調だ。



 ――ふと見ると、リーズが落ち着かない様子でソワソワしているので、『余の相手はよいから、おまえも行ってやれ。シーラ、一緒に行って手伝ってやれ』と言うと、リーズは感謝の言葉を述べて頭を下げ、シーラと共に負傷兵達の元へ向かう。


 信頼で結ばれた、いい部下と上官の気配がするね。

 この団結力があったからこそ、教国軍の包囲から街を守り通せたのだろうし、この先の働きにも期待が持てる。


 ……兵士達の様子はリーズに同行したシーラの報告を待つ事にして、俺は今できる事をやってしまおう。


 視線を横に移し、セラードとの話の間中ずっと固まっていたミリザさんに話を向ける。


 皇帝モードは疲れるのでやめにしよう。


「――そんな訳で帝国軍との話はまとまったので、この街は近い内に解放される事になります。

 新生ジェルファ王国の王都になりますので、その予定でいてください。


 ミリザさんも新生ジェルファ王国の建国と運営に協力して頂けると助かります。……大臣とかやる気ありませんか?」


「……あたしみたいな裏の人間を大臣とか、正気か?」


「正気なつもりですけど、疑う人はいるかも知れませんね。


 でも帝国を倒すって話に比べれば、まだ正気度高いと思いますよ。ミリザさんは実際優秀ですし、現状維持だけでいい平時と違って、新しく国を建てようって時にはいろんな人の力が必要です。


 裏社会なしで大都市が成り立つと思っているほど俺は理想主義者じゃないですから、それなら内側に取り込んでしまったほうが色々やりやすいでしょう?


 ミリザさんの出自を悪く言う人はどうしても出てくるでしょうから、そこは多少我慢してもらう必要があるでしょうけど、なるべく配慮はするつもりです」


 そう言ってミリザさんの反応を見ると、まるでお化けでも見るような目で俺を見ていたが、しばらくして『……わかった。そっちが信用してくれる限り力になろう』と言ってくれた。


 エリスもクレアさんも北部出身だし、メルツとメーアは西部出身なので、王都に詳しい人の協力は心強いね。



 ……とりあえず、これで新生ジェルファ王国の建国には目処が立ったと思う。


 街の外にはまだ教国軍がいるけど、かなり弱っている様子だったので、解放軍と帝国軍で挟み撃ちにすれば撃退可能だろう。


 建国がゴールじゃなくてその先がまた大変だけど、ここまではほぼ計画通り。むしろ計画より順調なくらいである。



 俺は一山超えた安堵あんど感で大きく息をつき。体を椅子いすに沈めて目を閉じながら、次の作戦について考えを巡らせるのだった……。




帝国暦168年 7月26日


現時点での帝国に対する影響度……1.2422%(±0)


資産

・2490万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 5640万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1437(-200)


配下

シーラ(部下・解放軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・解放軍総司令官・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・解放軍総司令官補佐・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・解放軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・解放軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・解放軍部隊長 月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

セラードとその妹リーズ(部下 元帝国西方新領州都防衛隊長 元子爵家子息)

ミリザ(協力者 ジェルファ王国王都を仕切る裏稼業三代目)

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