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190 大切にされる人

 ミリザさんに手紙を預け、居室としてあてがわれた一室に落ち着くと、シーラがおもむろに顔を寄せてくる。


「アルサル様、相手の信用を得る為だったのは分かりますが、まだ敵か味方かも定かでない相手が出してきた飲み物を口にするのはおやめください。気が気ではありませんでした」


 シーラの綺麗な顔が間近に迫ってきてドキリとするが、怒られているのだからそんな場合でもない。


 よく見ると、キサも後ろで悲しそうな顔をしている。心配かけちゃったんだね……。


「ゴメン、次から気をつけるよ……」


「あ、あの……次からは私にお命じください……」


 俺はかなりシュンとしていたのだろう。キサが慌てたようにフォローを入れてくれる。


 ……気持ちは嬉しいけど、そういう訳にもいかないよね。


 キサは遊牧民のご両親から預かっている感覚だし。今回みたいに相手に信用を示すためには、俺が飲んで見せないと意味がない。


 だけど気持ちはありがたいので、『もうしないようにするから大丈夫だよ』と伝え。『ありがとうね』と言って微笑ほほえみかけておいた。


 場の空気がちょっとなごんだ感じがするが、話を聞いてみると、二人は万一俺が毒を盛られたら。動けなくなった俺をキサが背負い、シーラが退路を切り開いて、意地でも連れ帰る算段をしていたらしい。


 解毒ができるかどうかは分からないけど、とにかく最低限の安全を……という事だったらしいけど、迷惑かけないで済んでよかったね……。



 ――ともあれ、今はミリザさんとの間に一応の協力関係ができたので、出された夕食をおいしく頂く。


 メニューは麦のおかゆだけだったアジトよりは豪勢だけど、お粥にちょっと具が増えて、申し訳程度のおかずが一品付いた程度である。


 お粥の量自体はあるのでカロリーは摂れていそうだけど、他の栄養とかどうなんだろうね?


 訓練所みたいに壊血病かいけつびょうは発生していないようだから、ギリギリ足りているのだろうか?


 とりあえずここでも持参した携帯食を提供したら、干し肉は特に喜ばれた。


 王都の裏社会を仕切る組織だけに、プライドとかがあって受け取らないかなと思ったけど、その辺は特に気にしないらしい。


 応接室でお茶を淹れてくれたメイドさんは料理も担当しているらしく、『久しぶりにお嬢様に美味しい物を作ってさしあげられます』と、本当に嬉しそうだった。


 体が大きくて顔が怖い老紳士さんも嬉しそうだったし、ミリザさん好かれているんだね。


 こういう人とは仲良くしておきたい。後日クレアさんに紹介しよう。


 裏組織とかの案件は、エリスよりもクレアさんの領域だからね。




 そんな事を考えながら一夜を明かし。翌日は早速地下道経由で密輸品が運ばれてきたらしく、朝食はちょっと豪勢になっていた。


 長期の包囲下にあるこの街では、新鮮な食べ物は驚くような高値で取引されているらしいので、今のうちにお金持ちの方々にいっぱい買って頂いて、新生ジェルファ王国の運営費にしよう。


 貧しい人に回るようにすれば、富の再分配にもなる。


 教国軍の包囲はかなり雑になり。今は街壁に四つある門の部分を固めているだけらしく、午後になっても続々と物資が運び込まれてくる。



 昼を過ぎると、食べ物以外にも石鹸せっけんや布、お酒なんかの王都内で不足している品全般が運ばれてくるようになった。


 ……大きな儲けになりそうで結構な事だけど、これ解放軍の手持ちなんだよね……大丈夫だろうか?


 メルツ宛の手紙に『可能な限り供給してあげて』と書いた手前、ちょっと心配になる。


 ……まぁ、お金があれば他の街から補充が可能だろうし、大丈夫か。


 そんな事を考え、ホクホク顔のミリザさんを見ながら過ごしていたら。伝令なのだろう男の人が息を切らせて走り込んできた。


 報告を受け取ったミリザさんが、『もう返事がきたぞ』と、手紙をそのまま渡してくれる。


『覗かなくていいんですか?』と軽いジョークを飛ばすとミリザさんはちょっと気まずそうな顔をしたが、そんな姿を見ながら手紙を開く。


 内容は短く簡潔に『本日夕刻、総督居城正門に来られたし』とあるだけだ。


 さすがにいきなり皇帝だとは信じていないようだけど、無視もできなかったらしい。現時点では上々の成果だ。


「ミリザさん、総督居城って王城の事で合ってますか?」


「そうだな。帝国に占領されてからはそう呼ばれている」


「今からそこへ行くんですけど、一緒に来ます?」


「……いいのか?」


「はい。ミリザさんも秘密を共有する仲間ですからね」


 部下が大勢いる前で思わせぶりな事を言うと、ちょっと口の端がヒクついたが、一緒に来る事には同意してくれた。


 ちなみに俺が帝国の元皇帝である件。他の人には秘密にしてもらうようにお願いしたけど、『誰かに話そうにも、そんな事を言ったら俺の頭がおかしくなったと思われるだけだ』と言われてしまった。


 秘密保持力最強だね。



 ――そんな訳で、俺とシーラとキサ、ミリザさんを加えた四人は今、王城の正門前に立っている。


 王城はスラムとは反対側なので結構な距離だったけど、ミリザさんの所で一頭だけ残したという馬が引く馬車で送ってもらったので、わりと迅速快適に着く事ができた。


 道中かなりの注目を浴びたけど、どうやら馬が珍しかったらしい。


 一年前にはたくさんの荷馬車が行き交っていただろうし、帝国軍も多くの馬を保有していたはずだ。


 だけど馬は篭城戦には基本不要なものなので、帝国軍所有のものでさえ篭城戦中にほとんどが食べられてしまったらしく。帝国軍の上級指揮官救出のために騎兵隊が突入してきた時を除いて、長い間見かける事がなかったのだろう。


 人間が食べる野菜さえ貴重な包囲戦下で、馬のエサを確保するのは並大抵の苦労ではなかっただろうからね。


 道中聞いた話だと、ミリザさんも馬を残す事に積極的ではなかったそうだけど、あの体が大きくて顔が怖い老紳士さんが、一番小柄な一頭だけは残す事を強硬に主張したのだそうだ。


 ミリザさんは『思わぬ所で役に立ったな。年寄りの言う事は聞くものだ』と笑っていたけど、老紳士さんは多分。いざという時にはあの地下道を通って、ミリザさんだけでも逃がせないかと考えていたのだと思う。


 小柄な馬なので地下道を通れると思うし、街壁が破られて街に教国軍がなだれ込んでくるような事になったら、逆に包囲には隙間ができそうだもんね。


 ミリザさん、ホントに大事にされてるね……。


 馬車の御者ぎょしゃをしてくれた老紳士さんの後ろ姿を見ながら、ちょっと温かい気持ちにもなったりした。


 王城の正門前で、馬車の番をしていると言うその初老男性と別れ。俺達はいよいよ帝国軍の守備隊長との面会にのぞむ。



 王城に乗り込むのは、最悪いきなり拘束もあるだけに緊張するが、この先の戦いに大きな影響を持つ大切な面会だ。


 俺は思考をシリアスモードに切り替えて、門番の兵士に隊長からの手紙を見せるのだった……。




帝国暦168年 7月26日


現時点での帝国に対する影響度……1.1022%(±0)


資産

・2490万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 5640万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・解放軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・解放軍総司令官・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・解放軍総司令官補佐・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・解放軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・解放軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・解放軍部隊長 月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

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