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188 ミリザさんとの話し合い

 帝国軍の誰かを紹介して欲しいという俺の言葉を、普通にはぐらかしたミリザさん。


 でもこの落ち着き払った態度。どう見ても案内を頼まれただけの街娘じゃないんだよなぁ……。


「ええと、俺の事をまだ信用してないですかね? 一応本気でジェルファ王国を解放する気ですし、協力してくれた人を悪く扱う気もありませんよ。

 すでに一緒に一儲けする算段も話していますから、アジトにいた人達に訊いてみてください」


「…………それは聞いている……場所を変えようか」


 お、わりとあっさり認めてくれたな。そしてそうだよね、街中で堂々とするような話じゃないよね。


 ミリザさんはきびすを返してスラム街の方へ戻り、俺達も後をついていく。


 しばらく歩くと、スラム街には似つかわしくない立派な建物があり。その前でミリザさんが髪を鷲掴わしづかみにすると、カツラだったのだろう。茶色だった髪がスルリと取れて、燃えるように真っ赤な髪がこぼれ落ちてくる。


 それを見た瞬間。立派な建物の前でたむろしてこっちを胡散うさん臭そうに見ていたガラの悪い男四人が顔色を変え。弾かれたように立ち上がって姿勢を正し、『姐御あねご、お帰りなさいませ!』と言って頭を下げる。


 やっぱり裏稼業の偉い人だったんだね。俺の感覚もまんざらじゃなかったという事だ。


 満足と安心半分ずつくらいで、ミリザさんについて建物に入る。


 扉をくぐるとすぐに、体が大きくて顔は怖いけど、上品な服を着た老紳士が『お嬢様、お帰りなさいませ』と言って頭を下げた。


「客人だ。一番いい応接室に案内してお茶をお出ししろ」


 そう言葉を発したミリザさんの声は、さっきまでの平凡な街娘のものではなく。若いながらも威厳に満ちた、威圧感のある声だった。



 ……一旦ミリザさんと別れた俺達は、顔が怖くて体がごつい老紳士に案内され、二階にある豪華な部屋へと通された。


 すぐにメイドさんがお茶を運んできてくれ、いい香りがする紅茶が淹れられると、老紳士が真っ先に口をつける。


 毒が入っていないという証明なのだろうが、元の世界で推理小説なんかを読んでいた俺は(カップに毒が塗ってあったら意味ないのでは?)なんて思ってしまう。


 とはいえ今のタイミングで暗殺される理由もないと思うし、結構歩いてのどが渇いていたので、ありがたく頂く事にする。


 長期間の包囲戦の中で温存された、貴重なお茶の葉だろうしね。


 ……俺が躊躇ちゅうちょなくお茶を飲む一方で、シーラとキサは全く手を付けようとしない。護衛の仕事に徹してくれているのだろう、頼もしいね。



 そんな事を考えながら少し待っていると、奥の扉が開いて、真っ赤なドレスを着た綺麗なお姉さんが入ってくる。


 顔は変わって目が鋭くなっているが、ドレスに引けを取らない真っ赤な髪を見るに、ミリザさんなのだろう。


 ミリザさんは俺のカップのお茶が減っているのを見ると、少し表情を緩め。テーブルを挟んだ向かいに座って、メイドさんがミリザさんの分のお茶を淹れると、『二人とも部屋を出ていろ』と口にする。


 老紳士との間で、


『しかしお嬢様……』

『構わん。私を害する気ならとっくにやっているさ、変装を見破られていたようだからな』

『――ではせめて、武器を預かるだけでも』

『やめておけ。二人ともかなりの手練てだれだ。特にそっちのお嬢ちゃんなど、お前より強いぞ』


 という会話が交わされ。老紳士は表情を険しくしてシーラを見るが、シーラの方はじっとミリザさんを見つめたまま、微動だにしない。


 ――だけど気配は察しているのだろう。上級者同士の気配の読み合いみたいな事が行われたらしく、老紳士はしばらくすると『――承知しました』と言って部屋を辞していく。


 メイドさんも続いて出て行ったけど、あの人も実は強かったりするのだろうか?


 戦闘メイドさんとかちょっと憧れるなと思いながら二人を見送り、部屋には俺達とミリザさんだけになる。


 扉が閉まると、ミリザさんがおもむろに口を開いた。


「変装には自信があったんだがな、どこで気が付いた?」


「街の人の反応ですかね。案内人になるくらいですし、スラム街を全く動じる様子もなく普通に歩いていたので、スラムに慣れた人なんだろうなと思いました。


 ですが、それにしては街の人達が全員、俺達を見知らぬ胡散臭い奴等やつらみたいに見ていました。


 スラムは特に余所者や新参者の出入りに敏感でしょうから、そんな場所に慣れているのに新顔みたいに見られていたという事は、変装しているという事でしょう?


 そして普通の街娘なら変装する必要なんてない訳で、変装した理由は、あまりにも顔が売れている有名人だからかなと思いました」


「なるほど……紹介させる奴には演技をさせたが、さすがにスラムの住民全員に話を通しておくのは不可能だからな」


「そういえば呼び捨てで呼ばれていましたね。ミリザというのは偽名ですか?」


「いや、本名だよ。ただ、いつもは『姐さん』とか『姐御』とか『三代目』とか呼ばれているから、本名なんて知らない奴の方が多いだろうけどね」


 なるほど、この人も肩書きが重視される系の人か。皇帝がもっぱら『皇帝』とか『陛下』と呼ばれて、本名を呼ばれないのと同じだね。


 ちょっと親近感を覚えつつ、多分裏組織の三代目であるらしいお姉さんとの話を続ける。


「ええと、呼び方は『ミリザさん』でいいですか?」


「好きに呼んでくれていいよ。それより具体的な話をしよう、ジェルファ王国の解放を目指す軍の参謀殿が、どうしてこんな所に潜入なんて危ない真似をしてまで帝国軍と接触したい?」


「降伏交渉ができたらいいなと思いまして。圧倒的な数の教国軍相手に半年以上も街を守り続けた部隊ですから、俺達が攻める時も苦戦しそうです。

 なので、戦わずに王都を明け渡してもらえたらいいなと思いまして」


「なにかアテはあるのかい? 俺が見る限り、今帝国軍を率いている隊長は簡単に降伏するようなタマじゃないぞ」


 お、ミリザさん一人称『俺』なんだ。実は男の人じゃないよね……。


 と思ってドレスの胸元に視線を向けるが、わりと立派な膨らみをお持ちでいらっしゃる。女の人で間違いなさそうだ。


「降伏交渉には一応策がありますが、成功するかどうかは分かりません。

 ただ、成功した場合の利益が大きいので、危険を承知で潜入してきた次第です」


「策とはどんな策だ?」


「それはちょっと言えませんが、隊長さんと差し向かいで話ができたらいいなと思います。


 それが失敗したら力攻めになるんですけど、帝国軍強いですかね?」


「今までの戦いでかなり弱ってはいるだろうが、地の利が圧倒的に向こうにあるからな。

 城と街壁に立て籠もられたら簡単には落とせんだろう。手こずっている間に教国か帝国の援軍でも来たら、目も当てられない事になるぞ」


 お、さすが裏組織の三代目。戦略的な話もできるんだね。


「実は帝国の援軍はもう来ているんですが、策を講じて教国本土に向かわせました。

 なので帝国の援軍も教国の援軍も当分は来ないはずですし、外の教国軍はかなり弱っているので、俺達解放軍でなんとかできます。


 ――とはいえ、王都を解放した後は西に向かった帝国軍を討たないといけませんし、東からの新たな帝国軍にも備えないといけません。


 そんな訳でここで戦力を消耗したくはないので、できれば交渉で降伏させたいのです。

 帝国軍の隊長と話がしたいのですが、お膳立ぜんだてして頂けませんか?」


 そう言って頭を下げると、どうやらミリザさんは王都外の情報を全く取れていなかったらしく。かなり状況が進んでいる事に驚いた様子だったが、さすが裏組織の三代目だけあって、すぐに平静を取り戻して言葉を発する。


伝手つてはあるが、いきなり会いに行くのは危険が大きい。まずは手紙を送ってみる事を勧めるな」


 手紙か……書いたら多分、ミリザさんも見るんだろうね。


 帝国への反感が強いだろうこの街で、俺とシーラが元帝国の要人だと明かすのは、どうなんだろうね?


 帝国軍が味方になってくれた後ならある程度安心できるけど……。いや、ここはミリザさんを信用する所だろうな。


 わざわざ人払いをして、単身俺達との話し合いにのぞんでくれたのだ。



 俺は身分を明かす決意を固めて、ゆっくりと口を開くのだった……。




帝国暦168年 7月25日


現時点での帝国に対する影響度……1.1022%(±0)


資産

・2490万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 5640万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・解放軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・解放軍総司令官・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・解放軍総司令官補佐・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・解放軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・解放軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・解放軍部隊長 月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

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