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185 逆包囲と王都に潜入する方法

 訓練所を出発した部隊は二つに分かれ、一隊は王国東部の解放と帝国に対する備えに。


 そして主力は王国西部の解放と、王都に篭る帝国軍を包囲している教国軍を逆包囲しに向かう。



 王国内の大半において敵の戦力は希薄で、帝国軍の主力は偽の勅命に従って宰相の誕生日までに教国相手に大きな戦果を挙げるべく、全力で西進中。


 教国軍はその対応に精一杯で今更援軍を送る余裕はないだろうし、元々最初の攻撃に全力を投入した気配があって、あまり予備兵力がない疑惑もある。


 戦略的にもかなり稚拙ちせつな行動を繰り返していて、軍人ではなく聖職者が部隊を指揮しているという情報まであるくらいだ。


 未確認情報だから、油断はできないけどね。


 ――とはいえ、帝国軍主力を追い払った今、ジェルファ王国内は王都周辺を除いてほぼ戦力の空白地帯なので、帝国軍のわずかな警備隊を順調に排除し。解放軍は無人の野を行くがごとく解放地域を広げていく。


 住民の帰還などはクレアさんに任せて俺達はひたすら前進し、先頭を行く俺達の目に王都の街壁とそれを取り囲む教国軍の姿が映ったのは、進軍開始から七日目の事だった。


 早速望遠鏡を取り出して様子を観察するが、王都はまだ陥落していないようで、教国軍の部隊が所々で攻撃をかけているのが見える。


 ……とはいえ、攻撃はかなり弱々しい。取り囲む教国軍の陣地の大きさに比べて動いている兵士はごく一部だし、そもそもその陣地自体が、廃材やボロ布を集めて作ったようなもので、おまけに兵士達の装備までボロボロ。端的に言えばスラム街の様相ようそうだ。


 ――考えてみれば、去年の10月に教国軍が侵攻してきて今は七月だから、丸々九ヶ月間。ほとんど補給なしで戦っているのだ。


 おまけにその大半の期間、満足に食料を得られず、お腹を空かせて戦っていたのである。


 そりゃ消耗するよね……むしろ軍が崩壊していないのが不思議なくらいだ。


 そこはさすが、士気が高い事だけには定評がある教国軍なのだろう。


 ……だけど今の攻撃がかなり散発的なのを見るに、命を顧みず突撃をかけたような狂信的な兵士はもう全滅してしまい。残った兵士は逃亡こそしていないものの、さすがに肉体的に、精神的にも限界が近いのだろう。


 もしかしたらあのスラム街みたいな陣地にいる教国兵のほとんどは、今までの戦いで怪我をした負傷兵なのかも知れない。


 期せずして焦土作戦と同じ状況になり。食料に困った教国軍は、西方侵攻作戦の拠点だった王都に大量の食料が備蓄されているという情報を得て、全軍を挙げてそれを奪おうとしたが、ついに果たせなかった。


 今はボロボロの敗残兵のような状態になって、それでもまだ盲目的に攻撃を続けている姿を見ると、なんだか可哀想になってくるくらいだ。


 ……そして一つ疑問があって、教国軍がこれだけ弱っているなら、包囲されている帝国軍が反撃に出て、包囲を突破して脱出できそうな気がする。


 ――なのにそれをしないのは、帝国軍の方も八ヶ月間の包囲戦で相当消耗していて、その力がないのか。


 あるいは、それができない理由があるのだろうか?


 たとえば、逃げた上官達に死守を命じられたのでここから動けないとか。逃げるとなったら今までの戦いで負傷した兵士の内、歩けない重傷者は置いていく事になるから、それはできないとかだ。


 ……前者ほどの忠誠心があったら寝返りは難しいだろけど、後者の戦友愛があるなら、寝返りワンチャンあると思う。


 前者の可能性は低いと思うけど……どうなんだろうね。これ以上は現段階では判断できない。


 とりあえず、教国軍の包囲はわりとグズグズだし、ここに解放軍が来て逆包囲されて混乱すれば、こっそり突破するのは可能そうだ。


 問題は王都の街壁を越えて中に入る方法だけど、これには一つ当てがある。


 解放軍の志願兵の中に、昔王都のスラム街でマフィアみたいな組織の用心棒をしていた人がいて、その人が街壁を越える抜け道を知っているのだ。


 この世界の街壁がある街はどこもそうだけど、いくつかある門には門番がいて、通行する人や荷物を調べて税金も取る。


 そしてクレアさんによると、ある程度大きい街ならどこでも必ず裏稼業の人がいて、密輸とかをやっているものらしい。


 王都の帝国軍と交渉する計画を立てた時からクレアさんに相談して、北部に移住してくる人の身元調査を兼ねて、裏稼業に詳しい人を洗い出してもらっていた。


 そして見事、目的の人物を探り当てたのだ。


 この辺はさすがクレアさん。元大商会の後継者だっただけあって、裏の事情にもよく通じている。


 将来のジェルファ王国で、エリス国王を支える宰相として実に頼もしいね。



 ……そんな訳でくだんの人物に協力を頼むと、『こんな俺なんかで帝国と戦う役に立つなら』と、快く引き受けてくれた。


 裏稼業であっても、自分の故郷が他国に蹂躙じゅうりんされるのが面白くないのは同じらしい。


 解放軍には元マフィア的な人達を始め、元盗賊や囚人まで志願してきたが。クレアさんは今後悪事を働かない事を条件に過去の罪を許し、入隊を許可した。


 その時は大丈夫かなと心配になったけど、『本当に危険な人間は排除していますし、意に沿わず罪を犯した者も大勢います。これを期に更生してくれれば新生ジェルファ王国の治安が改善しますし、荒事に慣れている者達ですから、役に立つ事もあるでしょう。もちろん監視は付けますが』と、実に頼もしいお言葉を頂いた。


 たしかに更生に繋がって、将来の治安が良くなるなら一石二鳥だ。


 クレアさん、将来頼もしい宰相になってくれそうだよね……。



 そんな事があって感心したのを思い出しつつ。早速元裏稼業の人と相談をし、月が暗くなる二日後の夜に侵入の算段を取り決める。


 メンバーは案内の元裏稼業の人と、俺とシーラとキサの合計四人。そして荷物を一箱だ。



 後続の解放軍が続々と到着し。逆包囲されて動揺する教国軍を見ながら、俺は作戦が上手くいくといいなと祈るのだった……。




帝国暦168年 7月22日


現時点での帝国に対する影響度……1.1022%(+0.02)※ジェルファ王国の半分以上を解放。


資産

・2490万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 5640万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・解放軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・解放軍総司令官・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・解放軍総司令官補佐・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・解放軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・解放軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・解放軍部隊長 月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

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