184 出陣式
基本戦略が決まり、いよいよジェルファ王国解放軍が本格的に始動する事になる。
最初の作戦目標は王都の奪還。そのためにまず、王国の東部と西部を解放して回りつつ、王都を囲む教国軍を逆包囲する事を目指す。
軍の編成は、エリスとクレアさんが準備万端整えてくれていたのでとてもスムーズに終了し、出陣式を行う事になった。
志願兵訓練所から西に行った草原に、今はまだ反乱軍である2万7634人が部隊ごとに整然と整列し、周囲には街の人達も来ている。
見渡す限りの人の群れで、中々に壮観だ。
部隊の正面には即席の演台が組まれていて、旗なんかを飾り。椅子を置いて、主だったメンバーに並んでもらう。
中央に解放軍総司令官のメルツと、新生ジェルファ王国の国王となる予定のエリスが二人並び。メルツの脇に副官のメーア。エリスの脇に新生ジェルファ王国宰相予定のクレアさんと、解放軍参謀の俺と、解放軍精鋭部隊長のシーラという配置だ。
この配置にもちゃんと意味があって、中央の二人は差し当たり解放軍と新生ジェルファ王国を支える二本柱。
だけどエリス側の方が人材が厚いのは、将来的にエリスが国王で、メルツはその配下の軍務大臣になるからだ。
解放軍として戦う間はどうしてもメルツが目立つだろうけど、新生ジェルファ王国が出来た後に主役になるのは、国王エリスだ。
その事を今のうちから匂わせておくための配置である。
短期的には解放戦争の英雄の方が人気が出るだろうし、メルツが貴族家の出なのに対して、エリスは平民出身のまだ若い女の子である事もあって、国王として受け入れるのに抵抗がある人。メルツの方がいいと考える人は一定数いるだろうからね。
それを今のうちから牽制しておくのだ。
メルツは本人たっての希望で辞退したくらいだから、王座を巡って争うような事にはならないだろうけど、周囲によからぬ事を考える人が集まってくる可能性はあるから、先手を打っておくに越した事はない。
――まぁ、ここに並んでいる主要メンバーは全員エリスを国王として支える事で一致しているし、目の前にずらりと並んでいる大部隊。
その指揮官達は孤児だった頃の苦しい時期にエリスのお世話になった子達で、エリスの優しさも優秀さもよく知っている。
中核メンバーからの支持は磐石なので、あとは時間をかけて、国王エリスの優秀さをみんなに理解してもらえばいいのだ。
――そんな訳で、ジェルファ王国解放軍、出陣式の開幕となる。
メルツが立ち上がって演説台に進むと、整列した三万に迫る兵士達が一斉に姿勢を正し、視線を演説台に集中させる。
よく統率の取れた、いい兵士達だ。
訓練に当たってくれたメルツとメーア。そして指揮官の子達のおかげだろう。
そして演説台に立ったメルツが、大きく息を吸い込んでありったけの声を張り上げる。
「今この時より! 反乱軍をジェルファ王国解放軍に改称する事を宣言する! 我々は侵略者に抵抗するだけに留まらず、これより先は祖国を解放するために戦うのだ!」
――その言葉が響いた直後。一瞬の間を置いて地鳴りのような歓声が起こる。
志願兵達は武器を振り上げ、周囲に集まっている街の人達も拳を振り上げて叫び声を上げる。
しばらくの間存分に歓声を上げさせた後、メルツは手でそれを制して演説を続ける。
「突然帝国の侵略を受け、ジェルファ王国が地図から消えてしまった四年前のあの日から、我々はジェルファ王国民ではなくなってしまった。
我々は帝国の。時に教国の二級市民として扱われ、絶え間のない抑圧の中に置かれた。それは、息をする事さえ自由にならないと感じるほどの苦しさだった。
我々は常に脅え、支配者達の顔色を窺って生きていかなくてはならなかった。
――――だが、ついにその抑圧から解放される時が来たのだ!
解放軍の兵士諸君! 祖国解放の先頭に立つのは君達だ! 黙って嘆き悲しんでいても、ある日突然天から救いの手が差し伸べられたりはしない! 自由も幸福も、我々自身の手で掴み取るのだ!」
……みんなの意見を貰いながら俺が原稿を考えた演説だけど、反応はかなり上々なようだ。兵士達は高揚し、闘志を燃やして目を輝かせている。
「帝国軍も教国軍も強大な相手だが、我々の戦う準備は万全である! 我々は希望の光のために戦い、敵は暗黒の支配のために戦う。どうして我々が負ける事などありえようか! 正義は我々の上にある!
諸君聞こえるか! 新しいジェルファ王国が我々を呼んでいる! 我々が進んだ後が新しいジェルファ王国になり、その地で我々は再びジェルファ王国民になるのだ!」
――最後はほとんど絶叫するように言い切ると、兵士達もそれに答えるように大歓声を上げる……地面が揺れるほどの、すさまじい勢いだ。
――とりあえず、士気を高めるという目的は最大限に発揮されたらしい。
メルツは何日も前からシーラに大声を出す特訓をつけてもらい。人がいない場所を選んでメーアに練習を見てもらい、今朝まで原稿を何度も読み返してと、かなり緊張している様子だったけど、中々どうして見事なものだったと思う。
皇帝の勅使を装って偽の勅令状を届けたりもしたし、意外と演技能力が育ってきているのかも知れないね。
メルツの演説は予想を超えて大好評で、本当はこの後、各1000人隊長に軍旗授与とかのイベントも予定していたんだけど、勢いに任せてこのまま出陣してもらう事になった。
……張り切りすぎて暴走しないよう。念のために各部隊長宛に自重を促す指令を送らなければいけなかったくらいである。
兵士達と同様、メルツの演説で高揚した街の人達の歓呼の声に送られて。ジェルファ王国解放軍はいよいよ本格的な戦いへと、その第一歩を踏み出したのだった……。
帝国暦168年 7月16日
現時点での帝国に対する影響度……1.0822%(±0)
資産
・2490万ダルナ(-3011万)
・エリスに預けた反乱軍運営資金 5640万ダルナ(+3000万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・解放軍精鋭部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・解放軍総司令官・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・解放軍総司令官補佐・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・解放軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・解放軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・解放軍部隊長 月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・アルパの街の物資管理担当・C級冒険者 月給30万)(弟も同職 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)




