183 エリスの策略
ジェルファ王国解放軍の作戦計画と、新生ジェルファ王国の国王についての話をしていたはずが、いつの間にかエリスに告白をされていた。
動揺冷めやらない俺は、それでもなんとか言葉を発する。
「エリス、よく考えてみて。何十年も後って、エルフの血を引くエリスはまだ若いかも知れないけど、俺はもうおじさんだよ。わざわざそんな相手を選ばなくても、他にもっといい人がいると思うんだ」
「好きになった相手に外見も歳も関係ないでしょう。私のお父さんももうおじさんですけど、お母さんとはとても仲がいいですよ」
おおう、これは身近に胸焼けするレベルの最上級見本がいたな。
て言うかティアナさん、照れてないで説得に協力して欲しい。大事な娘さんがおじさんと結婚しちゃうぞ。
「――でもさ、元であってもジェルファ国王が帝国の皇帝と結婚するのは、やっぱりまずいと思うんだよね」
「身分は隠して公にしなければいいですし、私はアルサルさんと結婚したいのであって帝国皇帝と結婚したい訳ではありませんから、表に出ずに陰の存在で構いませんよ。
それに、そもそもその頃にはアルサルさんも皇帝をやっていないのではありませんか? 国を取り戻してある程度再建を終えたら、早く引退して気ままな生活を送りたいとお考えでしょう?」
う……さすがエリス、俺の事を実によく分かっていらっしゃる。
幼い頃から宿屋で働いて多くの人と接し、後方参謀をするようになってからは更に大勢の人と会い。そして多分、珍しい髪色のせいで人の視線には人一倍敏感に生きてきた子だ。
俺が知る限り、この世界で最も人を見る目に長けた存在でもある。
そんな人から求婚されたというのは誇らしくもあるけど、やっぱり俺はシーラ以外との結婚は考えられない……。
観察眼が鋭いエリスは俺の気持ちに気付いているだろうし、遠回しに拒絶しているのも理解しているはずだけど、それでも退かないのは……俺自身の口からはっきりと答えを聞きたいからなのだろう。
……ここは俺も覚悟を決めて、正面から向き合うべき所なのだろう。
俺は意を決して、ゆっくりと言葉を発する。
「エリス。申し訳ないけど、俺好きな人がいるんだ。その人にはまだ告白もできていないけど、その人以外と結婚するつもりはない。ごめん……」
――この答えは、エリスにとっても分かっていたものだったのだろう。悲しそうに。でもどこかすっきりした様子で、言葉を発する。
「わかりました。アルサルさんの口から直接聞けてよかったです……一つだけ確認したいのですが、私と結婚できないのは私が嫌いだからではなく、他に好きな人がいるからなのですよね?」
「それはもちろん、エリスの事が嫌いなんて事はないよ。いつも助けてもらっているし、魅力的な子だとも思う。正直告白されたのは嬉しかったよ」
そう言うと、エリスは嬉しそうに微笑を浮かべる。
「ありがとうございます……では、私をアルサルさんの娘にしてください」
「――――は?」
なんか、告白以上に予想外の言葉が聞こえてきた気がする。テーブルの向こう側で、ティアナさんが池のコイみたいに口をパクパクさせているな。
「娘って、エリスにはご両親がいるじゃない。……まさか、今の両親になにか不満があるとか?」
「お父さんとお母さんの事は好きですよ。それとは全然別の話として、アルサルさんの娘にもなりたいのです」
とりあえずよかった。もし嫌いなんて言われたら、ティアナさんショックで砂になってしまったかもしれない。
実際、今の時点ですでに口から魂抜けかけているような顔してるもんね。
――とはいえ、今の両親とはそのままで俺の娘に? …………ああ、そういう事か。
「それは俺の養子になりたいとかじゃなくて、俺の子供と結婚したいって理解で合ってる?」
「はい。好きな人と結ばれる事が叶わないなら、次善の策としてその人の子供と結ばれようというのは、中々の妙案だと思いませんか? 幸い私は、それがやりやすい体であるようですし」
……なるほど、言われてみればその通りだ。
普通は好きになった人の子供となんて、歳の差20歳くらいの場合によっては犯罪の香り漂う結婚になってしまう。
だけどハーフエルフのエリスなら、少なくとも歳の差は問題にならない。一生を添い遂げるのも、むしろエリスの方が長生きするくらいだろう。
実際エリスの両親なんて200歳以上の差がある訳で、それを考えたら20や30なんてなんでもないような気もする……。
「……元ジェルファ王国国王という肩書きを隠してくれるなら、俺としては反対する理由はないよ。でも、できれば結婚相手は本人の意志で選んで欲しいから、そこはエリスの努力次第って事になるし、そもそもエリスに好きになってもらえるような子供に育つかも分からないよ」
「それはもちろんです。好きになってもらえるように全力を尽くしますし、私を養育係の一人に加えて頂ければ、立派な若者に育て上げてみせましょう」
おおう……育てる所からやるつもりなのか。逆光源氏計画かな?
――て言うかエリス、最初からここまで計算して告白してきたのか。
考えてみれば、いきなり産まれてもいない子供との結婚話なんてしだしたら、現実感皆無だし頭おかしい人認定まである。
だけどこの話の持って行き方なら、現実感溢れんばかりだし、俺も真面目に考えざるを得ない。
養育係も断る理由がない。
やり方が完全に策士だね……。
そして、『好きになってもらえるよう全力を』か……正直、エリスにそんな事をされて落ちない男なんていないと思う。
まして幼少期から、優しくて美人で聡明なお姉さんに育てられた日にはね……。
なんか、まだ産まれてもいない俺の息子が羨ましくなってきた。
――とはいえ、俺にも人が羨むような、心に決めた人がいるのだ。
その人と結ばれてまだ見ぬ息子を誕生させるためにも、頑張らないとね……。
そう決意を新たにし。エリスに新生ジェルファ王国の国王を引き受けてもらう事が決定して、なんか思いもよらぬ方向に脱線した会議は終了となった。
エリスは魂が抜けたようになっているティアナさんを引っ張って別室に消えていったけど、これから父親も交えて家族会議が開催されるのだろう。
後方参謀の枠を超えて、軍師としても立派に育ったエリス相手に、口下手な父親や親馬鹿なティアナさんが太刀打ちできるとは思えないので、エリスの希望は100パーセントそのまま承認されるんだろうね。
エリスの夢が叶うよう、俺も頑張ろう……とは思うんだけど。俺に好きな人がいるって話が出た時にとっさにシーラを見たけど、一切なんの反応もなかったんだよね……。
今のシーラは宰相に復讐を果たし、母親と妹を助け出す事以外になんの関心もないのは知っていたけど、改めて俺の恋路の険しさを痛感するね。
想い人は恋愛などに全く興味がなく。興味を持たせるための唯一の方法が、大帝国の最高権力者を打ち倒す事なんだから……。
――まぁ、前向きに考えれば、方法がハッキリしているのだから、ゴールに向かって突き進むだけとも言える。
そのゴールはとんでもなく遠い彼方だけど、努力するだけの価値がある事なので頑張ろう。
決意も新たに、俺は解放軍の本格始動に向けて動き出すのだった……。
帝国暦168年 7月12日
現時点での帝国に対する影響度……1.0822%(±0)
資産
・5501万ダルナ
・エリスに預けた反乱軍運営資金 2640万ダルナ
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍後方参謀・将来の息子の嫁候補 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)




