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181 新生ジェルファ王国の国王候補

 短い休憩を挟んだ会議は後半へと突入し、後方参謀のエリスが手を上げる。


「部隊の編成についてですけど、5000人ごとの五部隊は分かりましたが、残る2500人ほどはどうしますか?」


「1000人を北部解放区の警備要員として残して、残りは補充要員にしようかなと思ってる。


 戦えば損害が出るだろうし、戦い以外でも病気や長距離の行軍による疲労なんかで脱落者が出るだろうからね。


 指揮官も、1000人編成の大隊に一人。5000人の部隊に三人配置の予定だけど、三人の内二人は、いざという時の大隊指揮官代理要員でもある。


 メルツとも相談して、そのつもりで人選をお願いしたい。大隊長には指揮下の中隊や小隊の長と、良好に意思を通じ合える人を選んでもらえるとありがたいかな」


 中隊長や小隊長は元ジェルファ王国軍や各地の貴族領軍の出身者が多くて、若い元孤児の子達とは、ともすれば対立しがちだからね。


 ここはエリスの人を見る目に期待したい。


「了解しました……一部隊に八人だと五部隊で40人で、指揮官候補者は97人いますから、残りの57人はどうしますか?」


「七人は予備要員に。そして残りの50人で精鋭の強襲部隊を編成して欲しい。隊長はシーラにお願いしたいんだけど、どうかな?」


 そう言って話をシーラに振ると、シーラは我が意を得たりとばかりに目を輝かせる。


「もちろんお引き受けします! 存分に鍛え上げて、一騎当千の部隊に育て上げてご覧に入れましょう!」


「う、うん……張り切りすぎて実戦前に消耗しちゃわないようにね。――という訳でエリス、適性を見て人を選んでくれる?」


「了解しました」


 大隊長に関しては、訓練所で指揮官候補の子三人一組で1000人の指導をしてもらっているので、その中から一人を選ぶ形になると思う。


 指揮官候補の元孤児達にも色んな子がいるので、人望と調整能力、冷静さと注意力に優れていて、声が大きい子を大隊指揮官に。中でも特に調整能力と冷静さに優れた子を5000人の部隊指揮官に。


 戦闘力と敏捷びんしょう性、勇猛さに優れた子を精鋭強襲部隊にという配置になるだろうけど、エリスなら最適な人選をしてくれると思う。


 冒険者養成所一期生の子達なんて、まだ孤児院にいた頃から面倒をみていてよく知っているし、エリスの人を見る目は俺が知る限りで一番鋭い。



 ……そんな訳で一通りの意見が出て、『他には?』と訊いてみけど特になし。


 キサにも訊いてみたが『私はアルサルさんの護衛に専念するだけです』との事で特になし。


 シーラもジェルファ王国民主導の戦いなので特に意見なしとの事で、会議終了かなと思った瞬間。ずっと端っこでお茶をすすっていて、途中居眠りもしていた気がするティアナさんが言葉を発した。


「新しい王国の王様ってアルサル君がやるの?」


 それな……。


 みんな気にはなっていただろうけど、多分言い出しにくかった質問だ。さすがティアナさんは、いい意味で空気を読まない。


「実はまだ決めてないんですけど、とりあえず俺はやらないですよ。


 ジェルファ王国を帝国との間の緩衝地帯かんしょうちたいにするのを条件に教国と講和交渉するのに、元帝国皇帝の俺が新国王になったら話がおかしくなっちゃうでしょう。


 誰か適任を探さなきゃとは思ってるんですけど……メルツ、やってくれない?」


「――――は?」


 本当はもう少ししてから相談しようと思っていたけど、いい機会なので今訊いてしまおう。


 俺の言葉にメルツは一瞬ポカンとし、隣でメーアが表情を強張らせる……。



「――そ、それだけはどうかご容赦ください!」


 しばらく固まった後、メルツが取った行動は全力で頭を下げる事だった。


「ええと……理由を訊いてもいい?」


「ジェルファ王国の王になるからには、正統性を主張するために以前のジェルファ王家の血筋から妻をめとる必要があるでしょう。ですが私には心に決めた人がいるのです、たとえ形だけであっても、その人以外を妻に迎えるなど考えられません」


 その言葉に、隣でメーアが顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。チラリと見える表情は、とても嬉しそうだ。


「そういう事なら、別に新生ジェルファ王国じゃなくてもいいよ。受け入れられやすいかなと思ってそうしただけで、新しい王朝を打ち立てる方向でいく?」


「いえ、私も含めてジェルファ王国という名前に愛着がある者は多いです。新しい王国を建てるよりも、ジェルファ王国を再興する方が支持が集まるでしょう」


「じゃあ元王家の関係者を捜してきて、その人の養子になるのは? たしか、教国内にジェルファ王国の亡命勢力を作っていた人が何代か前の王様の弟の子孫とかじゃなかった?」


 報告書で読んだ記憶があるけど、あまり興味がなかったのでよく覚えていない。


「それでも、王になってしまえば隣国の姫だの有力者の娘だのを娶れという圧力がかかるでしょう。私には耐えられません」


 そうか……そういえばメルツ、使用人だったメーアと身分違いの恋をしたから、男爵家を飛び出したんだったよね。


 貴族の中では最も家柄が低い男爵家の三男とはいえ、貴族には違いないのだ。


 選択肢で言えば、別に奥さんを貰って使用人を愛人にする道もあったはずなのに。この世界では珍しくもないその選択をせずに家を出る事を選び、遠く離れたアルパの街で冒険者をやっていたのだ。


 メーアの身分が低い事を考えれば、王になったメルツは別の正妻を迎える事になり、メーアは側室になるのだろう。


 そしてそれを許容できるほど、メルツの愛は軽くないのだ。


 ……なんかとてもいい話だ。この二人の恋路を邪魔するのは、あまりに申し訳ない気がしてきた。


「わかった、じゃあ他の人に……」


 ――と言って部屋を見回すが、帝国貴族のシーラは教国との関係上よくないし、そもそも本人が宰相への復讐以外に興味がないので、王などやっている場合ではないと言いそうだ。


 クレアさんは……あ、目を逸らした。さすがに王様が顔を出せないのはまずいよね。


「ええと…………誰かやりたい人いる?」


 なんか学生時代に学級委員長を決める時を思い出しながらみんなを見回すが、誰も手を上げない。


 クレアさんはやはり顔を隠さないといけない問題があるからだろうし、メルツが嫌なのにメーアが受ける訳もない。


 キサはジェルファ王国とは縁も所縁ゆかりもない遊牧民だし、ティアナさんはそもそも人前に出る事自体好まないエルフだ。


 ララクに視線で(どう?)と訊いてみるが、すごい勢いで首をブンブン横に振った。


 おかしいな……王様ってもっとこう、兄弟間で殺し合ったり反乱を起こしてでもなりたいものじゃないのかな?


 ――とはいえ、俺も宰相打倒を目指しているのは好きな人の望みだからであって、皇帝の座に返り咲きたい気持ちはあまり強くない。


 むしろどこかの田舎でシーラと一緒にのんびり暮らすのが理想でさえあるから、あまり人の事は言えない気がする……。


 いざとなれば旧王家の関係者とかを連れてくる手はあるけど、将来的に帝国本体と戦う時の事を考えると、新しいジェルファ王国の国王は気心が知れているこのメンバーからがいいんだけどなぁ……。



 そんな個人的な事情を胸に、俺はまだ一人だけ断られていない相手。エリスへと視線を向けるのだった……。




帝国暦168年 7月12日


現時点での帝国に対する影響度……1.0822%(±0)


資産

・5501万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 2640万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

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