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18 飛び級試験

 試験を受けて最初から高ランクでスタートする方法はないかというシーラの問いに、受付のお姉さんは渋い表情をして言葉を発する。


「制度はあります。上級者と手合わせをして実力を認められれば、D級からスタートする事が可能です。……ですが正直、オススメはしません。


 武術を習っていた方などがこの制度を利用しますが、訓練と実戦は違うのでしょう。私はここで受付嬢をして3年になりますが、この制度を使って高ランクスタートをした方の死亡率は、とても高いのです。


 見た所お二人はまだ若いようですし、時間がかかってもコツコツ経験を積んでいく事を強くオススメします」


 ……おや、嫌味でも言われるのかと思ったら、本気で俺達を心配してくれているらしい。


 ありがたいけど、シーラを見るに引く気はなさそうだ。


「ご忠告は重々胸に留め置きます……ですがその上で、試験の実施をお願いします」


 シーラの言葉に受付のお姉さんは表情を曇らせるが、一言『分かりました……』と言って裏に引っ込んでいく。正式な申し入れを受けたら、受付嬢としては拒否できないのだろう。


 ……しばらく待っていると、お姉さんは中年のゴツイ体格をした男を連れて戻ってきた。


「こちらは当ギルドのマスター、ブラニ様です」


 そう紹介された大男は、体格に比例するような大声を発する。


「飛び級の試験を受けたいというのはお前達か!」


 ……なんか体育会系を絵に描いたような、ちょっと苦手なタイプだ。


 そして複数形は勘弁して欲しい。俺なんて一瞬で粉々にされてしまいそうな実力差を感じる。


「希望者は私だけです」


 俺にとっては苦手なタイプだが、軍人家系のシーラは慣れたものなのだろう。少しもひるむ事なく、正面から向かい合う。


「説明は聞いたか!」


「合格後の死亡者が多い事も含めて、一通りは」


「うむ! それでも覚悟があるなら裏の広場へ来い!」


 そう言って奥の扉に向かうギルドマスター。シーラもそれに続き、俺と受付のお姉さんも付いていく……。



 冒険者ギルドの裏はちょっとした広場になっていて、端には荷物が積んである。


 模擬戦や訓練、小規模な集会を開くにもちょうど良さそうな広さだ。


 ――地面に黒い血溜まりがあって一瞬血の気が引いたけど、受付のお姉さんが魔獣を解体した跡だと教えてくれた。


 魔獣の血が沢山染み込んだ土は、特殊な植物を栽培する媒体として売れるらしい。


 特殊な植物ってなんだろう? ちょっと怖いなと思っている間に、ギルマスが大きな箱を運んでくる。


「最初に確認しておくが、弓使いか!」


「いえ、弓も多少の心得こころえはありますが、一番得意なのは槍です」


「そうか! ではこの中から好きな武器を選べ!」


 指差す箱の中には、木でできた剣ややりおのなどが雑多に詰め込まれている。


 弓は遠距離攻撃用の武器だから、試験方法が違うのだろう。


 シーラは箱の中から短めの槍を取り、感覚を確かめるように一回しする。ギルマスは大剣を取り、二人は広場の中心付近でにらみ合った。


「勝つ必要はない! 一定の実力を認めたら合格だ、かかって来い!」


 ――その声を合図に戦いが始まり。シーラの槍が俺の目には見えない速さで突き出されて、ギルマスの脇腹にめり込んだ……。


「ぐっ…………だが軽い!」


 ギルマスの表情から一瞬で余裕が消え、大剣で槍を払いのける。


 本物の槍だったらお腹に刺さっていたと思うので軽いとか関係ない気がするのだが、シーラは特に気にした様子もなく。少し間合いを取ってまた槍を構える……。


 油断が消えたギルマスの動きは巨体に反して俊敏しゅんびんで、大剣を小枝のような速さで振り回す。


 だけど速さに関してはシーラがそれ以上で、攻撃をかわして槍を振るい、それをギルマスの大剣が受け止めた……と思いきや、槍先は空中に綺麗な弧を描いて、斜め上からギルマスに打ち下ろされる。


 ――すんでの所でかわしたギルマス……だがそこに、間髪を容れずにまた突きが襲いかかる……。



 ……俺はあまり戦いに詳しくないが、素人目にはシーラが押しているように見える。


 もちろんギルマスの重い攻撃を一発でも食らえば、それで勝負は終わりだろう。


 だけどシーラはギルマスをほとんど剣の間合いに入らせず、槍の長さを巧みに使って距離を取りながら、隙を見ては攻撃を繰り出している。


 最初の一撃以降、攻撃が当たってこそいないが、ギルマスは防ぐだけで精いっぱい。たまに反撃に出るが、シーラに躱されてカウンターを受け、厳しい状況に追い込まれる……の繰り返しだ。


 だけどシーラの方も決め手には欠けるようで、このまま体力勝負になったら危なかったりするだろうか?


「ギルマ……ブラニさんってどのくらい強いんですか?」


 さすがにいきなりギルマス呼びは失礼かなと思いながら、隣で見ている受付のお姉さんに訊いてみると、呆然とした表情で試合を見つめたままで答えてくれる。


「現役時代はA級だったと聞いています」


 おおう、それはすごい。


 引退したって事はピーク時の強さはないんだろうけど、B級だとしても互角に戦うシーラの強さはかなりのものだ。


 そういえば、心得程度だと言っていた弓の腕でさえ、かなりのものだったもんね……。


 そして強さもだけど、戦い方がスマートでカッコイイ。……受付のお姉さん、戦いを見守る顔がほんのり赤いけど、もしかしてシーラに惚れてたりしないよね?



 ……目で追うのがやっとの速さ。たまに見えない速さの戦いがしばらく続き、シーラが体勢を崩した所にギルマスの大剣が……と見せかけて、あざやかな身のこなしで体をひねったシーラの槍先が二度目となるギルマスの腹筋を捉えた所で、ギルマスは大剣を手放して両手を挙げた。


「参った……文句なしに合格だ!」


 その言葉に、シーラも槍を納めて丁寧に頭を下げる。


 シーラの方も全力だったようで、顔が汗に濡れ、髪が貼りついていた。


「若いのに大した腕だ! 見慣れない動きだったが、どこの流派だ!?」


「それは……申し訳ありませんが、訊かないで頂けると助かります」


「訳アリか……まぁいい。味方でいてくれる分には頼もしいからな! おい、合格だ! D級スタートにしてやってくれ!」


「――は、はい!」


 ギルマスの声に受付のお姉さんが慌てたように返事をして、ギルドに駆け戻っていく。


 どうやら、試験は無事に終了したようだ。



 知らない間に手に汗を握っていた事に気付き、俺はホッと安堵の息を吐きながら、改めてシーラの強さに驚き。そしてこの上もなく頼もしく感じるのだった……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・198万3180ダルナ

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ(ちょっとハゲてきた)


配下

シーラ(部下)

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