179 ジェルファ王国解放に向けて
志願兵訓練所を襲った壊血病事件が解決し。お礼としてエリスをいっぱい褒めてあげたらとても嬉しそうに喜んでもらえたし、戻ってきたティアナさんもエリスからお礼を言われたらしく、ニッコニコの笑顔で大変御機嫌だった。
そんな母娘の姿に癒される一方、食事には定期的にセロラの実を取り入れる事にして、栄養環境の改善を図る。
味については……調理担当の皆さんに頑張っていただこう。
そして反乱軍に関してなのだが、食事の不手際から一時は全戦力の半分に及ぶ影響を出してしまい。軍師としての俺の評価は大きく低下した……かと思いきや、なぜか逆に大きく上昇したらしい。
栄養学の知識がほとんどないこの世界では、病気の原因がビタミンCの不足だという認識そのものがないので、食事に気を使わなかった軍師の責任という話にならなかったようだ。
逆に、医師や薬師達が全員お手上げだった奇病を、あっという間に治療してしまったという高評価に繋がったらしい。
自分達の命に関わる案件だっただけに、俺への信頼はうなぎ登りという事だ……。
――まぁ、軍師として兵士達から信頼を置かれるのは大変いい事なので、このままにしておこう。
そんな訳で俺の軍師としての評価が高まる中。いよいよ反乱軍を本格始動させる事にする。
帝国軍の主力は一直線に教国本土に向かい。偽の勅令状に書いてあった北の反乱軍と旧王都を包囲する教国軍に対応する後続部隊は多分来ないと思うので、現在旧ジェルファ王国一帯には、大きな軍事的空白ができつつある。
有力な戦力は俺達反乱軍の他に、旧王都に立て篭もっている帝国軍と、それを囲んでいる教国軍だけ。
あとは帝国軍の主力に物資を追送する輸送隊と、その護衛。要所要所に配置されている少数の警備隊くらいなもので、俺達でも優位に戦える相手なはずだ。
……という訳で、恒例の作戦会議を開催する。
今回は重要案件なので幅広くメンバーを集め、俺の他に、シーラ・メルツ・メーア・エリス・クレアさん・キサ。部隊長代表でララクと、ティアナさんにも参加してもらう。
それでも10人に届かない辺り、人員の薄さが感じられるけど、数は少なくても質は高い。精鋭のメンバーだと思う。
そのメンバーを前に、まずは俺が立てた作戦計画を説明して意見をもらう。
話の重要さを察しているのだろう。みんなとても真剣な表情だ。
俺はちょっと溜めを作ってから、ゆっくりと口を開く。
「今回の作戦計画は、まず反乱軍の名称を『ジェルファ王国解放軍』に変更して、この作戦での最終目標をジェルファ王国全域の解放と、新生ジェルファ王国の建国に定める」
――その言葉を口にした瞬間。シーラとティアナさん以外の旧ジェルファ王国出身者達の間に、サッと鋭い空気が流れた。
占領された自分達の国の解放作戦となれば、緊張して力が入るのも当然だろう。
熱のこもった視線を感じながら、俺は具体的な作戦内容を説明していく。
「まず部隊の編成だけど、現有戦力2万7634人を5000人ずつ五隊に分けて、旧王国東部に一隊、西部に四隊を派遣して、片っ端から街を解放して回る。
東部は帝国の勢力圏だけど、少数の警備兵がいるだけだから解放自体は難しくないと思う。
帝国はロムス教国討伐軍として大軍を動員した所だから、すぐに追加の部隊を編成して送ってくるのは難しいはずだけど、国境沿いに領地を持つ領主達が個別に攻撃してくる可能性があるから、東部解放後はそれを主に警戒して防御を固める。
帝国の国法によると、皇帝の許しなく領主同士で戦う事は禁止されてるらしいけど、敵対勢力なら問題ないって考えて領地を奪いに来るかも知れないからね」
――帝国の国法に関してはシーラからの情報だが、帝国内の様子を見に行った感じからしても人員には余裕がありそうだったので、可能性はあると思う。
でも正規軍は二度の西方遠征で大分減っているはずで、徴集兵だけは集められても指揮官が足りないとか、武器や馬車がないとかで、即座に大規模な軍の編成は難しいはずだ。すぐに反応できるのは国境の領主軍がせいぜいだろう。
その点こちらは半年間みっちり訓練し。エリスとクレアさんが戦備を整えてくれたので、装備充実・気力十分で士気も高い。農業政策が功を奏して春の小麦は豊作だったので、食料も豊富だ。
おまけに自分達の故郷を取り戻すための戦いとあれば、苦しくて理不尽な占領体験を経ているだけに、みんな力の入り方が違うだろう。
帝国軍が本腰を入れて攻めて来るまでは、地方領主の軍くらいなら撃退できるはずだ。
――詳細は後々詰めるとして、まずは一通り概略を話していく。
「東部派遣の一隊はそのまま対帝国の防備と警戒に当たってもらって、西部派遣の四隊は街や村を解放しながら王都へ向かう。
教国軍の主力は王都の包囲に集中しているみたいだから、ここまでは問題ないはずだ。
問題はその先だけど、とりあえず四隊で四周から王都に迫り、王都を包囲している教国軍を逆包囲する。
だけどそこから積極的な攻撃には出ずに防衛に徹して、その間に王都の中と連絡を取り。できれば立て篭もっている帝国軍を味方に引き入れたい。
指揮官達に見捨てられた部隊だし、長期間の篭城戦で肉体的にも精神的にも相当疲弊しているはずだから、寝返ってくれる可能性はあると思うんだよね。俺とシーラは一応帝国の関係者だし……」
最後の部分はちょっと繊細な問題も孕んでいるので、微妙に言葉を濁した。
なにかを言いたそうにしている人がいっぱいいるけど、とりあえず話を最後まで続けさせてもらう。
「寝返り工作が上手くいくかは分からないけど、上手くいったら教国軍を王都の中と外から挟み撃ちして殲滅する。工作が失敗したらとりあえず俺達の力で教国軍を撃退して、そのあと王都を攻略できそうなら攻略するし、無理そうなら、包囲を解くから帝国に帰ってもらうように交渉する。
上級指揮官達はずっと前に逃げた訳だから、この交渉はわりとうまく行くと思うんだよね。
いざとなったら、『退去しないなら王都の住民を蜂起させるぞ』と脅すこともできるしね。実際にやるかどうかは別にして……。
そして王都を手に入れたら、新生ジェルファ王国の建国を宣言する。
その先は部隊を西に向けて、教国本土に攻めて込んでいる帝国軍を教国軍と挟み撃ちにして殲滅して、新生ジェルファ王国を帝国との間の緩衝地帯にして帝国の脅威を遠ざける事を交渉材料に教国と講和を結び、東を向いて帝国と対峙する形を作れたらいいなと思う。
教国との講和は交渉が難しいだろうけど、帝国との戦いで消耗していればいるほど交渉がやりやすくなるはずだから、しっかり情報を集めて最高のタイミングで話を持っていきたい」
――そう話を終えると、例によって最初に口を開くのはシーラ……かと思ったが、なぜか腕を組んで目を瞑ったまま、じっと黙っている。
なにか機嫌でも悪いのかなと場の空気が一瞬強張り、お互い顔を見合わせるような状態になったが、これはあれだ。この戦いはジェルファ王国民のものという性質が強いので、ジェルファ王国出身者達に話の主導権を譲ろうとしているのだろう。
いかにもシーラらしい。実直な武人としての気遣いなのだと思う。
しばらくして、みんなもその気使いに気が付いたのだろう。メルツが小さく手を上げて、言葉を発する……。
帝国暦168年 7月12日
現時点での帝国に対する影響度……1.0822%(±0)
資産
・5501万ダルナ
・エリスに預けた反乱軍運営資金 2640万ダルナ(-2089万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)




