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174 これからの作戦計画

 アルパの街へと戻る道中。俺はシーラと二人乗りの馬の上で、この先の戦略について考えを巡らせる。


 俺が読み漁った兵法書にはどれも、『大軍は自分の都合がいいように動かせ。少数の場合は敵の動きに合わせてきょを突く動きをしろ』と書いてあった。


 大軍は食料を始めとした物資の調達とか、統制を取るのが難しいとかでそもそも身軽な動きはできないから、維持優先で動いて、後は数で押し切れという事である。『大軍に用兵なし』というやつだ。


 人数が増えると動きがにぶくなる件に関しては、100人ちょっとの山越えでもずいぶん苦労したので、よく理解できる。なにしろ一列に並ぶと、端から端まで声を届かせるだけで一苦労なのだ。この世界には無線機とか携帯電話とかないからね。


 一方で数に劣る場合は、まともにぶつかっても勝ち目はないから、大軍の動きが鈍い隙を突けという事だろう。これもよく理解できる。


 ――そんな訳で、圧倒的に数に劣る俺達としては敵の虚を突かないといけないのだが、それには相手の動きを知る必要がある。


 支店長さんからの情報はとても参考になるけど、あくまで御用商人としての情報網なので、内容は人事じんじや現況が中心。戦いに関しては事後の結果が入ってくるだけで、これからの作戦計画なんかは入ってこない。


 ……まぁ、これからの作戦計画なんて最高機密のたぐいだろうから、そんなものが漏れてたら帝国軍大丈夫か案件だけどね。


 なので帝国軍の動きに関しては予想するしかないのだが、その予想を立てるには指揮官の性質が重要なので、支店長さんやシーラからの情報が役に立つ。


 そして最後にその情報をどれだけ活かせるかは、軍師の俺次第だ。


 責任重大なので、軽快に走る馬のシルハくんの背中でシーラに抱かれるようにしながら、全力で頭を回転させる……。



 とりあえず、帝国軍の主力が西方の教国軍に向けて出撃したという情報までは入っているので、問題はその先。帝国軍が取るだろう作戦行動だ。大きく分けて三つの可能性があると思う。


 一つ目は、中央路を真っ直ぐ進んで、旧王都を包囲している教国軍主力に真っ向から正面決戦を挑む作戦。


 二つ目は、北か南から迂回うかいして教国軍の守備が薄い場所から境界を越え、しばらく進んだあと大きく旋回して、旧王都を包囲している教国軍を逆に包囲してしまう作戦。


 三つ目は、同じく北か南から境界を超え。そのまま前進して教国軍の後方拠点を占領し、前線の教国軍を孤立化させてしまう作戦。


 どれを選ぶかは帝国の司令官次第だけど、支店長さんの情報によるとロムス教国討伐軍総司令官はケルマン公爵という人で、シーラの記憶によるとケルマン公爵家は帝国でも有名な武門の家柄らしい。


 ……という事は、作戦一の正面突破を選ぶ可能性は低いと思う。


 いくら大軍は自分の都合で動くのがいいと言っても、教国軍もかなりの大軍だ。


 数で優位が取れない以上、正面からぶつかっても勝てるかどうか分からないし、勝てたとしても大きな損害が出るだろう。


 帝国軍の目的が旧王都の奪還ならそれでもいいけど、『ロムス教国討伐軍』なんて名前が付けられているくらいだから、少なくとも旧ジェルファ王国全域の奪還。なんなら教国への逆侵攻まで計画されていると思う。


 それなら序盤で大損害をこうむる訳にはいかないし、なにより戦い方が美しくない。


 先だって戦い、シーラが一騎打ちで倒したドイド将軍みたいな脳筋タイプなら正面攻撃を選択するかも知れないけど、帝国でも有名な武門の家の当主であれば、もっと鮮やかな勝利を企図きとすると思う。


 となると作戦二か三だけど……個人的には二が有力だと思う。


 俺が集めた範囲の情報だと、教国軍はあまり後方からの補給に頼っていないし、士気はやたらと高いと聞いている。


 それだと作戦三で孤立させても、降伏したり逃げ散ったりしない気がするし、もうしばらくして一帯の畑で小麦が収穫できるようになれば、食料を潤沢に確保できるようになる。


 そうなったら、力を取り戻した強力な教国軍部隊を背後に抱える事になり、教国本土から増援でも来た日には、挟み撃ちにされるリスクまである。


 それなら作戦二で旧王都を取り囲んでいる教国軍に逆包囲を仕掛け、確実に殲滅せんめつするのが得策だ。王都内からも逆襲させれば、教国軍を挟み撃ちにできる。


 他の作戦が採用される可能性もあるけど、現状ではこれが一番可能性が高いと思うので、本命という前提でこちらの作戦計画を進めよう。



 ――という訳で俺達の行動だけど、差し当たりやる事はない。


 敵と敵が潰し合ってくれるのを邪魔する理由なんてないし、むしろそうなるように仕向けた成果でもある。


 それが上手くいっているのに手を出す必要なんてない……のだけど、もうちょっと欲張ってみたい気もする。


 旧王都で帝国軍が教国軍を逆包囲し、教国軍の主力を殲滅せんめつするのに成功したとして、その状況があまり都合よくないのだ。


 余裕ができた帝国軍が、次の目標を北の俺達に定める可能性は非常に高い。


 それはよくない状況で、俺達にとって理想の形は、去年想定していた状況の再現。


 つまり、帝国軍が教国本土まで攻め込んで教国を圧迫し。そこで俺達が帝国軍の後方を攻撃する事で帝国遠征軍を挟み撃ちにし、帝国軍の主力を撃破すると同時に、教国に恩を売る。


 その上で、消耗した教国との間で緩衝地帯かんしょうちたいとしてのジェルファ王国を再建する事を条件に講和を結び。俺達はジェルファ王国を地盤に、帝国本土への攻勢を試みる……というものだ。


 教国との講和条件はもう少し譲る必要があるかもしれないけど、強大な帝国を相手に一番可能性がある。なんならこれ以外思いつかないくらいの、唯一の勝ち筋なのである。


 そしてその実現のためには、帝国軍が採る戦略が作戦二では、ちょっと心許こころもとない。


 旧王都で教国軍を包囲殲滅した後、更に西に向かうように誘導しないといけないし、大きな戦いをした後では、再び攻撃を起こすのに時間がかかるだろう。


 教国本土まで攻め込むのは来年になるかもしれないし、場合によっては旧ジェルファ王国領。西方新領を奪還した所で止まってしまう可能性もある。


 なので、果敢に作戦三。それも後方拠点を占領した後、さらに一気呵成いっきかせいに教国本土まで攻め込むような、そんな動きが望ましい。


 ……この作戦三の強化版。一見無謀のような気もするけど、教国は戦力のほとんどを前線に集中させている気配があって。もしそうなら後方の守りは薄く、微弱な抵抗で膨大な戦果を挙げられる、魅力的な作戦でもある。


 賭けにはなるけど一応理には適っていて、ありえない選択肢ではないので、帝国の司令官にその選択をさせる事も不可能ではないと思う。


 ――ただ、リスクが大きいので中々採用に踏み切る決断は難しいだろう。


 だけどここで背中を押す事ができれば、俺達にとって理想的な状況に持っていく事が可能になるのだ。



 そして俺には、それができるかも知れない策に心当たりがあるのである……。




帝国暦168年5月30日


現時点での帝国に対する影響度……0.5822%(±0)


資産

・7948万ダルナ(-4万)

・エリスに預けた反乱軍運営資金 5849万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(部下・専属護衛・遊牧民 月給48万)

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