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17 拠点と冒険者登録

 北へ進路を取って5日、俺達は『アルパ』という街の宿にいる。


 ここはジェルファ王国内でも中規模の街で、大きな山脈のふもとにある。


 主な産業は麦の栽培と牧畜、そして山の民との交易らしい。


 あまり活発ではないが、山脈を越えた向こう側とも交易があるらしく、シーラによると『いざという時の逃走ルートになって良い』との事だった。


 そんな街の小さな宿が、当面俺達の本拠地になる。


 いきなり家を買う資金がない訳ではないが、また移動する可能性もあるので、当分は宿住まいだ。


 ここを選んだのはシーラ一推しの逃走ルートの他、治安がよくて落ち着いている街に見えたから。


 そしてなにより、この宿の食事が美味おいしかったからである。ここ重要。


 店先で見慣れない料理を売っていたので買って食べてみたら、予想外の美味しさだった。


 そしてこの店が食事付きの宿屋をやっていると聞き、わりと即決で決まった。


 宿のランク的には中の下くらいでむしろ安い方なのだが、娘さんの料理の腕が良いらしく、とにかくごはんが美味しい。


 宿代を上乗せして『食材を豪華にして』と頼んだら、かなりのレベルの料理が出てくるようになった。


 後宮ハーレムを脱出してから色んな街で色んな料理を食べたが、この店は間違いなくトップクラス。


 食材費上乗せ効果も加えれば、後宮ハーレムの料理に迫る……はさすがに言い過ぎだけど、味だけならわりといい線いっていると思う。


 思わず宿の娘さん。『エリス』というらしい少女を料理人としてスカウトして、レストランでも開こうかと考えてしまったが、残念ながらこの世界は貧富の差が大きく、食事の味にこだわるのは貴族やお金持ちだけ。


 庶民は味より値段と量にしか関心がないし、貴族やお金持ちは専属の料理人を雇っているので、『美味しいけどちょっと高い』系の店は、ほとんど需要がないらしい。


 世知辛い話だね……。


 なのでレストラン計画は早々に頓挫とんざしてしまったが、それでも美味しいは正義なのだ。


 シーラも貴族の生まれで後宮ハーレム暮らしだったから食べ物には多少のこだわりがあるようで、この宿を本拠にする事には全面的に賛成してくれた。


 やっぱり重要だよね、毎日の食事。



 ……という訳で本拠が定まり、必要経費は二人部屋プラス馬房ばぼうが一頭分。朝晩二食付きと毎晩お湯二杯で、一日5000ダルナ。


 これに食材費を一日当たり1000ダルナ足して、5日ごと更新の銀貨3枚3万ダルナとなった。


 中ランクの宿屋くらいの値段なので、これでごはんが美味しいのは大変お得である。


 ……ただ幾つか不思議な事があって、こんないい宿なのに俺達以外にお客さんがいない。


 母親の姿を見かけなくて、父娘二人で切り盛りしているのはなにか事情があるとしても、エリスの髪が緑色で、黒金銀はもちろん、赤や青、ピンクや紫もいるこの世界で、他に見た事がない髪色である事。


 エリスが作る料理が、美味しいけどこの世界ではあまり見かけないタイプの料理である事など、ちょっと気になる点はある。


 込み入った事情があるかもしれないからいきなり訊いたりはしないし、今は俺達の生活を安定させる方が先だけど、いつか知りたいなとは思っている。



 ……そんな訳で本拠地も決まった所で、俺とシーラは冒険者ギルドへやってきた。


 冒険者についてはシーラが基本的な事を知っていたが、ようは何でも屋で、冒険者ギルドは職業紹介場のような場所らしい。


 仕事内容は荷運びや護衛から、魔物討伐や採取までなんでもあるという話だった。


 ……冒険者ギルドはわりと大きな建物だったが、時間がお昼前だったのでほとんど人はおらず。何人かの受付嬢が暇そうにしているだけだ。


 ありがちな、チンピラみたいな先輩冒険者に絡まれるというイベントもなかった。やはりこの街は治安がいい。


 とはいえさすがに宝石犬のぬいぐるみを宿に置きっぱなしとかはせず、肌身離さず持ち歩いているけどね。


 ――暇そうにしている受付嬢の中から、一人を選んで声をかける。


「すみません、冒険者登録をしたいのですが」


 俺の言葉に、年の頃20歳前後に見えるお姉さんは俺と後ろに立つシーラを交互に見て、シーラに向かって言葉を発する。


「ではこの紙に必要事項をご記入ください。読み書きができない場合は代読代筆いたします」


 ……うんまぁ、どう見てもシーラが保護者だもんね。実際それで間違ってないし。


 でも事前に話し合った結果、シーラとしてはいつか冒険者として名前が売れた時に、『あのパーティーのリーダーであるアルサルは、実はアムルサール帝国の皇帝だったらしい』という展開が欲しいそうで、俺がリーダーをやる事になっている。


 シーラは当然読み書きができるので、パーティーリーダーの欄にしっかりと俺の名前を書いて受付嬢に戻す。


 パーティー名は色々考えていたのに、書く欄がなかった。ちょっと悲しい……。


 受付嬢はパーティーリーダーである俺を見てちょっと眉をひそめたが、多分金持ちの子供の道楽だとでも思われたのだろう。


 だけどそれで登録を拒否される事はなく、申請は受け付けられて、簡単な説明を受ける。


 内容は大体シーラに聞いた通りで、A級からF級までの6ランク、プラスで最上位にS級があるとかの話を聞き、最後に年会費の話をされた。


 無一文で冒険者登録をしにくる人もいるらしいので、最初の1か月間は無料。ただし報酬も安くなる。その後は国家冒険者か自由冒険者かを選んで、それによって会費が変わるらしい。


 どちらを選ぶか、1か月後までに決めておいてくださいと言われた。


「……国家冒険者と自由冒険者ってどう違うんですか?」


「国家冒険者は年会費が安く、上位ランクになるほど更に安くなり、B級以上は無料です。加えて、国中の街に通行税なしで入る事ができて大変お得です。


 ただし、年に20日間国の仕事を無償で引き受けなければならず、国からの依頼を優先的に受ける義務も生じます。


 低ランクなら道や公共施設の清掃や荷運び程度で、ランク不相応の危険な任務に狩り出される事はありませんからご安心ください。ただし戦争になった場合などは、低ランクであっても参戦の義務が生じます。


 自由冒険者は年会費が高く、ランクが上がるほど更に高くなります。加えて通行税なしで入る事ができるのは、拠点として登録した街だけになります。


 その代わり、国からの制約を受ける事は一切ありません。……普通は国家冒険者を選ぶ方が多いですね」


 なるほど……これはシーラの説明になかったから、帝国にはないこの国独自の制度だろうか?


 俺達の場合は自由度が重要だから、自由冒険者かな? あとでシーラと相談しておこう。


「説明は以上となります。明日には冒険者カードが発行されますから、取りに来て下さい。依頼を受けられるのはそれからです。


 依頼はあそこの掲示板に木札を貼り出しますから、希望の物をこちらにお持ちください。そばに職員が立っていますから、銅貨3枚で条件に合う依頼を探したり、内容の説明をしたりします。……字が読める方にはあまり必要ない案件ですね。ちなみに登録から1か月間は無料です。


 依頼は基本日の出と同時に掲示します。……他になにか質問などありますか?」


 なんか、1か月間は全体的に優遇があるね。無一文の人はその間にお金を貯めて、会費や依頼を読んでもらうお金を準備しろという事なのだろう。


 納得して冒険者ギルドを出ようとすると、シーラが受付嬢に向かって言葉を発した。


「試験を受けて、最初から高ランクでスタートできる制度はありませんか?」



 その言葉に、受付嬢のお姉さんの表情がちょっと険しくなる……。




現時点での帝国に対する影響度……0.0%


資産

・198万3180ダルナ(-11万3400)

・宝石を散りばめた犬のぬいぐるみ(ちょっとハゲてきた)


配下

シーラ(部下)

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