168 硝石探し
捕虜による情報工作をメルツとエリスに任せ。俺は定期的に支店長さんの所に通って情報収集と帝国軍の動きの監視に当たりつつ、腐葉土堆肥作りや水路作りの様子を見に行ったりして過ごす。
帝国軍の動きとしては、旧王都から救出された偉い人達が支店長さんのいる街に戻ってきた。
それに伴って情報も色々入ってきたようで、俺が掴めた範囲によると、救出されたのは西方遠征軍総司令官だったクシュル侯爵を筆頭に、将軍や上級指揮官39人と、その側近や子弟などを中心に100人ちょっと。
中には西方新領総督で、遠征軍副司令官のグラファス将軍もいたらしい。
大半が貴族や名家の出身である上層部がほとんど無傷で帰還した一方、旧王都には一万人を超える兵士が置き去りにされ、圧倒的な数の教国軍に包囲されて絶望的な戦いを続けているのだそうだ。
唯一の救いと言えるのは、旧王都はロムス教皇国に攻め込む場合の後方拠点だったので、食糧の備蓄が多くあり。食べ物の心配はしなくてもいいし、武器も豊富にあるらしい。
だけどその情報は教国軍にも知られたらしく、前線での食糧不足に悩んでいる教国軍はその食料を奪おうと、旧王都への攻撃を強めているらしい。
帝国軍上層部は『敵に奪われるくらいなら食料庫を燃やしてしまえ』と命令してきたそうだが、自分達を見捨てた指揮官の命令なんて聞くだろうか?
むしろその食料を手土産に教国に降伏する可能性すらある気がするけど、そこは異教徒に厳しい教国に降伏する不安もあるだろうから、どうなるかは分からない。
上級指揮官はみんな逃げてしまったとはいえ、誰か指揮する人はいるはずだから、その人次第だろうか?
俺としては、旧王都の帝国軍がそのまま降伏して食料が教国軍に渡り、それを使って旧王国東部に攻めてくるのが一番困るので、そうならないよう祈るばかりだ。
一方で、教国軍は侵攻当初に国境付近で捕獲した帝国軍の物資を本国に持ち去ったらしく、前線で食料が不足するようになってから慌てて一部の食料を前線に送りはじめるという、非効率な事をやっていたらしい。
この世界では食料は現地調達が基本なので、気持ちは分からないでもないけどね。
そんな訳で、旧王都に篭る帝国軍が降伏しない限り、しばらく膠着状態が続きそうらしい。
そして俺が警戒している帝国軍の騎兵隊だけど、旧王都を囲む教国軍を突破するのにかなりの戦力を消耗したらしく、北部に転用する余力はないっぽい。
まずは一安心だけど、捕虜を使った北部食料不足情報工作はそのまま継続する事にする。
北部で食料が不足しているという情報が帝国に伝わるのは、帝国の注意を西部に向ける効果があるだろうし、元々持て余していた捕虜達だからね。
そんなこんなで比較的平穏のうちに一か月ほどが過ぎ。捕虜を使って北部で食糧不足の情報を流す作戦も上手くいって、今帝国の関心はもっぱら西に向いているようだ。
なのでその間に、俺は硝石探しに出向く事にする。
三月はまだ寒いけど、大山脈の下の方では雪が融けはじめているので、行ける所から順に洞窟を回るのだ。
メンバーはシーラと、元冒険者の隊長二人に率いられた志願兵200人。ティアナさんにも来て欲しかったけど、今は森でのお肉調達と志願兵達への指導に忙しいので、地図を描いてもらって俺のナビ頼りだ。
ちなみに元冒険者の子達は、本来1000人で構成される大隊の隊長をやっているんだけど、この任務にそんな大勢は逆に動き難いので、各隊から選抜した200人の臨時編成である。
……ちなみにメルツとメーアの報告によると、『帝国軍と戦うために反乱軍に志願したのに、訓練はともかく水路堀りや肥料作りばかりでは話が違う』と、不満を持ちはじめている兵士もいるらしい。
気持ちは分からないでもないので、比較的人気の仕事である狩猟とローテーションで回しているが、シーラの見立てでも『兵士達は成果を欲している』らしい。
今回の仕事もコウモリの糞集めだし、そりゃテンション上がらないよね……近い内になにか、成功体験が必要なのだろう。部隊を統率するというのは難しいね。
そんな事を考えつつ、とりあえず今は肥料となる硝石集めを頑張ってもらう。
幸いシーラと隊長二人が率先して作業に当たってくれたので、他の人達も文句を言う訳にはいかなかったのだろう。黙々と作業に当たってくれ、二回の遠征で600袋ほどの硝石……だと思うものを集める事ができた。
本当シーラには頭が上がらないね。そして元孤児の子達も、とてもいい青年に育ってくれた。
集めた硝石は、火薬の原料にするならさらに精製しないといけないんだろうけど、肥料に使う分にはこのままでいいと思う。
採取量が限られるから今年限定か、できて来年までの期間限定農業革命の化学肥料的なものだけど、この一年を乗り越えられるのが俺達にとってとても重要なのだ。
春からの小麦成長期に間に合うよう各地に送り、早速試してもらう。
少量ずつになるだろうから効果の程は分からないけど、少しでも生産が増えてくれると北部解放区の運営上。ひいては反乱軍の運営上とてもありがたい。
クレアさんは硝石を見て少し胡散臭そうにしていたけど、俺の事を信用してくれたのか、同じく胡散臭く感じる人がいてもちゃんと畑に撒かれるよう手配してくれたので、信用に応えるためにも成果が上がるといいなと思わずにはいられない。
他に腐葉土堆肥も投入され、焼き畑と夏育成作物による食料増産計画も、とりあえず順調に始動した。
これも優秀な行政手腕を発揮してくれたクレアさんのおかげである。
――ただ、化学肥料モドキも焼き畑も持続性はない。志願兵の士気や移住して来てくれた人達の事を考えても、なるべく早く事態を動かさないといけないよね……。
そんな焦りの中。春を前に主要メンバー全員に集まってもらって、本格的な軍事行動開始を前にした会議が開かれるのだった……。
帝国暦168年3月15日
現時点での帝国に対する影響度……0.5821%(±0)
資産
・7500万ダルナ(-1340万)
・エリスに預けた反乱軍運営資金 3770万ダルナ(-2387万)
・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)
・エルフの傷薬×1637
配下
シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)
メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)
エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)
ティアナ(エリスの協力者 月給なし)
クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)
オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)
元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)
セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)
ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)
船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)
怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)
キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)




