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166 計算違い

 塩を卸している商会の支店長さんと会って情報を得たあと、一旦中州の拠点へと戻る。


 支店長さんにメープルシロップを届ける訳だけど、せっかくならついでに旧王都救援部隊がどうなったかも知りたいので、その報告が届いていそうなタイミングまで待つ事にして、その間に北部解放区の態勢を整える。


 という訳で支店長さんの所に行く途中で訓練所に寄り道し、メルツとエリス父に状況を訊く。


 それによると、みんなやる気で訓練はとても順調。


 心配していた若い兵士の子達を隊長と認めてくれるか問題も、シーラとの模擬戦で力自慢の大男よりも善戦して見せたのが効いているらしく、部隊としての編成も順調に進んでいるそうだ。


 なので基礎訓練が終わった隊から、灌漑かんがい用の水路作りと、天然肥料である硝石探しに人手を出してもらう。


 落ち葉集めと腐葉土堆肥作りは子供や老人でもそれなりにできると思うけど、水路作りは重労働だし、硝石探しは危険な山へ行く事になるからね。


 さすがに全部の場所に水路を張り巡らせるのは無理なので、効率重視で効果が高そうな場所をクレアさんに選定してもらい、そこを重点的に工事する。


 具体的な内容はクレアさんにお任せする事にして、俺の担当は硝石探しだ。


 ティアナさんからコウモリが沢山いる洞窟を幾つか教えてもらったので、そこを回る予定。


 ただ洞窟は山にあって、今は雪が積もっていて行動しにくいので春まで待つ事にして、それまでの間に訓練所で皮袋の量産をお願いする。


 硝石は水溶性で雨に当たると溶けてしまうので、防水のためだ。


 志願兵の中には元皮細工師だった人もいるので、その人達を中心に作業をしてもらう。


 材料はティアナさんが狩って運んでくれる魔獣があるから、当面はそれを。


 そのうち訓練を兼ねた狩猟部隊を編成したら、その獲物を宛てる。


 ……て言うか、今でも肉を取った後の皮は毛皮や革製品に。骨はにかわの原料にと無駄なく利用しているらしいので、実際は皮の使い道を袋に特化してもらうくらいの変更でしかないんだけどね。


 さすが志願兵達は一般市民から幅広く集まっているだけあって、探せば大抵の職業の専門家が見つかるのだ。


 これからは膠を取った後の骨も、乾燥させて砕いて肥料にしてもらおう。



 そんな訳で各種の段取りを整え、アルパの街にも寄ってエリスとも話をし、経費の清算や各種調整。そして自腹でやりを買い揃えていてくれた事へのお礼を伝える。


 訓練所での感動がちゃんと伝わるように、念入りに感謝を伝えたら、エリスは恐縮して居心地悪そうだったので、そういえばと思い出してめる方に方針転換したら、とても喜んでもらえた。


 優秀な上にいい子で可愛いとか、天使かなにかだろうか? ティアナさんが溺愛するのもよくわかる。


 俺だってシーラという心に決めた人がいなければ、エリスの事を好きになっていたに違いない……。


 頭の中に『ロリコン』という言葉が浮かんだのを無かった事にして、エリスにこれからもよろしくとお願いし、支店長さんの所へ向かう。



 ……もしかしたら帝国軍がいるかなと緊張して街に入ったが、特に見かける事はなく。相変わらずほとんど無人の街だった。


 支店長さんに会って訊いてみたら、この街は北部反乱軍おれたちを攻めるにも、西部に向かって教国軍と戦うにも後方拠点となる場所に位置しているそうで。春になって本隊が来たら司令部が置かれる予定らしい。


 今は警備要員を兼ねた先遣隊が30人ほど来ていて、司令部の開設準備をしているけど、こことは離れた場所なので帝国兵を目にする機会はほとんどないそうだ。


 ……そういえば警備要員で思い出したけど、東部を解放して回っていた時に捕らえた帝国兵の捕虜が100人ちょっといるんだけど、あの人達どうしようかな?


 今は訓練所の一番端っこに隔離された場所を作って、見張り付きで収容しているけど、警備の手間も食料消費もあるので正直持て余し気味だ。


 だけど調査の結果、悪い事をした人達ではなかったので、殺してしまう訳にもいかない。


 かと言って作業を手伝ってもらうには大勢の監視をつけないといけないし、同じ作業をする志願兵達との軋轢あつれきも発生するだろう。


 旧ジェルファ王国民の帝国兵に対する印象は最悪に近いからね。


 その対応まで考えると、対応に当たる人員に直接作業をしてもらった方が効率いいと思う。


 解放するのも選択肢ではあるけど、帝国の戦力を増す事になるので、あまりやりたくない。


 推定される帝国の兵力数万人に対して100人ちょっとだから、微々たるものではあるんだけど、なんか心情的にね……。


 ――とりあえすその事は後日考えるとして、今は支店長さんとの話だ。


 中州の拠点にはメープルシロップが一樽、大体五リットルで小ビン100本分あったので、小ビン100本とセットで支店長さんに渡す。


 住民にお金や食料を配ったと言っていたので代金はもらえないかなと思っていたけど、そこはちゃんと隠し資産があったらしく、一本四万ダルナで400万ダルナを支払ってくれた。


 ぶっちゃけ情報収集と工作活動用なのでタダでもいいくらいだし、以前には情報と交換という事でタダで渡したりもしたけど、今回は支店長さんがお金を渡したがっている雰囲気を感じたので、ありがたく頂戴する事にした。


 住民がほとんどいなくなってしまったこの辺りでは仕入れも思うに任せず、俺からの商品が命綱なので、大切にしたいと思ってくれているのだろう。


 この先も情報が取りやすそうでいい感じだね。


 早速旧王都で包囲されていた部隊の救出作戦について訊いてみた所、支店長さんは渋い表情を浮かべて口を開く。


「救援部隊は包囲網の一角を突破して街の中に入り、立て篭もっている部隊と連絡を取る事に成功したそうです。


 ……ですが全員を救出するのは不可能だとの判断で、重要人物だけを救出し、残りは引き続き守備に当たる事になったそうです……」


 おおう……支店長さん大分言葉を選んだけど、要するに重要人物。多分貴族や上級指揮官だけを救出して、他は見捨てたという事だろう。


 多少は補給もしたかもしれないけど、帝国軍の本格攻勢が始まる予定の春から初夏まで、果たして耐えられるのだろうか?


 教国軍は今回の攻撃で南へ兵力を移しただろうし、それはそのまま旧王都への攻撃圧力が強まる事を意味する。


 上級指揮官達が逃げてしまって士気が下がっただろう軍で、果たしてどれだけ抵抗できるだろうか?


 ……教国軍は異教徒に対する憎しみが強く、降伏して捕虜になっても安全はおろか、命も保証されないというのが戦う動機にはなるだろうけど。それはそれでわりと地獄だよね……。


 思わず帝国兵に同情してしまうが、それはともかく、俺達にとってもよくない情報である。


 教国軍が南に手を取られるのはいいんだけど、帝国軍は退却してきた兵士の救護と、旧王都を占領した教国軍への対応で手一杯になると思っていたのに、ごく一部しか救助しなかったとなると、ちょっと話が変わってくる。


 捨て石にされた兵士達が旧王都を守り続けているなら、救助作戦に使われた騎兵隊が戦力的に浮くのだ。そしてそれは、北の俺達に向けられる可能性がある。


 旧王国東部の食料は、住民と一緒に大半が北部に持ち去られた。


 その食料を奪えば帝国軍の食糧事情は大幅に改善するので、その選択肢が採られる可能性は大いにある……。



 にわかに降って湧いた危機に、俺は顔を青くして必死に対策を考えるのだった……。




帝国暦168年1月29日


現時点での帝国に対する影響度……0.5821%(±0)


資産

・8840万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 6157万ダルナ(-1298万)


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)

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