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164 次なる行動

 食料確保の方法。特に作物の増産についてクレアさんと話をし、有機肥料の生産と焼き畑農業、灌漑かんがい用の水路造りについて情報を提供し、実行の段取りを整えてもらう。


 知識はともかく、実際の運用は俺よりクレアさんの方がはるかに適任だろうからね。


 クレアさんは昨夜よく眠ったのか、目の下のクマが薄くなっていた。


 長い戦いになるので、体調の維持にも注意して頑張って欲しい。


 作業の人員については、志願兵からの派遣についてエリスとメルツに相談してもらう事にして、俺からも一筆いっぴつ手紙を書いておく。


 天然肥料である硝石探しは、山に詳しいテイアナさんに訊いてみたら『コウモリがいっぱいいる洞窟は幾つか知ってるよ。ふんは気にした事ないけど、あるんじゃないかな?』との事だったので、後日人を集めて採取に向かう事になった。



 食糧確保に関する方策はとりあえずそれでいくとして、次の問題は敵の動きだ。


 志願兵をどれだけ食糧生産に回せるか、そもそもそんな事をしている余裕があるかは、敵の動きにかかっている。


 特に重要なのは帝国の動きで、教国の侵攻に対抗するために、大部隊を編成しているはずなのだ。


 差し当たりの最重要課題は、その戦力を教国軍に向けさせる事である。


 ぶっちゃけ、こちらに向かってきたら対応できないからね。帝国軍と教国軍で戦って、戦力を削り合ってもらう事が俺達ほぼ唯一の勝機なのだ。


 帝国の感情を考えてみれば、攻めようとしていた所を先手を取られて逆に攻め込まれ。集めていた兵力と物資に大損害を受けた上に、せっかく支配下に置いた旧ジェルファ王国の西半分を奪った教国軍。


 そしてその隙を突いて反乱を起こし、北部を占領した俺達反乱軍。


 どちらも腹立たしくてたまらない相手だろうから、敵意では甲乙つけがたいと思う。


 ――となるとまずは弱い反乱軍を蹴散らして、横槍が入らない状態で本命の教国軍と戦うのが定石だ。


 だけどそれは、俺達にとって非常に都合が悪い。


 なんとかして、帝国の敵意を教国に向けさせないといけない。


 一方で教国にとっては、俺達も帝国もどちらも異教徒なので、基本敵。


 だけど長年の軋轢あつれきと、強力な相手である事から注意は圧倒的に帝国に向いているだろう。


 俺達の事は、せいぜい混乱に乗じてきた勢力くらいにしか思っていないと思う。


 実際、戦力的には木っ端勢力だしね。


 なので帝国軍が向かってきたら、当然全力で迎え撃つ態勢を取るはずなので、俺達に構っている余裕はなくなると思う。


 俺達は現状、『潰そうと思えばいつでも潰せる』勢力でしかないのだ。


 なのでそれを逆手に取って、とりあえず『後回し』にしてもらえるよう工作したい。


 現状教国に接触する窓口はなく、帝国に接触する窓口も一つしかないので、その一つを利用するべく。俺とシーラは塩を卸している商会の支店長さんに会いに向かう。




 ……支店長さんの店があるのは、旧ジェルファ王国を三分した場合帝国の勢力圏になる街だ。


 そこに向かう途中、沢山の人々が背負えるだけの荷物を背負い、荷車や馬車、本来農耕に使うのだろう牛の背に荷物を満載して、北へ向かうのとすれ違った。


 俺達の呼びかけにこたえて北に移住してくれる人達だけど、沢山の荷物を持って長いヘビのように連なった人の列は、元の世界で見た難民の移動風景を思い起こさせる。


 思わず心が重くなる光景だけど、同じく故郷を後にする人達でも難民と違うのは、大半の人の表情には悲壮感がなく、むしろ明るくさえある事だ。


 移住する人達にとっては今までの帝国支配下の方が悲壮感に満ちていて、そこに長年の仇敵きゅうてきである教国軍が攻めてこようとしているのだ。


 どちらに転んでもロクな事にはなりそうにない中、北部解放区に向かって反乱軍に加わる事。あるいは協力する事は、むしろ希望ですらあるのだろう。


 ……とは言え故郷を離れる事には違いない訳で、お年寄りを中心に一部悲しげな様子の人もいる。


 なるべく早くこの人達が故郷に戻れるように、頑張らないといけないね……。



 そんな決意を新たにしつつ、支店長さんの店がある街へ着いてみると。入口の門番はいないし、街の中もシンと静まり返って不気味な雰囲気だった。


 お店は開いていないし、住居にも人が住んでいる様子がない。


 それでいて荒れた様子がないのは、秩序ちつじょだって整然と退去が行われた事を意味している。


 移住するしないで住民の意見が二つに割れて、争うような事はなかったのだろう。


 反乱軍への支持と信頼に嬉しくなる一方、整然と退去したという事はここに戻ってくる気だという事なので、プレッシャーでもある。


 本来の焦土作戦なら建物も焼いてしまって、敵軍に利用されないようにするらしいけど。それは住民への負担が大きい反面、効果は小さいと思う。


 建物があれば宿に使えるから、行軍や駐留の負担は楽になるだろうけど、それだけと言えばそれだけだ。


 食料が調達できない不自由さに比べれば効果は限定的だろうし、建物を焼いてしまう事による住民への負担と比べると、釣り合わないと思う。


 多分だけど、一般的な焦土作戦で住居ごと焼いてしまうのは、住民を他所に移らせる手段なのではないだろうか。


 普通は命じられても、中々故郷を離れる決断はつかない。土地に生活を依存している農家は特にそうだろう。


 だから無理やり移動させる方法として、家を焼いてしまうのではないだろうか?


 そう考えると、反乱軍への志願のために。あるいは占領者である帝国軍に嫌がらせをするために、積極的に故郷を離れようとする人が多い今の状況は、かなり特殊なんだろうね。


 そんな事を考えながら支店長さんの店に行ってみると、入口の扉は固く閉じられていた。


 帝国と関係が深かった事を考えると、反乱軍の元へ行ったとは考えにくいから……街を出る前の住民に襲われないように、店を閉めているのかな?


 そう考えて扉をノックし、大声で名を名乗ってみると。いかにも慎重にという感じで、そっと扉が開いた。


「あの、支店長さんいらっしゃいます?」


 顔を見せた、見覚えがあるような無いような気がする初老の店員さんに言葉をかけると、向こうは俺の事を知っていたようで、ホッとした様子で中へ案内してくれた。


 やはり、帝国と関係があった事で住民に襲われるのを警戒していたのだろう。


 案内された先にいた支店長さんも疲れた様子で、握手をした手にもあまり元気が感じられなかった。


「大変だったみたいですね、みなさんご無事ですか?」


「塩と食料の在庫を住民に放出したおかげでなんとか襲われずにすみ、人員にも店にも直接の被害は出ませんでしたが、店員の中にも反乱軍に加わろうと北に向かう者が出る始末で、大損害ですよ……」


「そうですか……店が残ったのはなによりですが、経営危ないですか?」


「資金の大半と一部の物資は隠匿いんとくに成功したので、今すぐどうという事はありませんが、住民の大半がいなくなってしまったので、この先の商売は全く見通しが立たない状態です」


 おおう、さすがはベテランの商人。ちゃっかりしている。


 帝国軍が排除された後、帝国と関係が深かった店を襲おうと来た人達がいたとしても、店の前で住民に食料を配っていたら、そりゃ襲いにくいだろう。


 見方によっては、住民に配られる食料を横取りしようとしているようにも見えちゃうからね。


 損失は大きかっただろうけど、店を焼かれて全てを奪われるよりはかなりマシという、とても現実的な判断だったのだろう。


『お疲れ様でした』とねぎらいの言葉をかけ。こちらも大変だった話なんかをしていると少しは元気を取り戻したのか、商人の顔になって言葉を発する。


「それで、アルサルさんはこれからどうなさるおつもりですか?」


「それをご相談に来たんですけど、どうしたらいいと思います? 反乱軍に勝ち目ってありそうですかね?」



 自分が反乱軍の参謀、実質首謀者なのを棚に上げて。俺はいかにも困っている雰囲気を出しつつ、支店長さんに相談を持ちかけるのだった……。




帝国暦168年1月17日


現時点での帝国に対する影響度……0.5821%(±0)


資産

・8840万ダルナ

・エリスに預けた反乱軍運営資金 7455万ダルナ


・元宝石がいっぱい付いていた犬のぬいぐるみ(今はおでこに一つだけ)

・エルフの傷薬×1637


配下

シーラ(部下・反乱軍影の部隊長・C級冒険者 月給50万)

メルツ(部下・反乱軍名目上部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

メーア(部下・反乱軍副部隊長・E級冒険者 月給35万・内15万を上級傷薬代として返済中)

エリス(協力者・反乱軍後方参謀 月給10万と月30万を宿借り上げ代として支払い)

ティアナ(エリスの協力者 月給なし)

クレア(部下・反乱軍支配地内政担当 月給29万 内24万は帝国暦169年5月分まで前借り中)

オークとゴブリンの巣穴から救出された女の人達24人(雇用中・北の拠点生産担当と中州の拠点運営担当 月給12万)

元孤児の兵士達103人(部下・月給3万 兵士97人 北の拠点の船舶担当5人 医療班1人)

セファル(部下・拠点間輸送担当・C級冒険者 月給30万)(弟も冒険者養成所会計補佐として雇用 月給10万)

ガラス職人(協力者 月給15万・衣食住保証)

船大工二人(協力者 月給15万・衣食住保証)

怪我を負った孤児の子達43人(北の拠点で雇用 月給7.2万)

キサ(協力者・遊牧民傭兵 月給48万 帝国暦168年4月まで給料前払い)

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